第26話 【閑話】オリビアの突撃取材(対ロバート)後編




「まず…………ミツキが搭乗していたプライベートジェットだが、現地の組織から襲撃を受けた形跡がある」


「え?」


「後日の調査で分かったのだが、スーダン中央解放軍と名乗る組織が、略奪とミツキを捕縛するために約50名で襲撃したことが分かっている」


「スーダン中央解放軍、ですか…………あまり聞かない名前ですね」


「そうだろう。正式な軍に所属する組織ではないし、反政府組織でもない。言ってしまえば、非合法な犯罪組織だな」


「それって…………でもミツキは捕縛されていないし、無傷で救出されたんですよね? それとも実は、Zip your mouth(お口チャック)な出来事があったとか?」


「いや、ミツキがその解放軍に捕縛されたという事実はない」


「そうなんですね」


「ああ。その解放軍は全員が亡くなっていたんだ。飛行機からは離れた場所で」


「それは、襲撃したけれど倒された、という意味ですか?」


「意味合いはその通りだ。正確に言えば、プライベートジェットの周りで51名の小銃を持った者が死んでいたということだ」


「それって、ミツキたちが倒したんですか?」


「まさか! 小銃を持った数十名の武装集団を、ミツキと少女の僅か二人で倒せるはずがない。分かるだろう?」


「……ええ」


「俺たちが現地に到着したのは、その襲撃直後だったと思われるタイミングだった。だがミツキは、51名もの襲撃者を倒せる武器など持っていなかった。無論、少女もだ」


「…………」


「それに、考えてみてくれ。何より、仮にシールの精鋭でもたった一人で51名もの銃器を持った襲撃者を、無傷のままで全員倒すなど考えられないぞ。しかも――――」


「しかも?」


「俺たちが到着したのは夜の10時だ。月明かりはあったが、あんな夜中に戦闘行為で敵を完全抹殺できるなんて……もしもそんなことができるとするなら、おそらくそれはスクリーン映画の話としか思えないな」


「でも、プライベートジェットなら武器が積んであったのでは?」


「ああ。数丁の拳銃ならあった。だが、使用された形跡はなかった」


「では…………誰が襲撃者を倒したと考えているんですか?」


「分からない。全く分からない。現場には、他に一名、銃撃を受けて亡くなった少年の遺体もあったが……おそらく、仲間割れかと思うが、その少年を銃撃したのは襲撃者の銃であることは分かっている」


「ということは、襲撃者がたまたま仲間割れを起こして撃ち合ったのではないんですか?」


「それはない」


「なぜ?」


「遺体だ」


「遺体?」


「そうだ。襲撃者の遺体は全て…………例外なく、心臓を破壊されていたんだ」


「え?」


「どういった兵器で貫いたのかは分からないが、全員が心臓を何かに貫かれ破壊されていたんだ。それは銃撃によるものでないことが分かっている」


「それは…………なぜ、銃撃ではないと断言できるのですか?」


「襲撃者の心臓からは…………一滴の血も流れ出していないからだ」


「は? 心臓を破壊されたのに一滴の血も流れ出ていないって? …………そんなことがあり得るんですか?」


「海軍の科学者の話では、理論上で言えば、相当な高熱のビームが貫いた場合に、貫いた周辺の細胞を炭化させることで起きうる現象、ということだったが…………」


「相当な高熱って?」


「あくまで理論でしかないが…………約10億度以上だそうだ」


「10億度? …………あり得るんですか、そんな温度が?」


「だから言っただろう、あくまで理論でしかないと。核融合研究で過去に出た最高記録が5.2億度らしいので、理論的にはあり得ても、現実的にはあり得ないとその研究者は言っていたな」


「では、その襲撃者が、どうやって倒されたのかは分からないと」


「ああ。宇宙人かもしれないし、未来人かもしれない。とにかく超常現象が起きたことは確か、ということだ。だから、ミツキたちが関係ないと分かっている」


「それはそうでしょう。人間に扱えないものなら、そうなるでしょうね」


「とにかく、今回のスーダンでの航空機事故は、いくつもの謎が残されたことは確かだ」


「なるほど…………まず、50名以上の屈強な襲撃者が亡くなったにも関わらず、か弱い女性と少女の2名は生き残った、と。さらにその襲撃者が亡くなった原因がわからない。生き残った少女がどうやって過酷なサバンナで、しかも一人で10日以上も彷徨えたのかもわからない………確かに、分からないことだらけですね」


「一つだけ訂正しておこう」


「はい?」


「生存者は2名ではない。3名だ」


「3名? ミツキと少女と、あとは?」


「現地人の6歳の少年が飛行機にいた」


「その少年は誰なんですか?」


「分からない」


「分からない?」


「ああ。救出後、その少年はミラー財閥が引き取った。一切の詳細は不明のままだ」


「ミラー財閥が、ですか…………」



(何かを考えているオリビア。ロバートは静かにオリビアの様子を見ている)



「最後に、もう一つだけ話しておこう」


「なんでしょう?」


「俺たちのヘリが、現地に到着する数分前だが、空から光の筋が地面に落ちたのを確認している」


「光の筋?」


「そうだ。ヘリの自動録画は見せられないが、記録は残っている。突然、空から数十本の細い光が雷のように地上に降り注いだんだ。それも3度」


「ロビンは、過去に同じような現象を見たことは?」


「ない。雷はあるが、あれが描くのは不規則な線だし、仮に雷だったとしても、同時に数十もの雷が落ちる、それも続けて3度も、などという話は聞いたことがない」


「…………もしかすると、その光が襲撃者の死因と関わっている、と考えられませんか?」


「ああ。海軍の科学班もその想定でいろいろ確認したが…………現時点では推測すら考えられない状況だと聞いている」


「unknown phenomenon(未知の現象)ですか…………」


「そうだな」



(しばらく間、二人の間に沈黙が降りる)



「…………今日は、いろいろと興味深い話を聞かせていただいてありがとうございました」


「いや、何かの参考になったなら良かったよ」


「ええ。とても」



(オリビアは立ち上がる)



「ところで…………最後にお尋ねしたいのですが…………」


「なんだい?」


「そのアンジェという少女はどういった少女だったんですか?」


「アンジェか…………そうだな。見た目はとにかく美少女、いや美人形と言って良いぐらい、人とは思えないオーラを纏っていたな。髪の色は明るい緑色、確かエメラルドグリーンといったか、その長いストレートの髪が少女の神秘性を高めていたように思う」


「イメージで言うと?」


「俺のイメージでは………そう、『天使(エンジェル)』がピッタリくるかもしれない」


「天使、ですか?」


「ああ、リブも一度会えば、俺が言っていたことは理解できるはずだ」


「分かりました…………いつか、その『天使』に会えることを楽しみにしておきます」



(手を差し出すオリビアに、ロバートも立ち上がる)



「では、ロビン、今日は私にとって非常に興味深い一日でした。Take care (お元気で)」


「ありがとう」



(手を振りなが立ち去るロバートを、小さく胸の前で手を振りながらオリビアは何かを考えている)



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【更新日が、第二章から月、水、金となります】


 読んでいただいている方、ありがとうございます。 

 次話から「第二章(現在)ベースボールは打つだけが仕事じゃない」がスタートです。

 なお、第二章から月、水、金の更新とさせていただきます。次話は12/23(月)の更新予定です(年末+ストック乏しい状況なもので………スイマセン)


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