第3話 主従契約と次のレースの決定

  「主人はなぜ妾にスキルがあったことを見抜いたのじゃ?」

  その質問にちょっとだけどう答えるか考える。だが素直に鑑定スキルのことを言うのはまずい気がする。結局は話を逸らすことにした。


  「フェンのパドックの様子を見てギラギラとした目に可能性を感じてな。まあ運命を感じたってやつさ」

  「う、う、運命じゃと? 妾の主人は詩人であったか……」

  冗談めかしながらも結構照れている。その直の反応にちょっと罪悪感を感じる勝。


  「運命的な出会いって言葉で語れないだろ? フェンはなんで俺を主人にしようと思ったんだ」

  「それはアル、いや前の主人にお主が似ていたからじゃ……」

  「どんなところが?」

  「女好きで女たらしな所もなんだかんだ世話を焼いてくれるところもどこか浮世離れした感じも含めて全部じゃ!!」


  ほめているのかほめていないのかわからないところもあるが、そこまで言われると俺も照れる。だが気づいてはいけない部分にも気づいてしまった。


  フェンは前の主人に捨てられてまだその影を気づかぬうちに追っているのだ。前の主人のアルスに出会ってついて来いと言われたらどうするのだろう、と考えながら口には出さなかった。


  「それでこれからどうするんだ?」

  「主人と主従契約を結びたいのじゃ」

  「どうやって結ぶんだ?」

  「血の契約を結ぶのじゃ」


  フェンが説明してくれた感じだと血の契約を結ぶためには、主人と幻獣の双方が手のひらを少し切り、血を混ぜ合わせる。

 それから契約を結ぶことで、絆が深まり、スキルが自由に使えるようになる。


 ただし、まだ完全に信頼関係が結ばれていない場合、契約の力が弱く、スキルは効果が制限される。


  

 「なるほどな、フェンちゃんと決めろ、昔の主人じゃなくて俺と契約を結ぶのか?」

 「うう……正直……まだ未練はある。あるが、昔の主人を見返すのだ! 妾は偉大なる狼になるのじゃ!」


 ……まだ未練は……ありそうだが……それでもいい、と勝は思った。

 まだお互いのことをほとんど知らないが、俺はフェンを神狼にしてこのギャンブルを制する。お互いの思惑があってもいいと思った。


 「じゃあ血の契約を結ぶか。お互いの血を混じらせるんだったな」

 「そうじゃ」


  俺が常備していたナイフを取り出し、お互いの手のひらを切って血を出す。

  俺とフェンがお互いの切った手を握る。痛かったがやせ我慢で顔には出さなかった。勝が教えてもらった文言を紡ぎ、契約を結ぶ。


  「我が血を捧げ、この契約を結ぶ。

  命尽きるまで、我は汝の主たる者。

  汝の力は我が力、我が意志は汝の意志。

  共に歩み、共に勝利を掴まん。

  この誓いに背くことなきよう、

  ここに誓約を立て、血を交わす。」


 文言を唱え終わり、お互いの手を固く握ると俺とフェンの体が白く輝きだす。その光は淡く、まだ強い光ではなかったがお互いの育ち始めた絆を感じた。


  やがて光が消えるとお互いの手のひらの傷口は消えていた。

 「これで神速は回数制限なく使えるようになったか?」

 「主人、そこまで見抜いておったか。いや回数制限はあることにはあるがひとまず2回まで使えるようになったぞ」

 「サブスキルはどうなんだ?」

 「サブスキルは……まだじゃ。正直『神速』2回使うだけではこれからのレースは勝てん。サブスキルを得るためには一つ方法がある」

 「その方法は……?」

 「魔物狩りじゃ!」



 ギャンブルに勝てばいい報酬が手に入る──金や財宝、サブスキルなんて代物だ。でも、負けたらどうなるかって? そりゃ普通に戦闘になる。要は、ギャンブルで勝てなきゃ命がけの戦いに突入するってわけだ。ギャンブルの緊張感と、負けたときの戦闘の迫力、その両方を味わえるっていうのは悪くない。



 魔物の中にはやたらとギャンブル好きな奴もいるんだ。知恵を駆使して勝負を挑んでくるタイプってやつだな。それとは逆に、ただ単に自分の力を誇示したい力自慢のタイプもいる。どっちに出会うかは運次第だが、ギャンブルで勝負するか、それとも力比べで戦うか、状況によって選べるのは面白い。


 俺とフェンは次に出る「幻獣ギャンブル」のレースを決めた後、魔物狩りへと出かけることにした。ちなみに次に出るレースの名前はこれだ。


 「烈風杯(ゲイルカップ)」

 レーストラックは高台にあって、常に強風が吹き付ける厳しい環境なんだ。この風をどう幻獣がうまく利用するかが勝負の鍵ってわけで、烈風を制する者こそが名誉を手にすることができる。


 俺たちはこのレースの出場手続きをして魔物狩りに出かけることにした。

 キングスエッジはそこまで熱くも寒くもならない温暖な気候だ。ポカポカとした陽気と日差しが俺たちを包んでいた。


 ――金持ち風の商人視点――


 「ほっほっほ。この前は飛び入り参加のルーキーにやられましたが、次は勝てますな?ペガちゃん」

 「もちろんだ!! あんな犬っころがスキルを使うとは予想外だったがそれを知っていれば我に不足はないのだ!!」


 絶壁ともいうべき薄い胸を張った金髪ブロンドの20代くらいに見える身長170センチの美人な女性が自信満々に答える。


 「ほっほっほ、仲良くなったとはいえ、敵同士ですぞ。次こそは負けませんぞ」金持ち風の商人プラトーは気の良さそうな笑みを見せながらも圧力をにじませながらリベンジの機会をうかがっていた。



 ーーキングスエッジの王城の一室――

 「王よ、報告がございます」

 キングスエッジを治める王城の一室に老執事ともう一人20代くらいの王がいた。


 「エッジよ、報告とはなんだ」

 「キングスエッジで大きな幻獣ギャンブルのレースではございませんが、フェンリルと名乗る狼が一着を取ったとのことで」


 「なるほどな、フェンリルか、はるか昔、博徒王アルスに仕え、幻獣ギャンブルの王として君臨した伝説の神狼か」

 「アーサー王よ、ご存じでしたか。そのフェンリルがキングスエッジに一か月前から滞在している一人の男と主従契約を結んだとか」


 「その男は博徒王アルスの再来かもしれぬな。王国の影をつけておけ」

 「はっ!!」


 老執事が出ていったことを確認してから独り言をアーサー王は呟く。

 「博徒王アルスは異世界より召喚され、博徒王として様々なギャンブルを広め、この世に安寧をもたらしたと文献には書いてあったが、なぜ神に頼み、神狼の名から神を奪うようにいったのであろうな……」
































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