第4話 ストームバレーの隠しダンジョン
俺とフェンはキングスエッジを離れ、嵐が丘の谷にできた、嵐が吹き荒れるストームバレーに来ていた。
ストームバレーの名前を初めて聞いたとき、正直ちょっと笑っちまった。なんていうか、あからさまに危険そうな名前じゃねえか。でも、実際に行ってみるとその名前の由来に納得したよ。そこは常に嵐が吹き荒れる、まるで神々が気まぐれに作った自然の試練場みたいな場所だった。
昔、この谷には風の古龍が棲んでいたらしい。伝説によると、その古龍はこの地の風を自由に操り、嵐を巻き起こして谷全体を守っていたんだそうだ。理由は誰にもわからない。宝物を守るためとか、単なる縄張り意識とか、いろんな説があるけど、結局のところ、古龍にしかわからない気まぐれなんだろうな。
でも、この谷にはただの自然の荒れ地ってわけじゃなく、ちゃんと歴史があるんだよ。かつて、風の古龍がまだ生きていた頃、人々はこの地を「風の恩恵の地」なんて呼んでたらしい。嵐の中で生きるのは過酷だったけど、その風がもたらす肥沃な土地や、独特な鉱石が採れるってことで、一部の勇敢な連中はこの谷に住み着いたんだ。
そいつらは「風の民」って呼ばれていて、古龍との共存を選んだ奇特な奴らだった。風の古龍に対する信仰心もあって、嵐を鎮めるために祈りや儀式を行っていたらしい。でも、古龍の機嫌は良かったり悪かったりで、祈りが通じたのかどうかは怪しいもんだ。
やがて、古龍が姿を消してから、この地はただの嵐の吹き荒れる丘になった。風の民もほとんどが別の土地に移り住んだって話だ。けど、まだ何人かは残っているらしい。俺がこの地に来る前に聞いた話じゃ、谷の奥深くに古龍の痕跡が残ってるって噂もある。風に守られた遺跡や、風の力を宿した石なんかが眠ってるんだとか。
ま、そんな伝説が本当かどうかは分からない。でも一つだけ確かなのは、ストームバレーはただの荒野じゃなく、長い歴史と神秘が眠っている場所ってことだ。俺はこの地にはまだ古龍が眠ってるんじゃないかと思ってフェンと来たんだ。
だが見た限りでは嵐の吹き荒れるただの丘だ。レース会場はもっと丘の上の方にある。まずは隠しダンジョンを見つけなけれないけない。土地勘がないため、道案内が欲しいところだが……
「なあ主人、魔物狩りをするとは言ったが古龍退治をするなど聞いておらぬぞ?」
「どうせサブスキルをもらうなら一番強い奴にもらった方が早いだろ?」
なんじゃ、それは。どんな条理じゃ!! とぷんぷん怒るフェン。
「こんなところまで、アルスに似ておらんでもいいじゃろうに……」
「あ、なんだ?」
「なんでもないのじゃ!!」
フェンが小声で何かを言ったのだが風がうるさくて聞こえなかったので聞き返すとなぜか怒られてしまった。勝は肩をすくめて、あてもなくふらふらと歩くことにした。
天気は曇天で今にも雨が降り出しそうだった。この風の中で雨が降れば雷雨となり瞬く間にずぶぬれになるだろう。
俺とフェンは早めに岩陰に入り、暖を取ることにした。
「ふー、ここまで風が強いと、レースも大変そうじゃ。コースの詳細は知っておるかの?」
「ああ。初めはストームバレーの窪地からスタートして丘を駆け上がり、頂上に着いた後、岩がごろごろ転がってる坂を駆け下りてゴールだろ?全長20キロの中距離レースってところか」
「ふん、案外しっかり調べておるのじゃ。丘の頂上から下に向かって吹き付ける風が厄介じゃのう。特に前半じゃな」
「大事な相棒が出るレースだからな」
真面目に返すとフェンはそっぽを向いて頬を赤くする。俺は意地悪をしてやろうとにやにやしながらそっぽを向いている方に顔を向けてみるとフェンは慌てた様子で、見るでない! と叫ぶ。
「なんだ、可愛い顔もできるじゃねえか」
「かわ、可愛いじゃと? 変なことを急に言うな!」
フェンとイチャイチャしていると、そのうちに辺りが暗くなってきたので用意してきた水と固いパンと干し肉とチーズにかぶりつく。
スープがないのは、周りに水がないので、水に余裕がないのだ。固いパンと干し肉にチーズをつけて頬張っていると……
「フォッフォッフォ。お困りですかな?」
突如、つむじ風が強く吹くと、年を取った褐色の肌の老人が姿を現す。背は低く、背中は少し猫背だが何か風格を感じさせる顔つきだった。
フェンは即座に焚火から離れ警戒態勢に入る。勝も遅れて跳びあがる。
「そんなに警戒しなくてもよろしい。はるか昔の伝説の狼とその主人よ」
「こいつが伝説の狼?」
「うるさいのじゃ!」
彼の顔には深いシワが刻まれていて、その瞳はまるで風景そのものを見透かしているようだった。確かに、こいつは風の民って感じがする。歳を取っているのに、どこか精悍で、風と共に生きてきたことが体全体からにじみ出ている感じがした。
「フォッフォッフォ、仲がよろしいことで。ここは温かいスープでもどうですじゃ。この嵐の中では寒かろう」
「まあそういうならごちそうになろうか」
「主人!!」
「落ち着け、こいつはおそらく風の民だ。それに害そうと思えばいつでもできただろう」
「それはそうじゃが」
どうやらフェンは昔の主人とやらに捨てられて人間不信なところがあるようだ。だがそれならなんで俺には懐いてきたのだろうか。何か昔の主人と似ているところがあるのか?
