第10話 レース開始!!

 俺とフェンは風の流れにどう対処するか答えが出ないまま、空島レースに挑むことになってしまった。


 練習中もエアウォークで風の流れをつかみながら走る訓練をしていたのだが……

 リリスは、勝とのデート権はいただきだーー!! とか、僕ちんがフェンの座を奪ってやるもんねーー!! とフェンを煽りに煽り、集中できないように仕向けていた。


 天然のように見せながら計算高い一面が見えてやりづらい奴だと思った。


 「はっはっはー、宙返りにV字飛行にあれもこれもやっちゃってーー」

 「ぐぬぬぬぬぬ」

 悔しいがリリスの飛行能力は本物だ。リリスは風向きが常に変わり、エアウォークで走ることもままならない空を自由に飛んでいる。


 練習をしているうちに他の龍たちも集まってきて思い思いの飛行をしていたが、全員空島を飛ぶことに慣れているのがこちらには痛かった。


 赤い龍、ブレイズは元々の飛行能力が高く、風を突っ切って飛ぶタイプだ。

 「この風の攻略法を教えてやろうか? 風などものともせずに突っ切ることだ!!」


 黒い龍、ノクスは風の流れを自ら作り出すことに長けていた。

 「おまえたちには、同情する。慣れない空中戦を強いられるのだからな」


 青い龍、シエロはとにかく風に乗った時の初速が早かった。

 「俺っちは風の貴公子! 風を愛し、風と共に生きるのさ!」


 金色の龍、オーリスは今までの龍たちのスタイルを兼ね備えたオールラウンダー型だ。

 「君たちには敬意を表しよう。だがこのレースを制するのは私だ」


 ほかの6頭の龍たちもそろったようだ。いつの間にか音もなくスフォルツィアが後ろにいて何事か話すようだ。


 「わーはっはっは!! 諸君、レースに臨む準備はできたようだな。各々の戦術を生かし、全力を尽くすのだ! 過度な妨害は禁止とするが、ある程度までなら許そう。もちろんそれぞれの戦略でタッグを組んでもいいわい! しかし勝者は一位のみじゃがのう!」


 「ねえねえ、狼耳の君、フェンちゃんだっけ。俺っちとタッグを組もうよ」

 「勝手にちゃん付けで呼ぶでない。妾は勝とタッグを組んで一位を獲るのじゃ。お主とは組まぬぞ」

  

 どうやらフェンはシエロが気に食わないらしい。俺は戦略上誰かと組んでもいいと思っているのだが……まあいいか。


 どうやら実況は風の民のハルがしてくれるらしい。どうやってこちらを追うのかは不思議だが風の精霊に近い風の民なら可能だろう。


 『さあ、スタートラインに各選手がそろいましたのう。どうやら風の古龍様の合図でスタートのようですぞ!』


 若干気が抜ける実況だが仕方ない。フェンは狼化してもうやる気満々だ。

 「勝つぞ、フェン!」

 「当たり前じゃ。勝も何かあったら頼むぞ。後はしっかりと掴まっておれよ」

 「ああ、もちろんだ」


 風の音が耳を裂くように響き、レースの準備が整った。

 目の前には広がる空島、遺跡の輪郭が風の中に霞んでいる。遠くの輪っかが輝き、目標地点を示している。龍たちは一斉にスタートラインへ並び、緊張感がピークに達した。


 スフォルツィアがスタート地点の後ろから暴風を巻き起こし宣言する!

