第17話 動き出した中央解放軍
※14話からの続きになります。
side アンジェ
機外に飛び降りたアンジェは、機体の周囲を一度ぐるりと回り何か異常が見られないかを確認した。
「ん。大丈夫」
少なくとも、例えば爆弾が仕掛けられているなど、危険物は周囲に見当たらない。飛行機の燃料庫には「無効」のスキルをかけたから爆発することはない。
まだ日が落ちるまでには時間があるようだ。晴れ渡った空を見上げたアンジェは、スキルを発動させる。
「転移!」
異世界のスキルは、レベルカウント制だ。最低がレベル1。カンストした最大なら特殊なスキルを除いてレベル99。
スキルのレベルアップは、そのスキルを使った回数で決まる。レベル1のスキルを2回使えばレベル2。ただし、レベルアップに必要なスキルの練度回数は、常に倍数が求められる。レベル2からレベル3へは4回、レベル3からレベル4へは8回、といった具合に。
したがって、カンストするレベル99に到達するために必要な練度回数の単位は「穣」。
億、兆、京、垓、𥝱、その上の単位だ。1秒間に1回、寝ないでスキルを使うとして100年で到達できる練度回数は約30億回。その「穣」の回数に到達するには、100年間で到達できる30億回に1億をかけ、さらにもう一度1億をかけたよりも大きい回数が必要になる。
その単位が「無理」と言う言葉に相応しいことが分かる。
人族なら、生涯をかけて到達できるのはスキルレベル30が限界だ。それは毎日寝る間も惜しんで10億回以上、スキルを使い続けて初めて到達できるレベルだ。
だが、アンジェが持つスキルは、そのほとんどがカンストしている。
今、使った「転移」スキルもカンストしているので、転移できる距離は無制限だ。
アンジェが転移した先は、上空100メートルの地点。目視できた場所には自由に転移ができる。それこそ月や太陽はもちろん、夜空の星であろうと、目視できれば距離は関係ない。
そして、地上100メートルの地点でアンジェは、今度は祖母である神龍が持っていた「浮遊」スキルを使って上空へと留まった。地球からの転移者で何十万年と言う時間を生きた、そして神龍になった祖母が持つスキルは、もちろんカンストしている。
次に、上空から見える範囲の地上をマーキングする。これは、「MAP」という探索スキルを発動させるため。万一、「MAP」を発動させた範囲に敵が現れれば即座に感知できるし、見えていなくても、その「MAP」の表示された場所であれば、他のスキルを使って自由に攻撃もできる。
一つ難点があるとすれば、敵か味方かの判断は、アンジェに対して敵意を持つか持たないかで判断されることだろう。味方が青点、敵が赤点、そして無関係な者が黄点だ。死亡している者を指定すれば灰色で表示される。人や動物の指示もできるのだが、いわゆるストーカーのように好意しか持たない敵は、青点で表示されてしまう。
実際、異世界でアンジェの主であるミナトも、「MAP」に表示される青点で戸惑ったことがある。
まあ、当面は国連の救援部隊が来るまで、この「MAP」できる範囲に表示される味方は大叔母だけと判断できるから、大きな問題ではないが。
とりあえず、上空100メートルの地点で「MAP」を起動させたアンジェは満足して地上へと戻った。これで約30キロメートル四方を警戒できたことになる。
確認のため「人」を指定すると、「MAP」に現れたのは青点が一つ。これは大叔母だ。そして灰色点が4つ。飛行機の中だから亡くなった乗員。その他は、30キロ四方内に人の姿は見当たらない。
今度は、「大型の肉食動物」に対象を切り替えてみる。すると、数千の赤点と黄点が現れた。色の違いは、人に対して敵意を向ける動物とそうでない動物の違いなのだろう。アンジェは、青点が見当たらないことを少しだけ残念に思った。
救援がくるまでに必要な準備は、この「MAP」だけで十分だ。もしも万一のことがあれば、「空間」スキルの一つ「ルーム」を使えばよい。「ルーム」は亜空間に出入りができるスキルだ。この地球上で手出しができる者は存在しない、と思う。他の世界からこの地球に転生している者が皆無とは言えないから、絶対ではないが。
そういえば…………
異世界で、シンジという地球とは違う世界からの転生者がアンジェの死を呼び込んだのだった。油断はしないでおこう。
そしてアンジェは、「MAP」で表示されている大叔母と自身に「無効」のスキルを発動させた。
