第12話 無風地帯にて

「ギャンブラーのコイン」と覚醒したフェンのおかげで風の迷宮を突き進み、ほかの若い龍がまごついているうちに迷宮を越えた!!


風の迷宮を越えた先に一つ目の輪があり、それを難なくくぐることができた。


『あーっと、風の迷宮を見事越えたのはシエロとフェン様と勝様だ!! その後ろに若い龍たちが続きますのう!!』


何頭かの若い龍はフェンの後ろにつくことで風の迷宮をかわしたようだった。

シエロは俺たちより先に風の迷宮を抜けていたようだ

「やるじゃん、勝! 風の迷宮を初見で抜けるのは称賛に値するぜ!」

シエロが前から余裕たっぷりに声をかけると、俺は少しだけ嬉しく、だが悔しかった。


『ここで中団集団は無風地帯に突入ですぞ!! じゃが先頭集団にいたブレイズが何故か待ち構えているぞーー!!』


「風が……止んだ?」

 耳に届くのは、心臓の鼓動とフェンの翼が空気を切る音だけだった。


風の迷宮を抜けた後は無風地帯に突入した。ここは直線コースでより早いものが力を示す。だがここにブレイズが待ち構えていた。まるで騎士が一騎打ちを望むかのようだ。


「貴様らを待っていたぞ!! ここからは俺と勝負だ!!」


どうやら、ブレイズとの勝負は避けられないようだ。

「フェン、どうやら勝負は避けられないみたいだぞ」

「先ほどの卑劣な真似は忘れていないのじゃ!! ここで待っていた理由はよくわからんがやるしかないのう」

「貴様らがここを抜けるのを待っていた……ただの力比べではつまらんからな!」


他の龍たちが飛んでいくのをしり目に空中で制止し、お互いに構えて進路を見る。

「面白そうなこと始めんじゃん!! 俺っちも混ぜてもらうぜい」

シエロとのレースも始まりそうだ。


無風地帯の前で2頭の龍と1人と1匹は無言で進路を見つめている。

ひと際強い風が吹き抜けた!! 無風地帯のレース開始だ!!


ブレイズが力強い飛行を見せて少しのリードを見せる。

その後ろに自分で上級風魔法を使って無風地帯に自分だけに有利な風を吹かせ加速していくシエロ。


「フェン、真似するのは癪だがシエロの飛び方は有効だ。ああいうふうにできないか?」

「ううむ、勝よ。上級風魔法『ウィンドクラフト』の維持が大変でこれ以上魔法を発動できんのじゃ……」


 ブレイズがこちらをちらっと見て、にやりと悪趣味な笑顔を見せる。

 「やはり貴様らはそこまでか。翼をもたぬものが我らを猿真似したところで底が知れてるなあ、グーハッハッハ!」


 シエロは加速しながらもこちらを心配そうにちらっと見た。意外と悪い奴じゃないかもしれないな。

 

 無風地帯はやはりこちらには不利だ……どうにかしないといけない。

 そういえば、ショートカットできる場所があるはずだが……まだその場所を見つけていない。


 「フェン、あえて無風地帯を避けるぞ! 遠回りになるがショートカットできる場所を見つけるんだ!」

 なるほどのう、とあえてコースを膨らんで無風地帯を避けるフェン。


『あーっとここでフェン様と勝様が無風地帯を避けるように膨らんだあーー!! どうされたのですじゃ!!』


その時某レースゲームの加速できる輪を思い出す。

 

 この空島はフェンの主人である転生者のアルスがスフォルツィアと一緒に作ったものだ。ならばそういう仕掛けがあってもいいはずだ。


 「フェン、風が集まって加速できそうな輪を魔法で探せないか?」

 「そんな輪があるわけ……いや思い出したぞ!! アルスがスフォルツィアとそんな話をしていた覚えがあるぞ!」


 「やっぱりか、場所は覚えてるか?」

 「覚えておらぬのう……」

 どうにかしないとブレイズとシエロとの差は開く一方だ。ここら辺の風は追い風じゃないからそこまで加速できない。


 「考えろ、俺。俺にできることは……そうだ!!」

 俺は隠しダンジョンでパネルの罠を越えたときにもらったスキルを思い出す!


 それは初級風魔法だ。ウィンドボールとウィンドカッターしか打てないが俺にだって風の集まる場所を見つけられるんじゃないか?


 俺はあえてウィンドボールを作り出してみた。緑色の光を帯びた風の弾が俺の手に集まり、何もない右の方に打ち出す。ウィンドボールは空に飛んで行って消えてしまった。

 「……頼む、反応してくれ……!」

 

 これ以上離されると中団集団からかなり遅れて致命的な差になってしまう……これは一種の賭けだった。 


 「勝? 何をやっておるのじゃ!」

 「ちょっと待ってくれ! 俺の考えが正しければ……」

 

 次に左の空に打ち出す! するとウィンドボールは何もないところで方向が変わり、コースの進路方向に加速して打ち出されていった!!

 「うおっ、あそこか! 行けるぞフェン!」

 「勝もやるではないか!! あそこに突っ込むぞ!」


 「フェン、突っ込む前にお前のサブスキルも発動させろ!!」

 「わかったのじゃ!!」


 我は風と共にあり:空気の膜を身にまとい、空気抵抗を減らすことができる。

 このスキルを発動させることでより早く加速できるはずだ!!

 俺たちに空気の膜が行き渡るのを確認する!!

 

 ブレイズとシエロは無風地帯を進みながらこちらを見て驚いた顔をしている。ふっふっふいつもフェン頼みじゃないんだぜ。


 俺とフェンは風が集まり加速する輪に進路を合わせるように一度旋回してから突っ込む!! その輪に入った瞬間、緑色の光がフェンと俺に絡みつき、「ウィンドクラフト」の翼がひと際緑色に輝く!!


 「――今だ!」

 一筋の緑色の光が爆発するように無風地帯を駆け抜ける!

 緑の光が尾を引き、まるで天を裂く流星のように無風地帯を貫いた!


 観客席から歓声が湧き、実況が一瞬言葉を失うほどの光景だった――

 一泊遅れてハルが実況を始める。


 『なんと、フェン様と勝様が独自の方法でショートカットを見つけたぞーー!! 一気に中団集団を抜いていくぅーー!!


 驚いているシエロとブレイズをあっという間に追い抜き、中団集団を抜けた!! 

 「貴様ら、そんなやり方で勝っていいのか!?」

 「な、なんだそれ!? フェンちゃんたち、ずりぃぞ!!」

 


 「くう……我らのやり方は甘かったか。そうかそうか、ガーハッハッハ!!」 

 「俺っちも負けねえぜ。なんたって風の貴公子だからなぁ!!」

 「この勝負は譲るが――次は正面から叩き潰すぞ!」

 








※6つの輪っか→4つの輪っかに変更しました
























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