第25話 【閑話】オリビアの突撃取材(対ロバート)前編
side オリビア(AAKニュース)
(オリビアが座るテーブルに男性が近づくと、オリビアは立ち上がり手を差し出した)
「初めまして。AAKニュースの
「ああ。俺は
「お時間をいただき、ありがとうございます」
「構わないさ。一兵は上官の指示には黙って従うのみ、ということだ」
(両手を軽く上に向けたロバートのジョークに、黙って笑うオリビア)
「それで――――ミセス・オリビアは何を聞きたいんだい?」
「よければ私のことは、リブと呼んでください――――はい。キャプテン・ロバートが」
「ああ、リブ。俺のこともロビンでいいよ」
「そうですか。では、ロビン、お尋ねしたいのはスーダンで行われた国連の救出作戦のことです」
「
「はい。これを」
(オリビアが、あらかじめ準備していた「秘密保持契約書」をロバートに渡す)
「…………ヒュー。すごいな。AレベルのNDAか。本物を見たのは俺も初めてだ」
「どういたしまして。多少のコネがあったので」
「まあいいさ。このNDAが全てだ。俺からは何も尋ねないから安心してくれ。それにスーダンで行った作戦については、すでに国連で報告書が公開されているからな」
「はい。その報告書は読ませていただきました。ただ、報告書に書かれていなかったお話をお聞きできればと思いましたので」
「なるほど。それが
「はい。だいたいは報告書を読んで知っていますが、報告書に書かれていないことの確認も含めて、順番にお話をお伺いしたいと思います」
「OKだ」
「ではまず、今回の救出依頼ですが、報告書には、ミラー財閥からの要請と書かれていましたが?」
「ああ、そうだ。今回の作戦は、スーダンで事故にあった飛行に搭乗していた、ミラー財閥の総帥であるミツキの救出に向けたものだ」
「事故ということですが、機体は大きく破損していなかったのですか?」
「いや、不時着が上手くいったのだろう。火災もなかった。おそらく着地が川だったのが幸いしたんだと思う」
「川、ですか…………」
「そうだ。ああそうか、disclose(公開)された報告書にはそこまでは書いていなかったか」
「ええ。大まかに書かれていた内容は、ミラー財閥の依頼を受けた国連の救出チームが、航空機事故に遭ったミツキ総帥と他1名をスーダンで無事救出、救出チームの被害は無し、こんな感じでしょうか?」
「なるほど…………それで、聞きたかったのは川への着地についてでいいんだな?」
「そうです。プライベートジェットが川に不時着したとなると、深くはなかった、ということですか?」
「そうだ。川は深くはなかったな。一メートルぐらいか? ちょうど雨期のあとだったから、まだ乾ききっていなかったのが良かったのだろう」
「そうですか…………ミツキは無傷で救出されたという話でしたが?」
「よほど、運がよかったんだろう。機長と副機長、それと二人のCA(キャビンアテンダント)は亡くなっていたからな」
「確か、墜落から救出までは10日間と書かれていましたが?」
「そうだ。正確に言えば10日+半日だな」
「よく、それだけ長期間、無傷で生き延びれましたね? 確かスーダンの夜は、とても寒いと聞きましたが?」
「そうだな。あの時期はちょうど雨期が終わったばかりだから、まだ乾ききっていないので氷点下までは下がらないが…………それでも夜は一桁台の気温だ」
「それで日中は50℃近いんですよね?」
「ああ。結構、過酷な場所であることは確かだ」
「そういえば、他にも1名、救出者がいたそうですが?」
「そうだ。ミツキの姉の孫、又姪と呼ぶのだったか、15歳の少女が同時に救出された」
「確か、ミツキがスーダンに向かったのは、その少女の捜索のためだったと別の筋から話を聞きましたが?」
「ああ。ミツキは、スーダンで飛行機事故に遭ったその又姪を捜索するためにスーダンに向かっていて、同じように事故に遭ったんだ」
「…………すごい偶然ですよね? それって。 スーダンで西側諸国の航空機が事故に遭った記録は数年なかったそうですが?」
「そうだ。だが航空機事故が連鎖する、という話は聞くだろう?」
「ええ、まあ………なるほど、そうかもしれませんね。ところでその少女はどうしてミツキの飛行機に乗っていたんですか? 少女の捜索に向かって、発見した少女を搭乗させたのではなかったと聞いていますが?」
「詳しくは俺も知らない。救出時にその少女、アンジェと名乗っていたが、彼女の話では、自分が乗った飛行機の墜落時のことについては覚えていないと言っていた。どうやら墜落時のショックのせいで、記憶が曖昧になっていたらしい。のちの調査で、アンジェ以外の乗務員は全員が死亡していることが分かっている」
「…………」
「そしてアンジェは、サバンナをフラフラと彷徨っていたところ偶然、ミツキが乗っていた飛行機を見つけたそうだ」
「…………確か、15歳の少女ですよね?」
「そうだ」
「最初に少女の飛行機が墜落、そして少女一人だけが助かって、しかも10日以上、サバンナを彷徨っていたと?」
「そうだ」
「少女は広大なサバンナを彷徨っていて、同じように墜落した飛行機を、偶然見つけたというんですね?」
「そうだ」
「さらに、その偶然見つけたのが捜索に来ていた大叔母が乗った飛行機で、大叔母だけが助かっていたと?」
「……そうだ」
「ロビン、あなたはその15歳の少女が一人で、過酷なアフリカのサバンナを10日以上彷徨えると考えていますか? スクリーンのヒーローならいざ知らず、15歳なら、ハイスクールに入って間もない
「…………ストレートに答えるなら……NO、だな」
「…………」
「…………」
(しばらく、二人の間に沈黙が流れる)
「……ところで少女は、何か傷を負ってはいなかったのですか?」
「俺が会った時、彼女はいたって健康だった。外見上、傷の一つも見当たらなかった」
「飛行機が墜落して、さらに一人でサバンナを10日も彷徨ったのに?」
「ああ」
「そうですか…………分かりました。その他、何か情報があればお教えください」
(ロバートは、少し考えてから答えた)
「――――ところでリブ、君は何を知りたくてここに来たんだい?」
「何を、ですか?」
「そうだ。スーダンで実行したシールの救出劇を聞きたい、というわけじゃないんだろう?」
「はい。不思議な飛行機事故が起きて、2名の生存者がいたという話を聞いたので…………しかも、あの有名なミラー財閥総帥が救出された、そして、その救出に米軍の最強部隊と言っても過言ではないシール(Navy SEALs)が参加したと知ったので。何か特別な裏話があるのでは、と思ったのです」
「…………そうか」
「はい。なので
(再び何かを考えるロバートに、怪訝な表情を浮かべるオリビア)
「ロビン? 何かがあったんですか?」
「…………NDA(秘密保持契約)は確認したが、念のため、もう一度聞いておきたい。ここで話した話が記事になることはない、ということでいいんだね」
「はい。記事にできるのは、当事者であるあなたの許諾が得られた場合のみ、ということになります」
「分かった…………じゃあ、いくつか報告書には挙げていない情報を話そう。記事の許諾はNGだが」
「…………お願いします」
(ロバートの言葉にオリビアが黙ったまま見つめている)
※後編に続きます
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