「その通りじゃ、わしは風と共に生き、風と共に大地を見守る存在でもある」
「俺は古龍の眠る場所を探してるんだ。案内を頼めないか?」
「その場所で何をするつもりで?」
「古龍に挑む。そしてサブスキルをもらう」
男は一瞬、俺のことをじっと見つめた。まるで俺の覚悟を風で確かめているかのような、そんな感じの沈黙が流れる。でも、次の瞬間、彼は口の端をわずかに上げて笑った。
「わしらの主である古龍様に挑むとは。大馬鹿者か、それともただの賭ケ狂いなのか……よろしいですぞ。案内しましょう」
「ちょっと待て」
「何ですかな?」
「スープが飲みたい」
それを聞いて老人と一緒に歩こうとしていたフェンがずっこける。老人はフォッフォッフォと笑って、もちろんですじゃと答えた。
「このスープ、野菜と肉のうま味が感じられて美味いな」
「うむ、大地のうま味を感じるのじゃ」
「わしの料理をほめられて光栄ですぞ」
固いパンと干し肉とチーズだけだった夜飯に色どりが生まれる。いつまでも飲んでいたいスープだった。
「ご馳走になった。この礼はどう返せばいい?」
「我らが主の古龍様を楽しませてもらえればそれでいいですぞ、フォッフォッフォ」
意味深な一言を発して、老人が歩き出す。
俺とフェンも彼の背中を追って、風の中を進んでいく。風が吹きすさぶ谷底の音が不気味に響いて、足元の石は不安定で滑りやすい。だがこの老人――名前を聞いたが「ハル」と名乗った――は迷うことなく道を進んでいった。
谷の奥に近づくと、風がさらに強まった。まるで、俺たちを追い返そうとするかのようだ。ここが古龍の力が強く残る場所なのか、それともただの自然の猛威か。そんなことを考えていると、ハルが立ち止まり、振り返った。
「ここですぞ。風の古龍が眠る隠しダンジョンの入り口……ただの岩の壁に見えますが、風の流れに逆らって動けば、その入り口が姿を現す。風を読めますか?」
「俺に風を読む力なんかねぇ。でも、俺にはこれがある」
俺は懐から「ギャンブラーのコイン」を取り出して、ハルに見せつけた。ハルはちょっと驚いた顔をしたが、すぐに笑って肩をすくめた。
「風の流れをコインに任せるとは。さすが賭け狂いじゃ。その度胸があれば古龍様を楽しませてくれるでしょうぞ」
俺はコインを高く放り上げた。風が吹き抜ける中で、コインはキラキラと回転し、まるで風と共に踊るように空中を舞った。それを手のひらで受け取ると、表が出た。
「よし、左だ」
ハルは頷き、俺に続けと手招きしながら左へ進んだ。そして、風の流れに逆らうように動いた瞬間、壁だったはずの場所に微かな光が走り、入り口が現れた。まるで古龍が、試練を受け入れる者を歓迎するかのように。
「行こうぜ、フェン。風の古龍がどんな試練を出すのか、確かめに行こうじゃないか」
勝とフェンは、風の中に眠る神秘に挑む覚悟を改めて胸に刻みながら、ハルと共に暗いダンジョンの中へと足を踏み入れた。
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