第42話

昴は、カバンの中から、巾着袋を取り出し、遥の前に差し出す。

 しかし、その巾着袋のサイズは、コンビニチョコ一個分の大きさしかない。

「……」

 遥は、昴から受け取った? いやぁ? 一方的に押し付けられたミニ巾着袋を見つめながら、困惑の表情を浮かべっている。

 どんな風に言ったら、彼を傷つけずに……いやぁ?

「昴くん! あの……」

「遥さんは、匂い袋って知ってますか?」

 遥の言葉を消し去るように、昴が質問してくる。

「確か、防虫剤や芳香剤とは違って、お守りみたいに常にお持ち運べる芳香剤みたいなものですよねぇ? 実物を見たことがないので、これでいいのかはわかりませんけど?」

 遥は、子供頃から、あまり強いにおいが苦手だったため、芳香剤などもできるだけ使用せず、どうしても使用しないといけない場合は匂いが全くない無臭タイプを好んで使っていた。

 そして、同様に洋服などに使用する防虫剤もできるだけ、匂いが強くないラベンダーなどのハーブタイプを使用するようにしている。

 但し、それは、あくまで遥個人であって、旦那である鴇矢禅と娘の亜里沙は、遥とは違って匂いに敏感な方ではないので、二人と時々、匂いで喧嘩になることがある。

「だいだいあってますよ? それに現物なら、遥さん! 貴女の目の前にありますよ?」

「え!」

 昴の言葉に、遥は、さっき彼から渡された巾着袋を見る。

「これが? 匂い袋? でも……」

 匂いどころか、香りすらしない。

「あぁ! 遥さん? すみませんが巾着袋の赤い紐取って貰ってもいいですか?」

「あぁはい?」

 遥は、昴に言われるがまま、赤い紐を取ると、さっきまで全く香りがしなかった巾着袋袋からりんごの香りが遥の顔を……いやぁ? 全身を包み込む。

「えっ?」

「驚きました? この匂い袋、その赤い紐をほどかない限り、匂い袋として使用することが出来ないですよ? それと……」

 突然、自分の方に顔を近づいてきた昴に、遥は、思わず彼の名前を叫ぶ。

「すすすう昴くん!」

 しかし、昴は、そんな遥のことなどお構いないし、さらに距離を詰め、もう少しで二人の唇と唇が触れてしまうんじゃないかと思った瞬間、

「……clear」

「!」

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