周回遅れのアイスブレイク

 学校を飛び出た俺たちは

 何処にでもあるチェーン店のカフェにやって来た


「さて、改めてよろしくね。ホームズ君」

「そのホームズっていうのをやめろ。」

「理由は?」

「なんで俺のあだ名がイギリスの名探偵の名前なんだよ」

「家達=HOME s =homes」

「……我ながらいい名前だと思うんだけどなぁ」

「良くねぇよ、シャーロキアンに謝ってこい」


「お待たせしました。アイスコーヒーでございます。」

 席について数分もしない内に頼んできた飲み物が届いた。

「ホームズ君もアイスコーヒーで良かったの?折角奢ってあげるのに」

「ま、まぁ男だしな。あんまり甘い物は好みじゃない」

「……ボクはもっと高い飲み物じゃなくて良かったかを聞いたつもりだったんだけど」

 本日2度目のしくじりだ。頭に来る

「コーヒー苦手?」

「別に?」

「ボクのガムシロ分けてあげよっか?」

「いらん」

このままだと会話の主導権を握られ続けると悟った俺は

 話の流れを変えるために疑問だったことを問いかける。

「なんで教室で裸だったんだよ?」

「いきなりど真ん中ストレートだね」

「お前と違って意地の悪い変化球は投げれないんだ」

「そっか。」

 暫しの沈黙

「君はさどう思う?」

「何が?」

「女子高生が裸で教室にいる理由」

「質問を質問で返すなと言いたいけどな」

 そもそもの前提がよく分からない。

 なぜ教室で裸になる?

 例えそういう事がしたくても

 わざわざ見つかりやすい場所で裸になる必要はない

 ――――ならば答えは一つ

「…………脅されてるのか」

「正確にはボクではないけどね」

「1年生の『尾道小春』って子は知ってるかい?」

「知ってる。確か先週から風邪で学校に来ていない」

「風邪というのは真っ赤なウソでね」


 

「ボクが聞いた話だと尾道って子は

 1年の教室で裸になってた所を保護されたらしい」


「は?」

 意味が分からない。そんな事件があったら

 学校から何かしらの説明があるはずだ。

「一応聞くけど作り話とかではないよな?」

「まさか、本当だよ。少なくともボクの知る限りではね」

「じゃあなんで学校はそれを隠してるんだよ」

「てかなんでそんな秘密をお前が――――!」


「落ち着きたまえ。店から追い出されてしまう」

辺りを見回すと、店員や客から冷ややかな視線を向けられていた

俺は頭を下げるジェスチャーをして席に深く座り直す


「最初の質問から答えよう」

「学校がこの事件を公表しない理由として」

「尾道小春が第一発見者を頑なに言わない」

「正確には、言えないんだろうね」


 

「自分を裸にした張本人が学校側の人間だったら」


「大前提として、コレは当時保健室にいたボクの主観だ」

「だがボクが見た尾道小春は『保護された安心感』よりも『何かに怯えてるような』様子だった」

「まぁ、ただ単に尾道小春が露出狂の変態で――――」


「そんな事はねぇよ」

「小春は変態なんかじゃない」

 コップを持つ手に力が入る

「アイツは、小学生の頃から俺と変わらず接してくれた幼なじみだ。」


 脳裏に浮かぶのはいつかの記憶、もう戻れない終わった記憶

 

「楠木、お前が俺の事をどっかの名探偵の名で呼ぶなら」

 

「――――解決してやるよこの事件。」

「…………別にボクは解決してほしいと頼んだ覚えはないけどね」

楠木はニヤリと笑い1万円札を机に置いた。

「なんだよコレ」

「ここの飲食代と尾道小春の家までの交通費かな」

「あぁ、遠慮する事はないよ私の家裕福だし」

「天才で家も金持ちとは非の打ち所もねぇな」

 嫌味のつもりで言ったが楠木はケラケラと笑いながらこう返した。

「それは違うよ。ボクは天才で金持ちで――――美少女だ」

「楠木、あともう1万置いてけ」



――――30分後、とある交差点

 幼なじみなので家の場所くらいは分かってることもあり

 俺は小春の家まで歩いて行く事にした

 楠木から奪った2万を使えばタクシーにも乗れるが

 何故か使う気になれなかった。


 ――――――――――――――――――――――――

「結局ホームズ君は歩いていくんだろうなー」

「ボクにとって2万くらい大した事ないのに」

「――――IQ200超えの天才を雇えるくらいならね」

「教室の時みたいな推理、期待してるよ」

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セピア色の緋色 浅葱優 @kasyu613

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