第4話 初めてのカメラ、初めての写真。②

 わたしたちは体育館へ着くと、色んなボールが弾む音を耳にする。

 卓球、バスケ、バレー。ドタドタと走る足音が少し懐かしくも思える。

 掛け声と笑い声が交差する体育館は活気に満ちていて、その音でわたしの体はビリビリと震えてしまう。


 運動部でもない写真部が入ってもいいのだろうかと、わたしの足は入り口で止まり、躊躇してしまう。


「ハルちゃん先輩、仁見ひとみ先輩は何部なんですか?」

「あー?はぁ、はぁ、……ちょっと、待って」


 ハルちゃん先輩の息はまだ切れていて、喋るのも大変そうだった。


 おでこから流れ落ちる汗を拭い、ハルちゃん先輩はその場にへたり込んでは、襟元をばたつかせて風を送り込んでいる。

 火照った体を冷やそうと必死になっていた。


「あっつ、ちょい休憩させて」

「体力ないですねー」

「写真部だぞぉ、無くて当たり前だ」


 今度はパーカーの裾を大体にばたつかせた。チラチラと見えるおへそにわたしは焦ってしまう。


「ハルちゃん先輩、はしたないですよっ男子もいるんだから気を付けてくださいっ」


 わたしはなるべく小声で注意すると、ばたつかせるその手はピタリと止まった。

 ハルちゃん先輩は不思議そうな顔を向け、笑う。


「はははっー、誰もあたしみたいなちんちくりの体に興味持たねぇって」


 今度はスカートをばたつかせ始めた。

 白い太腿がチラチラと見えたり見えなかったり、変にわたしの心臓はドキドキしてしまう。

 別にそう言った意味のドキドキではなく、見えたらどうするのって心配の意味でドキドキしている。



「ハルちゃん先輩……パンツ、見えてますよ」

「嘘つけ」

「本当です」


 嘘だ。止めさせる為の嘘を、わたしはついた。


「何色だ?」

「え、あれです。白です」

「残念。あたしはパンツを穿かない主義だ」


 そう言って得意気な顔でハルちゃん先輩は、スカートを豪快にたくし上げた。


「ちょ、ばっ――!!」

「んなわけあるか。短パン穿いてるに決まってるだろ」


 この、先輩は本当に……。

 やっぱり中身も子供だ。それも質の悪い悪ガキ。


「で?ばかって言おうとしたか?先輩に向かって」


 ハルちゃん先輩はカメラをわたしに向けるけれど、それはモニター側だった。

 近づいて見ると、大きく目と口を開いたわたしがそこにいた。

 慌てたわたしは見事に変な顔をしている。


「消してください!」

「まぁまぁ、話を聞け。この時、ののはあたしのスカートを押さえようと素早く動いただろ?」

「そりゃあ、そうですけど」

「なのにブレてない。動きに合わせれば綺麗に撮れるってことだ」


 確かにどこもブレていないし、綺麗に撮れている。

 でもブサイクだ。こんなの綺麗に撮ってほしくない。


「それにあたしが撮ったの気付かなかっただろ?」

「まぁ、スカートに気を取られてたんで」

「相手に撮られてるとバレるな。自然に撮れるのが一番綺麗だからな」


 もしかしてハルちゃん先輩は、恥ずかしい思いをしてまで、わたしに教えようとしてくれた?


「ありがとうございますっ」


 子供なのか、大人なのか、遊ばれているのか、指導してくれているのか、本当に分からない。

 また性懲りもなくスカートをばたつかせるハルちゃん先輩に、わたしは耳打ちをした。


「周りから見たら結構可愛いって、自覚した方がいいですよ?」

「……な、ななっ――!」


 耳を押さえながら顔を真っ赤にするハルちゃん先輩は、掴んだスカートを離し、ぎこちなくスカートを整えだした。


 これは仕返しだ。わたしはいいんだよ、だって子供だから。



「ハルー!そんなとこにいたー!」


 仁見先輩がバレーボールを脇に抱えて駆け寄ってくると、わたしの体は緊張で固まってしまう。

 バレー部なんだ。と、意外に思ってしまう。お姫様なんて呼ばれるから、演劇や、体操かなって勝手に思い込んでいた。


 汗で濡れた髪はおでこに張り付いていて、高揚した頬は少し艶めかしい。

 仁見先輩の背は高くて、そんな高くから見下ろされると、わたしは自然と俯いてしまう。



「……二人共なんでモジモジしてるの?」

「し、してねーよ」

「してないですっ」


 わたしとハルちゃん先輩は、視線を合わせることも出来ずに弱弱しく否定した。

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