第21話 配信後の驚き
配信の翌朝、まだ夜が明けきらないうちに満の目が覚める。
時計を確認するとまだ4時10分だ。相変わらずの早寝早起きである。
いつものように手洗い洗顔を済ませると、満はパソコンを立ち上げる。昨日のショックからまだまだ回復していないとはいっても、自分のチャンネルは確認せざるを得ないのだ。
だが、そこで満が目にしたのは、驚くべき数値だった。
「えっ? えっ?!」
昨日と比べてチャンネル登録者数が500倍に膨れ上がっていた。
50人に満たなかった登録者数は、寝ている間に2万人を突破していたのだ。
当然ながら混乱する満は、自分のほっぺたを思い切りつねってみる。
「……痛い。夢じゃないや……」
嬉しい反面、急に登録者数が増えたことで、満は恐怖を覚える。
原因を探るためにSNSにもチェックを入れる。その中にこんな通知を見つける。
『真家レニ@アバター配信者さん他56人があなたのポストをリポストしました』
なんと、真家レニが自分のチャンネルを広めてくれていたのだった。しかも満の感覚ではかなりの人数が広めてくれている。
真家レニが注目しているアバター配信者なら、見てみよっかというような風潮なのだろう。驚くと同時に満には重いプレッシャーがのしかかってくる。
それは当然ながら、急激に増えた登録者の数が原因だ。それだけ多くの人に見られる可能性があるので、配信の内容というものにそれなりの質が求められるようになるだろうから。
まだまだ暑い時期ではあるものの、満は思わず身を震わせた。
SNSのフォロワーも1000を突破。瞬く間に新人のマイナー配信者の域を脱出してしまった満なのである。
手どころか全身を震わせながら、満は再び自分のチャンネルを確認する。すると、通知に何やらマークがついていた。
(あれ。なんだろう、これ)
ポチッと通知の封筒マークをクリックすると、通知の受信フォルダに移動する。
通知の中身を確認してさらに驚愕する満。
『収益化基準到達のお知らせ』
『レニちゃんからのお誘い』
通知には2件あったが、どっちも驚きの内容である。
満はまず一つ目に目を通す。
投稿動画としてはまだ5つと少ないのだが、昨日のレニの一件で一気にチャンネル登録者数と再生回数が跳ね上がった。おかげで一気に基準へと到達したようなのだ。
ただ、チャンネルの登録から日数が浅いので、申請まではまだ日数を要する模様。収益化するにはチャンネル開設から最低一か月待たないといけないようだ。ちょっと残念と思いながら、満は次の通知へと移る。
もう一つは真家レニから送られてきたものだ。昨日の今日でどんな挨拶が来るのか、ドキドキする満。なにせ満は真家レニのファンなのだ。憧れから連絡が来たとなると、それはもう心臓が飛び出る思いである。
緊張で手が震えながらも、満は通知の内容を確認する。
『ルナちへ
昨夜の配信ではごめんなさい。お詫びに宣伝させて頂きました。
それで、図々しいのは承知ですけれども、今夜の配信においで下さると嬉しく思います。内容は謝罪なのですが、ゲストとしてお呼びしたく思います。
一つの配信に割り込む方法を記載しておきますので、お試し下さい』
なんと、共同配信のお誘いだった。
正直なところ、本当なら配信に割り込んでめちゃくちゃにされたのだから許したくはないだろう。文面だってどっちか言うと偉そうである。
しかし、満にとってはチャンスであるのもまた事実。怒る気持ちよりもワクワクの方が勝ってしまう満なのである。
いろいろと考え込んだ満は、真家レニへの返信を打ち込む。
『真家レニ様へ
お誘い大変嬉しく思います。共同配信の件、承知致しました。
僕は真家レニ様のファンでございますので、配信は最初から拝見させて頂きます。
心の準備はしておきますので、お好きなタイミングでお呼びいただいて結構です。
それでは、配信を楽しみにお待ちしております
光月ルナ』
文面を何度も確認して、えいやっと送信ボタンをクリックする満。
「うわぁ、もう外が明るくなってる……」
真家レニへの返信を書き終わった満が時計を確認すると、6時11分を示している。真家レニへの返信で1時間くらいかけてしまっていたようだ。そのくらいに言葉遣いや言い回しというのに気を付けたのだ。相手が憧れの相手であるのでなおさらである。
ひとまずやることを終えた満は、風斗のいとこたちにも連絡を入れておく。もちろん内容は真家レニとの共同配信のことについてだ。本来なら外部に漏らすべきではないだろうが、あの二人もチャンネルの共同運営者といってもいいので、当然の相談といえる。
しかし、時間としてはもう待っていられない。なにせもう学校へと向かう時間だからだ。
(いろいろあってまだ気持ちの整理がつかないけど、今夜は楽しみだな)
満は軽い気持ちで考えていた。
二人からの返事も待つことなく、満はバタバタと朝食を食べて支度を済ませる。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
母親に見送られながら、満は実に前向きな気持ちで登校していったのだった。
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