第11話 風の迷宮
スタート地点で俺とフェンは作戦会議をする。
「フェン、俺たちも翼を生やすんだ!!」
「そうじゃの!! やるのじゃ!!」
フェンは新しい上級風魔法を構築し始める。
「ここをこうして、こうすれば……できたのじゃ!!」
「フェン、飛べ!! 風は俺たちの味方だ!!」
俺の叫びに、フェンの目が輝いた。
「――妾に任せるのじゃ!!
フェンの背後に風が集まり、光を帯びながら形を作っていく。風で形作られた2枚の翼が、彼女の背に広がった。
「風よ、妾に力を貸せ!!」
その瞬間、俺たちは風をつかみ、重力を振り切った――!
『おっとぉおおお!! スタート地点に戻ったフェン様と勝様が新しい風魔法で加速していくようじゃ!! これは素晴らしい速さですぞ!!』
俺たちはスフォルツィアの暴風の追い風を受けて、初めにエアウォークで走った時の3倍の初速をたたき出していた。ぐんぐんと加速し、最後方のシエロに瞬く間に追いついていく。
この上級風魔法の利点は2つある。1つは風の足場を使わないため、突風を受けても安定しているところ。2つ目は……追い風の恩恵を受けれるところだ!!
シエロに追いつくとこちらをちらっと見たシエロの目に光が宿った気がした。
どうやらシエロの本気スイッチが入ったようだ。
シエロの周りに風が集まり、疾風と化してあっという間にフェンの加速した速さに追いついてしまった。
「フェンちゃんに勝よお。やっと風をつかむことに成功したみたいだな。でもなあそれだけじゃ俺っちには勝てねえぜ」
「妾は翼を得たのじゃ。もう離されはせんぞ!!」
「フェンちゃん、それは甘いよ。この先は風の迷宮さ。一筋縄にはいかないぜ」
見れば、後続の名前を聞いていない若い龍の6頭の一団がスローペースになっていた。リリスの姿は見当たらないのでどうやら風の迷宮を抜けて先頭集団に追いついているらしい。
『最後尾のフェン様とシエロが中団の集団に追いついたようですぞ!! しかしここからは空島名物、風の迷宮ですぞ!!』
風の迷宮とは複雑な風の流れが渦巻くポイントのことだ。翼を使っていても、風が絡まり制御が難しく、普通の龍でも対処が難しい。
風の迷宮に突入した途端、辺りの空気が重たく変わる。
「風が、歪んでる……!」
俺は息を飲んだ。渦巻く風の流れはまるで意思を持っているかのように、俺たちを拒むように吹き荒れている。
フェンの風の翼がわずかに揺れた――直後、突風が横から叩きつける!
「フェン、右だ! 避けろ!」
「ぬうっ!」
フェンは反応しきれず、翼の端が風に絡まれる。制御が乱れ、一瞬体が落下しそうになる。
「――その時だった。」
目の前に現れたのは、うっすらと揺らめく 『幻影の風』 。まるで細い光の筋のように見えるが、近づけば消え、触れれば風に弾かれる――まるで罠だ。
「なんだ、これ……? 進めってことか?」
「違うのじゃ、勝!! あれは罠じゃ! 逆に誘い込もうとしておる!」
他の龍たちが光の筋に向かって突っ込み、次々と制御を失って失速していくのが見える。
シエロが迷宮の中を余裕そうに飛びながら、ニヤリと笑う。
「フェンちゃん、勝。風の迷宮を攻略するなら、もっと感じるんだよ――風そのものをな!」
そう言い放つと、シエロは一瞬で進路を見極め、まるで風そのものになったかのように滑るように前方に消えていった。
「――速い!」
シエロの飛行は風の隙間を完璧に見抜いている。俺たちも負けられない――!
「妾も感じておるわ! 勝、黙って掴まっておれ!」
ここはギャンブラーのコインに頼る場面だ。
コインが白く光ったら右、ひからなかったら左だ。
フェンの翼が微かに震えた。風の流れが変わった――。次はどっちだ!?
光った! 左! 光らない! 右! とフェンに指示を出す俺。
「右じゃ!!」
フェンの翼が素早く風の隙間に潜り込む。次の瞬間、迷宮の風が一瞬だけ途切れ、進む道が開けた――!
ちなみにここでもブレイズは強引に複雑な風を突っ切って進んでいた。
ノクスは自らに有利な風を操作して加速していった。
オーリスは柔よく剛を制すと言わんばかりにひょうひょうとした飛び方であっという間に迷宮を脱出していた。
リリスは曲芸飛行で空島の風の民を沸かせながら見せる飛び方で迷宮を越えていったようだ。
実況が言っていたのだ。
「フェン、ここは……!? 風が交差してる! それに見えない薄い空気の壁があるぞ。そこに当たると失速するな」
「うぬう、妾の翼でも風の流れを制御しきれん! まずいぞ」
コインが光った瞬間、俺は息を飲む。次の一瞬で選択を誤れば、フェンは迷宮の風に絡め取られ、転落しかねない――そんな緊張が指先にまで走る。
だが、フェンの背にしがみつきながらも、俺は信じる。フェンならこの風を掴める!
風の流れに翻弄されながらも、フェンの目が鋭さを増していく。
「勝、妾に任せるのじゃ……!」
「フェン?」
彼女は目を閉じ、風の音に耳を澄ませる。翼を少しだけ広げ、まるで風と対話するように進路を探る。
「聞こえる……風の道が見えてきた……」
フェンが微かに笑った。
「これじゃ、風の迷宮の流れを……掴んだ!」
俺は息を飲んだ。フェンが見ているのは俺にはわからない、風の道――まるで天才のひらめきのように、迷宮の中を飛ぶ進路を見抜いている。
「妾は風を纏いし狼じゃ。風よ、妾に道を示せ!」
フェンが翼を広げた瞬間、風の流れが一変した。彼女の周りだけ風が穏やかになり、滑るように迷宮を抜けていく!
出口が見えた――その瞬間、目の前に巨大な「風の壁」が立ちはだかった!
「なんだこれ!? 出口を塞いでる!」
「妾が突っ切るのじゃ!!」
「待て、フェン! 正面突破は無理だ!」
風の壁の横に微かな隙間を見つける。
「フェン、あそこだ! あの隙間を抜けろ!」
「任せるのじゃ、勝!」
フェンが風の翼を折りたたみ、急降下! 壁の隙間に滑り込むように潜り抜け、最後の瞬間に翼を広げる。
「――突破した!!」
迷宮を抜けた瞬間、風の音が静まり、目の前に無風地帯が広がっていた。
※6つの輪っか→4つの輪っかに変更しました。
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