第17話 ゲーム実況配信しますわよ

 満は翌日の朝、目を覚ますと早速パソコンへと向かう。それというのも、今夜の配信の予告を出すためだ。


「『いい朝を迎えましたかしら。本日の夜21時より、配信を行いますわ。内容は秘密に致しますわね。見てのお楽しみですわ。それではおやすみなさいませ』っと。これでいいかな」


 何度も文面を確認して、大丈夫と確信したところで『ポストする』をクリックする満。ちゃんとタグも『#アバ信告知』『#新人アバ信』と入れておく。

 ちなみにこの『アバ信』という単語だが、『ター配者』の略である。やっぱり長いのだ。特にSNSでは文字数制限がある。十分な告知を出すには削れるところは削らざるを得ないのである。


「さぁ、今夜は頑張るぞ」


 気合いを入れた満は、慌ただしく学校へと向かっていったのだった。


 そして、迎えた放課後。お風呂と食事と宿題を終えた満は、今日の配信の準備を始める。


「わわっ、登録者数が増えてる」


 思わずびっくりしてしまった満。なにせ、朝見た時に比べて二人も登録者数が増えているのだ。まだまだ二桁前半ではあるものの、一人でも増えると嬉しくてたまらないというもの。それが新人なのである。

 配信を前に、肝心のゲームを起動しておく満。銀の弾丸シューティングゲーム『SILVER BULLET SOLDIER』、今回の配信でプレイするゲームだ。

 アカウントの名前はちゃんと『光月ルナ』で登録してある。さすがにこんなところで身バレをするわけにはいかないからだ。

 ドキドキとしながら配信時間を迎える満。

 時計が21時を示すと同時に、配信開始のボタンをクリックする。配信窓に『LIVE』の文字が浮かび、配信中であることを示している。


「おはようございますわ、みなさま。光月ルナでございますわ」


 3回目の配信ともなれば、落ち着いた様子で喋られるようになってきている。お嬢様言葉もスムーズだった。


『おはよるなー』


『おはよるなー』


 すでに3回目にして、リスナーの挨拶が統一されてしまっていた。『おはよう』+『夜』+『ルナ』で『おはよるな』、シンプルで分かりやすい。


『今日は何を見せてくれるんだ、わくわく』


『告知見て来たどー』


 配信告知を朝だけにしかしなかったものの、意外と集まってくれたリスナーたち。既に期待にわくわくとしているようだった。


「はい、今回の配信で行うのは、ゲーム実況でございますわ」


『ゲームだって?!』


『おうおう、何を見せてくれるんだ』


 食い気味なリスナーたち。人数は少ないとはいえど、かなり盛り上がっている。

 そこで、満は画面を操作して、遊ぶゲームの画面を配信画面上に表示させる。それを見た瞬間、リスナーたちからは『w』の連打である。


『よりによってそれかい』


『吸血鬼がするゲームじゃないだろwww』


『おwなwかwいwたwいw』


 ここまで受けるのにはわけがある。

 画面に表示されたゲームのタイトルは『SILVER BULLET SOLDIER』である。吸血鬼である光月ルナが、吸血鬼の弱点である銀の弾丸のゲームを実況プレイするとあって、リスナーたちはものすごく盛り上がっている。


『こいつはネタとして面白い』


『俺、ダチを誘ってくるぜ』


『こないだレニちゃんが遊んでたやつか。ルナちってもしかしてレニちゃんのファンか?』


 ぎくり。


『ファンだろうとなんだろうと、あれから今日までたった数日だぞ。それをやろうなんてそもそも狂気の沙汰じゃまいか』


『キャラも相まってネタ感半端ない』


 リスナーは好き勝手言って盛り上がっていく。


「それでは始めて参りますわよ」


『おk』


『wktk』


 リスナーたちの反応困惑しながらも、満はゲームを始める。


『あー、やっぱ第三者視点か』


『ビギナーにFPSモードはきついぞ』


『わい、そのためだけにヘッドギアを買った』


『お買い上げありがとうございますwwwww』


 リスナーたちの会話をよそに、満はストーリーモードの第一章を始める。


「昨日、慣らすためにチュートリアルをしてみたのですが、それだけで何度も死んで危うく心折れかけましたわ」


『わかるマン』


『分かる分かる。説明少なすぎるんよ、このゲーム』


『チュートリアルで説明なしに挟み撃ちだからな。前からの出現に驚いてたら同時に後ろからきてあぼーんだったぜ』


『月額課金でそれかよwwww』


 満が一つ話しただけで、リスナーたちが思いの外盛り上がる。


「あっ、ここで依頼を受けるのですわね」


 ストーリーを進めていた満。どうやら村にいるNPCから依頼を受けてクエスト発生のようだった。


『きたきた』


『ネタバレはよくないぞ。ここまで見ていて、ルナちはおそらく初見。おまいら、ネタバレ厳禁な』


『りょ』


 なんともお行儀のいいリスナーたちである。

 その肝心の満だったが、ストーリーモードのあまりの恐怖に、感想を言うよりも悲鳴の方が多くなってしまっていた。

 中の人は少年だというのに、悲鳴がまるで女の子。リスナーたちはその様子をにこやかに見守っていた。


「や、やっと第一話が終わりです。第一章って何話あるのかしら……」


 恐怖に叫びすぎて、息が上がってしまっている満である。


『おつおつ』


『乙』


『章に関しては今後にいくつか追加予定。現在確認されているだけで十章まである』


『それぞれは五話仕立てだから、最低五十話だね』


「じょ、冗談でしょう?」


『ホラーシューティングで青ざめる吸血鬼、イイ……』


 青ざめの表情に切り替えると、リスナーがどういうわけか恍惚している。変わった趣味のリスナーばかりのようだった。

 その時だった。

 ポーンという音ともに、何かが画面上にポップアップされた。


「あら、何かしらこれ」


『おっ、共闘クエストのお誘いだぞ』


 満と同時に、リスナーも反応する。

 ところが、そこに表示されていた名前に満もリスナーも固まってしまうのだった。

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