第25話 満の家でのひと騒動
「はあ~……」
「どうしたんだ、満。くそでかため息なんてついて」
翌日の学校で落ち込む満に、風斗が思わず声を掛けてしまう。
「あ、風斗。うん、まぁちょっとね」
「なんか言いづらそうだな。久しぶりに家に遊びに行くか」
「うん、聞いて欲しいかな」
なんだか様子のおかしい満を見て、風斗は何かを察したらしい。満は相談できる相手が限られる話題なだけに、風斗からの申し入れを受け入れる。
満が今悩んでいる話は風斗しか知らないので、仕方ないというものだ。放課後、風斗は久しぶりに満の家を訪れることになった。
「よく思えば、お前んちに行くのも久しぶりだな」
「だね。大体は風斗の家で待ち合わせて外で遊ぶくらいだったもんね」
満の家に向かいながら、のんきな話をする。
親友だというのにお互いの家を訪れて遊ぶということはほとんどなかった。今回満の家に上がるのは、一体いつぶりなのかと思う風斗なのである。
なので、今回初めて自分のいとこが満に送り付けた物品を初めて目の当たりにする。
「なんていうか、世貴にぃと羽美ねぇ、とんでもないものを送りつけてきたな……」
「うん、中学生が持ってていいのかなって思ったよ」
高性能パソコンにモーションキャプチャ一式。机の上に転がる『SILVER BULLET SOLDIER』のパッケージ。普通に買えばいったいいくらかかったのか分からない。
いくらいとこの友人のアバター配信者としてのデビューのご祝儀だとしても、少々ばかり過剰な投資だと思える。
満はパソコンを起動して、自分のチャンネルのページを開く。
「うわぁ、チャンネル登録者が四万人突破してるじゃないか……。昨夜の配信がやっぱ効いてるかな」
「僕、昨夜の配信の記憶がないんだけど? 何があったんだよ」
「は?」
満から飛び出た言葉に、思わず表情が歪む風斗。
「いや……、確かにそうかもしれないな。振る舞いはお前のようだったが、なんかこう違和感が……」
「風斗?」
親友の様子を見て、満はついつい顔を覗き込んでしまう。
「いや、昨日の配信なんだがな、声や言葉遣いはお前なんだが、伝わってくる雰囲気がなんか違ってたんだよな……。まさかそれって」
風斗がそういった瞬間だった。
「あ、う……」
「満?!」
急に満が苦しみだしたのだ。慌てて肩に手をかける風斗。
やがてがくんと首を垂れた満。
次の瞬間、風斗の目の前で信じられないことが起きた。
「な……に……?!」
じわじわと満の体に変化が現れる。黒色の髪はじわじわと色が消えていき、体もどことなく少し細くなっていく。
「きゃあ、満?!」
「おばさん?!」
なんて事だろうか。そのタイミングで満の母親も入ってくる。手にはジュースとお菓子の乗ったお盆が持たれているが、驚きながらも絶対落とさないようにしっかりと握りしめていた。
満の変化が落ち着くと、俯いた頭が起き上がる。
「すまんな。妾自らが説明した方が早いと思うて、意識を乗っ取らさせてもらった」
「だ、誰だ?!」
「ちょっと、あなた誰なのよ」
机にお盆を置いた満の母親も参戦して、変身した満を問い詰める。
「妾か? 妾は偉大なる吸血鬼ルナ・フォルモント。ちょっとした偶然でこの満の体に同居させてもらっておるのだ」
「吸血鬼?!」
風斗と満の母親が驚いて、お互いの顔を見る。そして、再び吸血鬼ルナを見る。
「この満が配信で扱うアバターが、妾の姿と酷似しておっての。それと、妾と波長が近いとあってか、こうやって入り込めるようになってしまったのだ。まったくの偶然だぞ」
堂々とした態度で事情を説明する吸血鬼ルナ。
風斗と満の母親は信じられないことを聞いているが、目の前での変身を見てしまった以上、信じるしかないというものである。
「うちの子は、無事なんですかね」
「心配は要らぬ。妾が食事をして満足すれば、しばらくして姿も意識も戻る。なに、ちょこっと血を吸わせてもらえればそれでよい」
右手の甲を顎に当てながら、くすくすと笑う吸血鬼ルナ。
「昨夜の配信に感じた違和感は、これか……」
「左様。あんな腕前を見せられたのでは、妾が我慢できなくてな。こんなにわくわくしたのは、いつぞやぶりだろうな。くくくく……」
吸血鬼ルナが不気味に笑っている。
ところが、突如として吸血鬼ルナはふらりと体勢を崩す。思わず風斗が受け止めてしまう。
「くっ、やはり不完全な復活では意識が安定せぬな。まだ日の光が出ている時間。意識は満に返すとするか……」
軽く頭を左右に振る吸血鬼ルナ。
「それでは、また夜にでも会うとしようぞ、満の母君」
がくんと頭を前に倒して意識を失う吸血鬼ルナ。
「あ……れ……、僕、寝てた?」
がくんとした瞬間に、満の声が聞こえてくる。
「うわぁ、風斗?!」
顔を上げると目の前に風斗の顔があって驚く満。それと同時に自分の体勢に気が付いて二度びっくりである。
「うわぁ、また女になってるぅっ!」
「なに、女の子?!」
満が叫んだ瞬間、満の母親の目がきらりと光った気がした。
「お母さん、その目は何?」
思わず身の危険を感じる満。
「おばさん、とりあえず状況を満に説明しましょうよ。満、お前も全部話してくれ」
「えっ、うん。とりあえず理解できないけど分かったよ」
なんとも複雑な気持ちを抱えながらも、満と母親、そして風斗の三人で事情の説明のしあいとなったのだった。
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