第16話 ゲームに手を出してみた
真家レニの配信を見た翌々日のこと、帰宅した満の手元にとあるゲームが置かれていた。
『SILVER BULLET SOLDIER -online-』
おとといのレニの配信で実況されたゲームである。
実は、おとといのレニの配信の後、アバターを作ってくれたウェリーンとウォリーンの二人に相談を持ち掛けていたのだ。
その際のやり取りの最後に「じゃ、送るね」とだけ書かれていたのだが、本当に送られてくるとは思わなかった。
ただ、このゲームは月額制で、利用はひと月500円。年間で払えば10%OFFで5,400円となっている。中学生のお小遣いではなかなかに厳しい金額だ。
ひと月でも支払えばその後は半年間アカウントは維持されるようで、その期限を迎える前に再度課金すれば削除期限は延長される。しかも、削除半月前にはリマインドメールも来るので、そこそこ親切な運営のようだ。当然ながら、支払っていないとゲームはできないわけだが。
(ゲーム本体も値段が張るだろうし、僕、ますます配信者を引退できないな……)
風斗のいとこ兄妹の手によって、どんどんと退路を断たれていく満である。なにせ添えられていた手紙には、「初月の料金は添付したギフトカードで払ってくれ」とまで書かれていたのだから。実際にネット決済用のギフトカードが入っていたから困ったものだ。
(同封じゃなくて添付というあたりが、世貴兄さんらしいよなぁ……)
思わずくすくすと笑ってしまう満だった。
落ち着いたところで満は早速インストールしてゲームを遊んでみることにした。
いきなり親権者の同意云々という項目が出てきたので、満は律儀に母親に許可を取りに行く。ゲームと聞いていい顔はしなかったものの、配信者をするためだというと二つ返事で許可を出してくれた。
その返事をもって部屋に戻った満は、手続きを再開する。支払いの項目でオンライン決済から選択をするが、どうやらその前にチャージをしておかなければならなかったようだ。
どうにかこうにかギフトカードの設定を終えてゲームを始める満。配信で見た通りのおどろおどろしいトップ画面が表示され、思わず息を飲んでしまう。
(怖いけど、やるしかないんだ)
満はエンターキーを押してゲームをスタートする。
ゲームの操作に慣れるために、チュートリアルのあるストーリーモードで始める。
このSILVER BULLET SOLDIERはFPSモードと第三者視点のモードが選べるものの、FPSモードは首の動きも再現するために、専用のヘッドギアがないと操作の難易度が格段に上がるようだった。
そんなわけで、ゲーム初心者の満は第三者視点でゲームを始める。
(そういえば、レニちゃんはFPSモードでやってたな。相当にやり込んでいるんだろうなぁ)
ぼんやりとそんな事を考えながら、満はチュートリアルを進めていく。だが、そんな余計なことを考えながらクリアできるほど、このゲームは甘くなかった。
「わわっ、また死んだ。これチュートリアルだよね?!」
すでにチュートリアルをクリアできないまま3回目のゲームオーバーである。これではクソゲーである。
悲しいかな、満にはゲームの才能がないようだった。
その時だった。
「か……は……」
満は突然の動悸に襲われて、思わず胸を押さえる。
『しょうがないのう。妾が少し力を貸してやろう』
脳裏にそんな言葉が響いた気がした。
しばらくすると満は落ち着きを取り戻す。
「な、なんだったんだ、今のは……」
呼吸を荒げて満が胸に手を置いた瞬間だった。信じられない感触に思わず跳び上がってしまう。
「ええ、これってまさか……」
ちらりとシャツの襟もとを持ち上げて覗き込むと、そこには間違いなく本来ないはずの膨らみがあった。
「わわっ、また吸血鬼の姿になってる……」
モニタの画面を覗き込んだ満。そこには銀髪をなびかせた美少女がいたので、間違いなく変身していた。
「はあ、この姿じゃ部屋の外に出れないな……。お母さんたちに見つかったら、なんて説明しよう」
黒髪短髪の少年が銀髪長髪の美少女になっていたのだ。それはもう姿が違い過ぎて恥ずかしい限りな満である。
仕方ないので、吸血鬼の姿でゲームを再開する満。
「うん?」
するとどうしたことだろうか。さっきまでとは違ってサクサクとゲームが進んでいく。ゲームの中の動きがスローモーションに見えるのだ。
(すごい、これが吸血鬼の能力なのか……)
『どうじゃ、すごいであろう。その代わり、後で食事はさせてもらうぞ』
そんな声が聞こえた気がした満だったが、すっかりゲームに集中してしまって気のせいだとさらりと聞き流してしまった。
「はあ、これなら明日にでも配信できそう。よーし、頑張って収益化を目指すぞ!」
チュートリアルと第一話を突破して、満は満足そうに両手を突き上げてやる気十分だった。
声自体は満そのものなので、多少騒いでも両親は気に留めることはなかった。
「うーん、この姿をどうにかしたいけど、もう眠いから寝ちゃおうかな」
ゲームを終えた満は背伸びをしながら布団へと入り、そのままぐっすりと眠ってしまった。
その満は、真夜中に突然立ち上がる。
「やれやれ、げえむとやらそんなに面白いのかね。とはいえ、吸血鬼の苦手とする銀の弾丸を扱うとは、妙に気を引かれるわい」
自分の弱点である銀の弾丸をテーマにしたゲームに、吸血鬼ルナはくすくすとおかしそうに笑っていた。
ガラガラと窓を開けて念じると、目の前に黒いもやが集まってくる。
「さて、妾は食事をしてくるとしようか。少年を本来の姿に戻さねばならんからな」
吸血鬼ルナは夜の街へと飛び去っていったのだった。
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