 「レース開始!!」


 空気を切り裂くような声と同時に、フェンは爆発的な初速で駆け出した。風の足場を蹴り、一瞬でトップに躍り出る。


 『あーっと!! 開始直後に抜け出したのは勝様とフェン様じゃのう!!』


 「やった、抜けたぞ!」

 「フフン、妾を甘く見るなよ!」

 最初の一瞬で差をつけたフェンに、赤い龍・ブレイズがすぐに追いかけてきた。彼の体は風の抵抗を物ともせず、まるで弾丸のように突き進む。


 そしてエアウォークの足場にぎりぎりかすめるように飛び去って行った。

 「あの野郎!! 妨害か!」


 『これはまずいのう!! ブレイズがエアウォークすれすれで飛んだことにより、フェン様のエアウォークの風向きが変わったわい!!』


 フェンの足元の風が急に乱れた。エアウォークの道が一瞬で揺らぎ、バランスが崩れる。

 「フェン!?」

 「くっ……!!」

 足元の風が消え、フェンの体が空中に投げ出される。背中が冷たい空気にさらされ、落下の恐怖がよぎる。


 「勝、捕まるのじゃ!!」

 「――ちくしょう、ここで負けられるか!」


 フェンと俺はゆっくりと落ちていく。それをしり目にほかの10頭の龍がスフォルツィアの作り出した暴風を受けて翼に風を受けてどんどん飛んでいく。

 あれ、10頭? 後1頭は……? いやそんなことを考えている場合じゃない! 


 下を向くとピンク色の鱗が目に入り、ハッとする。まさか

 「僕ちん、参上!!」


 「「リリスー!!」なのじゃ!!」

 ピンク色の鱗の龍、リリスが助けに来てくれたのだ。

 「リリス、お前レースは……」

 「これくらいの差はハンデにもならないよ~。ていうかさ、スフォルツィア様がなんで暴風を吹かせてるか考えようよーー」

  

 「どういうことじゃ?」 

 「エアウォークは風の足場を作るだけでしょ? 風をつかむには不十分だと思わない?」

 「翼でも生やせってか?」 

 「そうそう、そんな感じでいいんだよ。フェンちゃんは翼はないけれど魔法は無限大!! でしょ?」

 そうか、俺たちはエアウォークで走ることにとらわれすぎていた。でもフェンには魔の才能があるから上級までの魔法は使えるのだ! 

 「リリス、ありがとう。これで俺たちも飛べるぞ!!」

 「どういたしましてーー僕ちんはレースに戻るよ!!」


 リリスは風をつかみ、ひと際華麗に宙を舞う。

 「僕ちん、負ける気なんてさらさらないからね!」


 ――その言葉と共に、リリスは風をつかみ、あっという間に空に飛び出していった。


 「すぐに追いつくのじゃ!!」


 俺たちはスタート地点に戻してもらい、秘策を話し合い始める。俺とフェンの顔はレース前とは違い、自信に満ちたものになっていた。


 ――シエロ視点――


 俺っちの推しのフェンちゃんが空中でバランスを崩し、落ちていったし!!

 助けに行こうかと思ったけどリリスの奴が方向転換して助けに行ったから問題ないだろう。


 「それにしてもあの走り方はナンセンスだな……」

 このレースは風をつかみ、時には自ら風の流れを作る必要があるレースだ。

 それに早く気付いてほしいと思いつつも、みんなの余計なことを言うなという圧力を感じて言えなかった。俺っち意外と小心者なんだよな。


 「あーやる気出ないー!!」

 俺っちはあえて10頭の最後尾につけて、リリスとフェンちゃんが来るのを待っている。

 「あの勝ってやつ、主人ならしっかりとフェンちゃんを導けよなー」

 何が主人だ。最後までダメダメだったら俺っちがフェンちゃんとくっついちゃおっかなー。

  

 そんな俺をリリスが追い抜いていく。

 「あーシエロ。手を抜いてるねえ」  

 「だってやる気出ないんだもん。フェンちゃんは大丈夫?」

 「あの二人はもう大丈夫よ。やっぱりここまで来ただけあって機転が利くわ」

 「本当かなー」


 のんびり話していると後ろからひと際強く感じる風を感じた。

 「なんだ⁉ あれは!!」


 そこに現れたのは風を纏い、翼を生やしたフェンちゃんと気に食わない主人の勝だった。


 「来やがったな!! 俺っちも本気出しちゃおっかな!!」 

 シエロのふざけた笑みが消え、青い瞳が一瞬、鋭く輝いた。

 「これが俺っちの本気だぜ――風よ、俺に応えろ!」


 その瞬間、彼の周りの風が唸りを上げ、彼はまるで疾風そのものと化した。

 このレース面白くなってきたぜ!! さわやかな風が吹いてどこまでも伸びていくのを感じた。










※6つの輪っか→4つの輪っかに変更しました。


























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