第4話 甘く見てはだめでした
翌日、登校した満は非常にご機嫌だった。
「よっ、満。その様子だとあらかた試し終えたってところかな?」
「ああ、モーションキャプチャーもちゃんと僕の動く通りにアバターを動かしてくれていたよ。後はどういったネタで配信を始めるかなんだよね」
「それは問題だな。新人ともなると、最初のうちは頻度を持たせておかないと、あっという間に流れて忘れられちまうからな」
やけに『あっと』の部分に力を込めて発言する風斗である。
だが、残念ながらこれは審理で、アバター配信者だけでもかなりの人数が存在している。それこそ印象を残す事ができなければその他大勢の一人として、あっという間に配信戦国時代の波に飲み込まれてしまう。
満がファンになっている『真家レニ』だって、よくある幼女系アバターである。彼女はその愛らしい見た目と天真爛漫さに加え、時折見せる知的でミステリアスな魅力のギャップで人気を得ているようなものなのだ。
「とりあえずはレニちゃんを参考にしてみようかな。他の配信者のことはよく分からないし……」
「本当にお前って真家レニの事が好きなんだな。でも、お前があのアバター配信者ほどのトークができるとも思えないんだよなぁ」
頭の後ろで手を組みながら、少し後ろへと体を逸らす風斗。
「よし、当面はお前の配信を手伝ってやるよ。一緒に考えれば何かネタくらい浮かぶだろう」
「あ、うん。よろしく頼むね、風斗」
満と風斗がこつんとグータッチをする。
その時だった。
ガタンという音が教室内に響き渡る。
「うん?」
二人揃って振り返ると、そこでは一人の女子生徒が椅子から転げ落ちていた。
「なんだありゃ……って、
「えっ、花宮さん?」
風斗の反応に慌てふためく満。まったく一体どうしたというのだろうか。
だが、満が慌てている間に別の女子生徒が近付いて助けられていた。
「まったく、
「あははは、ごめん。心配かけちゃったね」
「まったくぅ」
助けてくれた女子学生に額をこつんと突かれる香織である。
女子生徒と笑い合う香織の顔を、ぼーっと見つめる満。その姿に風斗はにやりと笑みを浮かべている。どうやら何かを察したようだ。
とはいえ、今はそういうことには構ってられないと考えた風斗は、満に声を掛ける。
「おい、満」
急に呼ばれて我に返る満。
「何ぼさっとしてるんだ。早速方針を決めていくぞ」
「わ、分かったよ」
強引な風斗に戸惑いながらも、満は香織の方へとちらちら視線を送りながら話し合いに応じたのだった。
「で、配信形式はどうするんだ」
「うーん、レニちゃんのように毎回ライブ配信をしてみたいなと思うんだ」
風斗の問い掛けに、満は腕を組んで首を捻りながらそう答えた。だが、これには風斗が難色を示した。
「お前みたいなあがり症がライブ配信できるのか?」
「う……」
風斗の指摘に思わず黙り込んでしまう満。そう、さっきも風斗が指摘したことだ。
「でも、大体最初の配信は自己紹介だから、ライブ配信の方がいいだろうな。その次用の動画を撮りながら、練習するとしようぜ」
「う、うん、そうだね」
こうして、大体の方針を固めていく満と風斗であった。
だがしかし、方針を決めていくとはいえ、自分に与えられたアバターは吸血鬼の少女である。そのキャラ作りというものに、満は本気で頭を抱えた。
これは家に戻ってからも続く。
自室で胡坐をかいて腕を組んで頭を悩ませている満に、風斗は見ていられなくなったのか声を掛ける。
「いつものお前の通りでいいんじゃないのか。きわどい質問は適当にごまかせばいいだろう。プライベートに突っ込んでくるやつは無視すればいいさ」
「うーん、まぁそうなんだけどね」
「もっと堂々としていろって。このルナってキャラ、見た目は自信たっぷりな感じだから、その方向性でいけばキャラだって納得してくれるさ」
風斗といろいろと話しているうちに、満は段々と不安になってきた。
「配信者って大変なんだなぁ……。甘く見てたよ」
「でも、やるって言っておいて諦めるのもどうかと思うぞ。世貴にぃと羽美ねぇがせっかくこうやって用意してくれたんだから、やらなきゃ男が廃るってもんだ」
「そ、そうだね」
風斗に言われて、どうにかやる気を振り絞る満。動画に慣れ親しむために、撮っては確認という作業を繰り返した。それは風斗が帰ってからも寝るまで続けられた。
「で、できたぁ……」
機材やソフトに添付されていた風斗のいとこのアドバイスを参考に、満は半分徹夜になりながらもどうにか動画を一本仕上げていた。
眠い目をこすりながら大きく背伸びをする満。
「動画ひとつ作り上げるだけで、こんなに苦労するなんて……。ノリでできるようなものじゃないんだな」
満は反省しながら、動画の保存をする。これをしなければここまでの苦労がすべて水の泡である。うっかりをしないようによく画面を確認しながら、注意深く保存作業をする満。
無事にファイルが生成されたのを確認すると、満は安心したかのようにそのまま机で眠ってしまうのだった。
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