第3話 気まぐれな女神様
「助けて! みんなが殺されちゃう!!」
私はまだ寝ぼけているのだろうか。
来年1月にシンガポールで開催されるアーバンファイターズ8の世界大会に出場するため、毎晩徹夜でオンライン対戦に明け暮れており、対戦中に寝落ちするのが日課になっているのだが、今日は何やら様子がおかしい。
いつもゴツゴツしたキーボードの上に突っ伏して寝ているので、ほっぺたに四角い跡が残っているような、最悪な目覚めが普通なのだが、もふもふに包まれているかのように、全身が暖かく気持ちがいいのだ。
「うーん。ぱとらっしゅー。僕、もう眠いんだぁ。」
と、この状況で繰り出せる渾身のボケだったのだが、
「いえ。あなたはもう死んでいますよ。」
なんだか物騒な事をさらっと言われたのだった。
「はい? 私の事かな?」
「他に誰がいるのです。そして、そろそろ目を開けてくれませんか?」
死んでいるのに目を開けろとな?
なかなか無茶をおっしゃるが、開けられるのなら開けてみようじゃ無いか。
「ふぎゃっ!」
あまりの眩しさに目が潰れるかと思った。目をギュッと目一杯閉じたのに、真っ白に目が眩んでいる。
「あうっ。いきなり目を全開にする死人がありますか! 恐る恐る、薄目から開けるもんでしょう?
全く、最近の死人ときたら、そんな作法すら知らないのかしら。」
「すいませんねえ。あたしも初めて死んだんで。って言うか、本当に死んでんの? あたし。」
「ですから、それを説明するところなのですよ。」
「女神様! 早くなんとかしないと、みんなが殺されちゃうんですってば!!」
そうだった。この幼女の声で目が覚めたんだったわ。女神様っ? ああっ?
「もう、目も慣れてきたでしょう。こちらを向きなさい。人と話をするときは相手の目を見てって、教わりませんでしたか?」
どうもすいやせんねえ。年齢=オタク歴の筋金入りのオタ女なもんで、人と話す時こそ、目線を逸らしちまうんですよ。
「それはいけません。この世界はそれなりに物騒です。相手が突然襲いかかったりしないか、常に相手をしっかり見ていないと危ないのですよ!」
「そっちかい!! って言うか、今、さらっと思考を読みませんでしたか? プライバシーも何もあったもんじゃ無い!!」
「それはそうでしょう。私は神なのですから。」
「うわっ、めんどくせえ。」
「おーい! 私を忘れてませんか? 助けを求めてますよ!!」
「そうでした。もう、細かいことは後回しです。田中
「はあっ? なんですかそれは? 米米クラブですか? と言うか、いつの間にか目を開けてたわ。うわっ、なにこの超絶美女と、庇護欲をそそる美幼女は。」
「ここは天界の入り口です。しえるさんとシュンカさんは、全く同じタイミングでここに来てしまったのです。これも何かの縁と言う事で、ニコイチで復活させてあげようと思いついたのです。」
「あたしらはジャンク品扱いですか!?」
「まあいいじゃ無いですか。あなたたちには、お約束のチートスキルが与えられるのですが、最近はインフレが酷くて、簡単に無双できるような能力を与えては興醒めだとか言われちゃうんです。だから、役に立ちそうだけど、何かと微妙な能力を差し上げました。」
「いいよ。別に興醒めでも。全属性魔法が使い放題とか、時空を自由に操れるとか、そう言うのカモン!」
「あなたには『超反応』のスキルを授けます。」
「マジで? あの頃のS○Kばりな奴?」
「ええ。しかも、空振る距離では発動しません。相手が間合いに入った時だけ反撃します。」
「それって最強じゃん! アバ8でも無双できるじゃん!! でも、さすがにインチキが過ぎるかあ。」
「気にしなくても、こちらの世界にゲーム機はありませんよ。」
「なんだってえ? じゃあ、何に使えるのさあ。このスキル。」
「スリに狙われても大丈夫とか、突然、植木鉢が落ちてきても反応できたりとか?」
「すげえビミョー。」
「でしょう!!」
なぜか得意げな女神様。
「あのー、で、私は見捨てられたのでしょうか? 私のお付きの者たちが死んでしまうのですが、、、」
「ああっ。そうでしたね。でも、焦らなくても大丈夫です。ここの時の流れはあなた達の世界とは違うので。」
「では、こちらで長々とお話ししても、元の世界では一瞬だったり?」
「全部ケリが着くどころか、知っている人が誰もいなくなってたりの方かもですが。」
「猿の○星かよ。ってか、あんたも分かってないんかい!」
「神にとっては些細な事ですので。」
ダメだ。こいつ。全部、デウスエクスマキナにしちまう気だ。
「人間など、我々から見ればその程度と言う事ですよ。」
「もう、なんでもいいよ。」
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