第22話 謝罪配信

「こんばんれに~」


 真家レニの配信が始まる。いつものように明るく元気な声が響き渡る。


『こんばんれに~』


『こんばんれに~』


『今日の配信wktk』


 リスナーたちが挨拶をする。現状はマナーが保たれているようで、反応はいつも通りだ。

 レニからは反応しないで欲しいと言われているので、満はいつでも配信できる状態にしながら、モニタの前で黙り込んでいる。


(ああ、挨拶もできないなんてもどかしいな……)


 満はそんな事を思いながら配信を見守っている。

 なぜなら、今発言してしまえばコメントに名前が出てしまうのだ。チャンネルにログインした状態で発言すると、ユーザネームがコメントの前に表示されてしまう。そのため、サプライズがサプライズにならないのだ。

 そんなわけで、満はじっと画面の前で黙って構えている。

 配信の冒頭は、いつものように他愛のない話で進んでいく。リスナーたちもお行儀よく聞いているのか、実に平和なコメントで流れていく。

 それも、途中のレニの表情の変化によって空気が変わる。


「えとですね……。実はレニちゃん、みなさんに謝らなければならないことがあるんです」


『急にどうした』


『どしたん、話聞こか』


『ついにきてしまったか・・・』


 真家レニの声の調子が低くなると、一斉にリスナーたちが構えたようなコメントを打ち込んでいく。

 この反応を見て、満ですら察することができた。


「実は……。昨日のオフのなんですが、とある配信者さんのライブ配信にお邪魔して、つい大暴れしてしまったんです」


 レニがおそるおそる口を開くと、ぴたりとコメントが止まった。リスナーたちは黙ってレニの謝罪を聞いているのだ。


「もちろん、謝罪はしました。ですが、正直許してもらえるか、怖かったです」


『ワイ、その配信見てたけど、レニちゃんはいつも通りだなと思った』


『よく今までやらかさなかったと思う』


『元気なこどもを見る親の気分』


『謝れてえらい』


 リスナーからようやくコメントが打ち込まれるが、レニを責めるような言葉はなかった。


「それでなんですが、お詫びに宣伝をさせて頂いた上に、図々しくもコラボをする事にしました」


『マジか』


『たくましいな、レニちゃんwwwwww』


『どうしてそうなるwwww』


『腹いてえ』


 さっきまでの沈黙が嘘のように、反応のコメントがすさまじい勢いで流れていく。

 その画面を見ていた満は、ポンという音で通知が飛んできたことを確認する。

 通知を確認すると、『そろそろ呼びます』とだけ書いてあった。

 内容を確認した満は、ごくりと息を飲む。

 このサイトには、共有配信という機能があって、チャンネルを二分割や四分割にして同時に配信できる仕組みがあるのだ。

 朝にレニから教えたもらった方法で、満は画面に割り込む準備をする。

 再びレニの配信に顔を向けると、画面が二分割されていた。レニの配信は左側に寄り、右側は真っ暗な状態になっている。


『おや、画面が分割されたぞ』


『おいおい、この流れってまさか・・・・・・』


『コラボクルー?』


 リスナーたちが騒めき始める。

 満はドキドキしながら時を待つ。『割込み配信』のボタンをクリックすれば、『レニちゃんねる』に割込み配信が行えるのだ。


「ふっふ~ん。いやぁ、先方が寛大なお方でレニちゃん命拾いです」


『それな!』


「では、お呼びしますよ。新人アバター配信者の光月ルナちです」


 真家レニの声に合わせて、クリックして配信へと割り込む。もちろん、マイクオンも忘れずにだ。


「こんばんはですわ、みなさま。光月ルナ、華麗に見参でしてよ」


 高貴な吸血鬼を必死に演じる満である。


『よくあんな無茶苦茶をされてコラボを受ける気になったな』


『めちゃくちゃにされたとはいえ、チャンネル登録者が500倍だからな。感謝しかあるまいて』


『500wwww』


『ええ・・・(困惑)』


「おほん。それはそれ、これはこれですわ。レニ様には、この僕の配信をめちゃくちゃにした責任はきっちり取って頂かないと困りますわよ。それが礼儀ではございません?」


(わぁ~……。僕は何を言ってるんだ!)


 思ってもいないことを口走る満は、心の中で大慌てである。


『おお、さすが真祖。迫力がちげえ』


『うーん、これは正論』


『この子、新人なんよね?中身詐称してね?』


『まさかの転生か?』


 光月ルナの正体を巡って、リスナーたちの考察が始まっていた。

 失敬な、これでも本当に初心者の現役中学生だと言いたいが言えない満。中身バレは御法度、それがアバター配信者なのである。

 それから30分ほど、レニとルナの二人のトークが続いたのだった。


「あっ、もうこんな時間ですね。長時間になってしまうとちょっとうるさい人がいるのでこれで失礼しますね。ルナちも今日はありがとう、それとごめんね」


「いえいえ。あの程度でいちいち腹を立てていては身がもちませんわ。僕は真祖、細かいことは気に致しませんわ」


「ルナち優しい」


『てえてえ』


『ママぁ・・・』


「だ、誰がママですか。それでは、本日はお招きいただきありがとうございますわ。みなさま、ごきげんよう」


 満は配信終了をぽちりとクリックして、先に配信を終了させる。


「それでは、今日はみなさん、急な配信にお付き合い頂きありがとうございました。ルナちのチャンネルも登録してあげてね、おつれに~」


 こうして、無事に真家レニの謝罪配信は終わりを告げたのであった。

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