＿っヴヴヴヴヴ＿

「！？」

　事務所内に鳴り響く携帯の着信音。

「……はい。茉莉川です」

　杏は、ポケットから携帯を取り出し電話に出る。

『……杏奈ちゃん？』

「……霧矢さん？」

　電話の相手は、自分が働く探偵事務所の課長で、不倫相手でもある柿谷霧矢。

「どうしたの？」

　杏奈は、柿谷からのプライベートの電話に出る時は、千里さんに疑われないように「はい」としか言わない。

　これは、二人で決めたルール。

「いやぁ？　なんでもないです」

『そう？　だったらいいけど？』

　電話越しの霧矢さんは、いつもと何も変わらない。

　だから、杏奈も、電話越しの霧矢に動揺が伝わらない様に必死に……

「どうしたんですか？　なんか、仕事先でトラブルでもあったんですか？」

　※仕事先とは、プライベートの隠語で、二人で予定変更のこと。

『トラブルはないよ？　だた、杏奈ちゃん！　きみの声が聞きたくて？』

「……」

　その言葉を聞いた瞬間、杏の頭にさっき渚に言われた言葉が浮かんだ。

（柿谷課長なら、泉石先輩の言う通り、知ってるかも知らない。千里さんが、今どこにいるか？）

『杏奈ちゃん？　本当は、なにあったんじゃあない？』

「えっ？」

　霧矢からの指摘に、杏奈は思わず言葉に詰まってしまう。

『やっぱり。杏奈ちゃん？　僕達？　恋人だろう？』

　電話越しに聴こえてくる霧矢さんの優しいの声。

　私は……霧矢さんが好き。

　だけど、同時に、千里さんの事も……

「霧矢さん。私は、霧矢さんが好きです。だけど、千里さんの事も好きなんです。だから、教えてください。千里さんはいまどこにいるんですか？」

★

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい