第3話 準備は大変だ
「風斗ーーっ!!」
翌日、満は友人にダイレクトアタックを仕掛けていた。
その理由はいわずもがな、送られてきた3Dモデルアバターのことである。
「おう、満。どうだ、気に入ってくれたか?」
「なんであんなのが送られてきたんだよ」
満が起こっている様子を見て、風斗はあっさりとその理由を悟った。
「あー、そうか。羽美ねぇのせいだな。うんうん、分かる分かる」
風斗は一人で納得してしまっている。
「満、今日は遊びにいかせてもらうわ。俺も見てみたいからな」
怒ったように頬を膨らませながらも、満は風斗に対してこくりと頷いて了承したのだった。
そして、放課後を迎える。
満は風斗を連れて自分の部屋へと戻る。
そして、すぐさまパソコンの電源を入れて3Dモデルの画面を開く、それを見た風斗は思いっきり笑い始めた。
「ぎゃははははっ、なんだこりゃ。羽美ねぇならやりかねないとは思ってたけど、それ以上に趣味入りまくりじゃねえか」
風斗がゲラゲラと笑い転げている。お腹まで抱えてかなり大げさな笑いだった。
そこへ満の母親がやって来る。
「あらあら、ずいぶんと大きな笑い声ね。どうしたのかしら」
「あ、おばさん。ちょっと聞いて下さいよ」
「お、おい、風斗。勝手に全部話す気かよ」
母親に全部話そうとする風斗を、俺は必死に止めようとする。だが、風斗は止める気配がないどころか、満に反論してきた。
「お前な、今の年齢考えてみろよ。中学生がこういうことを勝手にさせてもらえると思うか?」
「あ……」
満は風斗の指摘にハッとする。
そう、今の満は十三歳だ。となると、大概何をやるにしても親権者の同意が必要になる。そのことをすっかり失念していたのだ。
ましてやアバター配信者ともなると、収益が発生する可能性があるし、となると振込口座の設定とかいろいろと面倒なことが待っているのだ。そうなれば、さっさと母親くらいにはばらしておく方が後々楽というものである。
そんなわけで、満は母親にすべてを打ち明ける。
ところが、母親は驚いたようだったが意外とすんなりと了承してくれた。
「ただし、お父さんには内緒よ。絶対反対するから」
こう付け加えてはいたものの、やれるだけやってみなさいというスタンスのようだった。収益用の口座は、お年玉貯金用の口座を使っていいと許可してくれた。拍子抜けするくらいにあっさりである。
母親からの了承を得たことで、満は安心してアバター配信者を始められることになった。
風斗と一緒に改めてアバターの3Dモデルを見る。
画面に映るのは少女風のアバターだ。銀髪翠眼のロングヘア。ホルターネックのミニスカートのワンピースにサイハイソックス、編み上げのハイヒールロングブーツ、それに襟がピンと立った長いマントをまとっている。色白の肌に赤と白の基調とした衣装、それに黒色のマントが目立つその姿は、まるで吸血鬼のようだった。
「お、見ろよ満。ここに添付情報があるぞ」
「あっ、本当だ」
どうやらキャラクターの設定を書いたメモファイルのようだ。
添付ファイルによれば、名前は『
改めて3Dモデルを見ると、細かいところまで作り込まれている。
「満の声が女の子っぽいもんだから、面白がってキャラを考えたんだな。世貴にぃも世貴にぃで本気でモデル作り上げてるし……。とはいえ、これだけ送ってくるってことはただ面白がってるわけじゃなさそうだよな……」
風斗は目の前のパソコンやらモーションキャプチャやらを眺めて、困惑を隠せなかった。
「とりあえず動かしてみようぜ、満」
「うん、そうだね。ちゃんと動くかどうか確かめてみないとね」
一緒に入っていた取扱説明書を見ながら、満は風斗と一緒に設定を進めていく。その説明書は非常に分かりやすかったので、中学生二人でもどうにかこうにか一時間程度の作業で設定することができた。
設定を終えると、次はモーションキャプチャを装着して、自分とアバターの動きが連動するかの確認だ。
装着して同期を開始させると、早速満はその場で適当に動いてみる。
「わわっ、本当に動いている」
「おい、あまり飛び跳ねるな。アバターの服装をよく見ろ。あの世貴にぃに設定だ。物理演算がしっかりしてるはずだからな」
しかし、風斗が注意した時には遅かった。満がジャンプしたのに合わせてしっかりとスカートがふわふわと動き、最終的にはめくれ上がっていた。
思わず目を逸らす二人だったが、それはどうやら杞憂だったようだ。
「なんだ、スパッツ穿いてたたのか。あー、よかったぜ」
謎の安心をする風斗である。
確認中にいろいろあったものの、どうにか動作確認を終えた満と風斗は、早速動画投稿サイトにアカウントを作成する。その最中、ふと風斗が何かに気が付いたようだ。
「チャンネル名どうするよ」
「あ、確かにそれは大事だね」
そう、配信を行うためのチャンネル名だった。
しばらく二人でうんうんと唸りながら考え込む。そうして、ようやくチャンネル名が決まり、アカウントの作成が終わった。
「いよいよ配信者になれるんだね」
「だな。配信を行えるようになるにはちょっと時間がかかるみたいだから、それまでにいろいろチェックしておこうぜ」
「うん」
あーだこーだとやっているうちに、辺りはすっかり真っ暗になっていた。なので、風斗は満の母親に家まで送ってもらうことになった。
「初配信、楽しみにしてるぜ」
「うん、頑張ってやってみるよ」
グータッチをすると、風斗は家へと帰っていったのだった。
一人家の中に戻る満は、いよいよ憧れのアバター配信者になれると、つい気持ちが高ぶって何度も玄関で飛び跳ねていたのだった。
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