第5話 ダンジョン探索
ダンジョンに足を踏み入れると、まず迎えたのは深い静寂だった。よくあるラノベのダンジョン物だとまず階段と扉があって、そこからスタートなのだが…… いきなり地下に飛ばされたらしい。これが転移というやつか。
外の風の轟音が嘘のように消えていた。シーンと静まり返っているがどこからか風が抜ける音もする。ハルが何事か呟き、手を掲げると、小さな光の玉が空中に浮かび、周囲をぼんやりと照らし出した。
「ここからは注意深く進まねばならんですぞ。古龍様の試練は予想外の形で現れることも多い。わしもすべては知らんが、風の流れを感じ、先を見通すことが肝心です」
「ひとつ聞きたい。守護者はいるのか?」
「もちろん。ですが俺様とフェン様がどのように戦うかは自由です」
「なるほどな……」
「どういうことじゃ?」
俺はフェンに向き直って、こう言う。
「つまりな、守護者を物理的にぶっ飛ばすか、何か別の俺負で退けるかは俺たちの自由でことだ。例えばギャンブルとかな」
「なるほどのう、前にも言っておった話じゃな」
「そいつらのスタイルに合わせて俺ったらサブスキルももらえるかもな」
3人はハルが出した明かりの魔法に照らされながら進む。やがて道の先に二つの分かれ道が見えてきた。
俺は慎重にコインを手のひらに持ちながら、進むべき道を見定めた。前方には二つの分かれ道があり、どれも似たように見える。フェンが鼻をひくつかせて、険しい表情を見せた。
「主人、ここはなんだか臭うのじゃ。左の道は……まるで腐った肉の匂いがするぞ」
「そうか。だが、それが罠なのかヒントなのか、ここじゃ判断できねえな。さて、どうするか……」
俺はコインを見つめ、少しの間思案した。コインを投げるという選択肢は、俺にとって自らの信じる道を見つけるための儀式でもあった。運を信じる、それが俺の生き方だ。
「……よし、やってみるか」
表が右、裏が出たら左と決めて「ギャンブラーのコイン」に身を任せることにした。
俺はコインを高く投げ、天井に届きそうなほど舞い上がらせた。光を反射してきらめくコインは、静かに彼の手のひらに落ちた。表が出た。
「右だ」
ハルが満足そうに頷く。
「見事ですな。コインが選んだ道が必ずしも安全とは限りませんが、その信念こそが試練を越えるための力になるでしょう」
フェンがため息をつくように言う。
「お主は本当に賭け狂いじゃのう……じゃが、だんだんかっこよ、いや何でもないぞ」
途中から聞こえなかったがなぜだか悪い気分じゃなかった。
進んだ右の道は狭く、岩が崩れそうなほど脆く見える。しかし、その先にはわずかな光が差し込んでいた。進むにつれて、風が再び強く吹き始め、まるで古龍の息吹がここで待ち受けていることを暗示しているかのようだった。
途中、床にはいくつもの奇妙な模様が刻まれていて、それがただの装飾ではなく、何かの仕掛けであることを俺は直感的に理解した。ハルが囁くように説明する。
「これは風の紋様ですぞ。踏み間違えると風の刃を食らうことでしょう」
俺は息を深く吸い込み、目を細めて床の模様を見つめた。
そして、一つ一つの模様に注意を払いながら、ゆっくりと足を前に進めようとした。フェンもそれに続き、いつでも俺を守れるように構えていた。
いや待て待て。「鑑定」スキルがあるではないか? なんで忘れてたんだ。挙動不審に止まった俺を何事かと見つめるフェン。ハルはフォッフォッフォとこちらの心の内を見透かすように笑っていた。
「主人? 何をしておるのじゃ?」
「ちょっと小便」
「こんな時に何を言ってるのじゃ……!! 遠くでしてほしいのう!!」
「フォッフォッフォ」
「鑑定」スキルを発動し、6種類の縄文文字のような模様を鑑定した後、1人だけ二手の分かれ道に戻り、本当に用を足しながら、模様の意味を鑑定する。
どうやら6つの模様は異なる風の音を出すようだ。その模様を正しい順番で踏んでいけば奥につながる道に進めるらしい。
俺はそれを確認して、ハルとフェンの待つ場所まで戻った。
「なるほどのう、ならば妾が風魔法でどのような音を出すか確認してみるのじゃ」
俺とハルが距離を取ったのを確認して、フェンは風魔法「ウィンドボール」を少し離れたところで一つ目の模様に向かって発射した。
「びゅおおおおおおおお!!」
時折風が抜ける音がするだけのダンジョンに嵐が吹き荒れる音がする。
そのマスの模様に向かって風の刃が発射された。その次に押したマスの模様はほとんど音がしないささやきのような風の音だった。
「うん、大体わかったな。だが一応、あと4種類も音を試してくれ」
「勝様、もうわかったのですじゃ? この老骨に教えてくだされ」
