第13話 邂逅
自宅に戻った満は、ついつい習慣ですぐにパソコンの電源を入れて自分のチャンネルをチェックする。
動画の再生もそこそこあるようで、チャンネル登録者数が少し増えていた。
(あっ、見てくれてるんだ……)
満は嬉しく思いながらSNSの方もチェックする。フォロワーが同じく微増である。
嬉しいのは嬉しいのだが、自分の使っているアバターを見ると、不意に今日のことが思い出される。
自分がアバターの姿になっていて、しかも親友である風斗に襲い掛かってしまった。その風斗がまったく覚えていないので夢だとは思いたいものの、自分の口にその時の感触が残ってしまっている。
(ダメだ、今日は触る気になれない。配信を始める前の生活リズムでさっさと寝てしまおう)
せっかくアバター配信者としてスタートを切ったというのに、思わぬトラウマ級のできごとがあったために、満はこの日はアバター配信から離れたのだった。
宿題を終えて、翌日の学校の準備を終えた満。
時計を見ると夜の10時41分。大好きなレニちゃんの配信も今日はないので、もうやることがなくなってしまった。
なので、早いけれども満は眠ることにしてベッドの中へと入る。そして、そのまままどろみの中へと落ちていった。
眠ってしばらく、満は不思議な夢を見た。
「うん……、ここは?」
「ここはそなたの夢の中だよ、我が恩人」
夢の中で目を覚ました満に話し掛けてくる人物がいた。
「うわっ、誰?!」
声に驚いて左右を見回す。
だが、予想外なことに、声の主は上からゆっくりと正面に降りてきた。
「会うのは二度目だが、初めましてと言うておくべきかな」
そう話すのは、満のアバターそっくりな銀髪美少女だった。その姿を見て、思わず後退ってしまう満。
そして、アバターそっくりな美少女が指を鳴らすと、周りの景色はルナの配信時の背景へと切り替わった。
「ようできておるな、この背景は。妾のかつての根城を思い出す」
「あ、あなたは一体……」
怖くなりながらも、満は目の前の美少女に問い掛ける。
満の問い掛けに、銀髪美少女はにやりと笑って答える。
「妾か? まぁいいだろうて。そなたは先程も言うたが、妾の恩人。名乗らぬは失礼というもの」
どことなく偉そうな銀髪美少女だ。衣装も満のアバターであるルナのものとよく似ている。
「妾は『ルナ・フォルモント』。吸血鬼の真祖たる一族の末裔ぞ」
「吸……血鬼?」
「左様」
驚きで固まる満に、堂々とした態度のまま反応する吸血鬼ルナ。
その吸血鬼ルナがいうには、複数の条件がたまたま重なって、満の体の中に自分の力が流れ込んでしまったというのだ。
「もしかして、今日、僕があなたの姿になったのって……」
「左様。妾の吸血衝動がそなたの体に影響を及ぼしたのだ。血を求めるがあまり、妾の深層意識がそなたの体を乗っ取ったのだろう。ただ、意識までは奪えなんだから、あのような感じになってしまったがな」
吸血鬼ルナの証言に、満は黙り込んでしまう。
「心配するな、空月満よ。吸血はただの食事だし、妾はそう多く血を欲せぬ。妾が噛んだとて相手が吸血鬼になることはないし、死ぬこともあり得ぬ。ただ、後々面倒なゆえに、記憶は消させてもらうがな」
「はっ! もしかして風斗が覚えていなかったのって……」
「うむ、妾が記憶を消しておいた。噛まれて血を吸われたなど、後々禍根を残すのは分かっておるからな。吸血鬼とはいえ、そこまで非情ではないぞ」
吸血鬼ルナは真面目な表情で答えている。
「妾としても不思議なのよな。この電子の世界とやらに封じられた事からして妙だし、たまたま同じような姿のアバターとやらを使っているからといって、その者の意識の中に浸食したり。妾とてまったく理解が追いつかん」
「……あなたの目的は何なのですか」
腕を組んで唸る吸血鬼ルナに問い掛ける満。
「妾の目的か? そうだな、妾を封印した退治屋とやらに仕返しする事だな。妾とて時代に合わせて生きてきた身だ。妾の静かな生活を壊しおったから、ぎゃふんと言わせてやりたいのだよ」
吸血鬼ルナの目的を聞いて、満は思わず驚きで沈黙してしまう。
「今の時代、人殺しはご法度だろうが。放っておいてくれと連中に言い聞かせるだけだ」
満の反応がないことに、吸血鬼ルナは困った顔をする。
「妾は平和主義ぞ。誰とて自分の身を守るためには抵抗するものだろう?」
「確かに、そうですね」
吸血鬼ルナの言い分に納得する満。そして、悩んだ末に質問をする。
「僕はどうしたらいいんですかね」
「なに、これからも光月ルナとして活動してくれればよい。妾とのシンクロ率が高まれば、吸血衝動もコントロールできるようになるだろう。妾とそなたを切り離すのは、おそらく妾の完全復活までは無理だ」
吸血鬼ルナにきっぱりと言われて、思い悩む満。
「妾とはしばらく運命共同体だ。必要ならば夢の中でならこうやって話ができるから、相談に乗ってやれることはできる。あのばあちゃるという空間でも具現化できればもう少し違うだろうがな」
吸血鬼ルナはそう言いながら、満へと近寄っていく。
「というわけだ、少年よ。これからも頼むぞ」
吸血鬼ルナにポンと肩を叩かれると、満は答える事も叶わずに再び意識を失ったのだった。
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