今度こそ満足し終えたアンジェは、機体の前方にある荷物室へと向かった。
食糧は、異世界で保管していたものがアイテムボックスの中にそのまま残されている。このアイテムボックスはミナトが使っていたものだから、この世界に持ってこれないはずだ。それが残されているということは、おそらく異世界を管理している女神が、特典として同じものを用意してくれたのだろう。
アイテムボックスの中には、素材はもちろん、調理した料理もあるし飲料水もある。大叔母が望めば異世界のお酒も提供できる。とはいえ、あまり不自然な行動をして大叔母に疑問を抱かせるのは良くない。
――――できれば、荷物室に食糧が残されていればいいのだけれど…………
これから一週間ほどはここで過ごすのだから、できるだけ大叔母には快適な環境を提供したいと思っていたアンジェは、何かを見つけだせることを祈りながら荷物室へと向かった。
▼▽▼▽
side スーダン中央解放軍
「おい! 今、何人が動ける!?」
「なんだ、どうしたんだ? そんなに興奮して」
男性は、小銃を整備する手を止めずに、小屋の布をめくりあげて入ってきた男に問いかけた。
「プライベートジェットが墜落したようだ」
「プライベートジェット? どこのだ?」
「国軍にいる内偵者の話では、アメリカだそうだ。ミラー財閥が所有するジェットだ」
男性が小銃を床に置く。
「どこに向かっていた?」
「ガーナだ。来週、中央アフリカ民族会議が行われているのは知っているだろう?」
「ああ」
「その会議に参加するのが目的だそうだ」
「確かミラー財閥と言えば…………」
「そうだ。民族会議をサポートしている。おそらく支援物質や支援金を積んでいたはずだ」
「なるほど…………」
男性は、男の言葉に考え始めた。
「墜落したのは、どの辺りだ?」
「タカ山の向こう、約500キロ地点」
「国連の救援チームは?」
スーダンの治安の悪さは、アフリカ大陸でもベスト5に入る。特にアメリカ人の
「国軍の情報では、申請がすでに入っている。一週間後に許可が出るだろう、という話だ」
コツコツコツ、と銃弾でテーブルを叩き始める男性。一週間という期限付きでの作戦を考え始める。
タカ山の向こうは100キロぐらいまでなら街があった。さらにその奥に向かうとなると、道の往来ができない場所まで行けば砂漠とサバンナしかない。いや、雨期が終わった今なら草原が広がっているか…………
ヘリが使えればいいのだが、500キロを安全に飛行できるプランを立てるのは無理だ。
ならば…………男性は大まかなプランを描いた。
「…………ということは余裕は6日以内、だな」
「6日か。間に合うか?」
「確か、タカ山の向こうは車が走れる道路がまだ残されていたはずだ」
岩が隆起した有名な観光スポットでもあるタカ山の山向こうは、内戦が始まってから人の往来は途絶えている。それでも道路はまだ残されていると男性は考えた。
それを聞いた男も頷いた。
「ああ。俺が知っているのは古い情報だが、確か、墜落予想地点の50キロ前まではいけたはずだ」
「では、準備に1日、車でいけるところまで2日、残り二日で踏破できれば間に合うな?」
道路が途絶えた砂漠とサバンナを50キロも横断するのは簡単ではないが、もしその墜落した財閥のジェット機が、原型を留めてさえいれば苦労する価値はある。
「いや、おそらく車での到達は道路さえ残っていれば、無理すれば二日じゃなく一日でいけるはずだ」
「…………よし。準備を始めるぞ」
「了解だ」
そして小屋を出ていった男を見送った男性は、もう一度小銃を手に取り、中断させた小銃の整備を再開した。
おそらく、この小銃の出番がくるはずだから。
男性が所属する組織は、「解放軍」と名乗ってはいるが、ゴロツキが集まった盗賊集団の方が実態を現わしている。奪うのが悪いのではない。この国では奪われる方が悪いのだ。内戦が始まってからは、そういう生活を続けてきた。そう考えなければ、この国では生きていけない。
いや…………最初の頃こそ、そう思っていたが、繰り返される毎日は、いつしかそれが当たり前になっていた。奪うことこそが生きるためには正しいことなのだと。
男性の顔には、当たり前となった「奪うこと」に対する享楽の思いが、不気味な笑顔となって現れていた。
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