「ハル、知ってて言ってるだろ?」
「フォッフォッフォ、何のことやら」
フェンが6種類の模様の音を出した結果、次のことが分かった。
1: ささやく風(静かな風の音)
2: 突風(激しい風の音)
3: 葉を揺らす風(優しい風の音)
4: 風切り音(高く鋭い音)
5: 渦巻く風(渦を巻くような低い音)
6: 嵐の轟音(重々しい風の音)
「ハル、風の古龍の試練にまつわる詩があるんじゃないか?」
「主人、その順番に合わせて6種類のマスを踏んで進めばいいということか?」
「フェン、そんな感じだ。ハルどうなんだ?」
「正解にたどり着かれたようで安心しましたぞ」
ハルが教えてくれた詩はこんな感じだ。
「風の囁きは葉を揺らし、やがて渦を巻き、空気を裂きて突風となり、遂には嵐と化す」
若干古風に感じるが、意味は理解できる。要するに風の強弱があり、弱い風の模様から順番に強い模様のマスを踏んで進めばいいのだ。
俺は某ゼ〇ダの伝説のゲームが好きだったからな。単純だがわかると面白い謎解きだと思ったよ。
少しだけ懐かしい気持ちになりながら、6種類のマスがランダムに敷き詰められている36マスをささやきの風から順番に進んでいく。
そして3人が風の刃を食らうことなく、模様のマスを渡り終えると風の音の中にオカリナのような音が旋律を流す美しい歌が隠しダンジョンの中に響いた。
そして俺とフェンの体が緑色の淡い光に包まれ、体にその光が吸い込まれていった。
「主人、体に力がみなぎるのじゃ!!」
「それは俺も感じるよ。もしかして何らかのスキルを得たんじゃないか?」
「フォッフォッフォ、各々ステータスと唱えれば確認できますぞ」
「「ステータス」なのじゃ」
俺のステータスは……
駆田 勝(主人公)
• 種族: 人間
• 称号: ギャンブラー / 賭博の旅人
• 職業: 賭博師(ギャンブラー)
• 年齢 25
• 性別 男
• スキル:
o ギャンブラー: 運命を賭けた選択を決めるスキル。運に任せた行動を好み、賭けに強い影響を与える。
o 鑑定: 物や場所の詳細を見抜くスキル。特定の謎やアイテムの性質を見抜くことができる。
o NEW 初級風魔法:初級風魔法の「ウィンドボール」や「ウィンドカッター」を使うことができる。
• ステータス:
o 力: 18
o 敏捷: 30
o 体力: 25
o 知力: 60
o 運: 100+(非常に高い)
o カリスマ: 40
フェンのステータスも見せてもらった。どうやらステータスは自分が望めば他人に見せられるようだ。
フェン(相棒)
• 種族: 幻獣 / フェンリル(神狼への進化途上)
• 称号: 賭博の相棒
• 年齢 秘密じゃ!!
• スキル:
o 神速(回数制限あり): 驚異的な速度で移動する能力。短期間で爆発的なスピードを発揮し、敵の攻撃を回避したり瞬時に距離を詰めたりできる。
o 魔の才能:上級までの魔法ならすべての属性を使うことができる。ちなみに魔法のランクは初級、中級、上級、伝説級、神話級まである
サブスキル
NEW 我は風と共にあり:空気の膜を身にまとい、空気抵抗を減らすことができる。
• ステータス:
o 力: 50
o 敏捷: 90
o 体力: 45
o 知力: 25
o 忠誠心: 69
•
スキルを確認したところ、俺のスキルには初級風魔法、フェンのサブスキルに我は風と共にありが増えていた。
スキルの内容もなかなか有用で嬉しいな。
それにしても俺のステータスは運が異常に高いな。そういえば日本でギャンブルやってた時もあまり負けなかったな。転生する前は珍しく惨敗したから荒れてたが。
フェンが敏捷が高いのは予想通りだ。忠誠心はまだ微妙な数字だが焦らなくていいだろう。
というか俺までスキルがもらえるのは予想外だったな。まあ儲けものくらいに思っておくか。
「フォッフォッフォ、このパネルを飛び越えて進む者には与えられないスキルやサブスキルですぞ。気に入りましたかの?」
「ああ、力自慢の守護者に襲われたときに役立つな」
「レースの時にこのサブスキルがあれば助かるのじゃ!!」
「それはよかったですな」
パネルを越えて進んだ先に緑色の門が建っていた。
「ここは守護者の門ですぞ。ここの守護者は力試しを好んでいるので、ギャンブル勝負では通れませんのう」
「フェン頼めるか?」
「任せるのじゃ!!」
ハルが何事か呟くと、門が横開きでギギギと開いていった。どんな守護者が待っているのか楽しみだ。
*魔物→守護者に変更しました。
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