第2話 フェンの過去(ちょっとだけ)

 二人は商業ギルドに行った後、冒険者の酒場、「剣と杯の酒場」に来ていた。

「主人、妾のおかげで勝ったのじゃから、おごるのは当たり前じゃな?」

「フェン、たかりに来たのかよ! お前こそ賞金は出たんだろ?」


 「出たぞ、金貨千枚ほどじゃがのう」

 「俺より持ってるじゃねえか! おごれ!」

 「はあー主人は甲斐性がないタイプじゃったか、ううぅ」

 泣きまねを始めるフェンに呆れながらも勝はウェイトレスを呼ぶ。

 

 「エール二つくれ!! 後はオーク肉のステーキとパンを二人前となんかつまめるものを」

 巨乳のお姉さんにチップとして金貨一枚握らせるとお姉さんは目を丸くして俺ににじり寄ると、熱い吐息をかけながら耳元でささやく。


 もちろんチップに金貨一枚握らせるのは過剰で相場は銀貨一枚ほどだ。

 過剰なチップを払う理由はお前が気に入ったという意味になる。

 俺はあとでフェンに教えてもらったよ。

 「あんた、見かけよりいい男だね、仕事が終わったらあたいの部屋にどうだい?」


 勝は金、酒、女が大大大好きな男である。むふーと鼻息を荒くしたところで隣から絶対零度の視線が刺さっていることに気づく。


 「主人?」

 フェンがびりびりとした殺気を放ち始めたため、剣と杯の酒場が静まり返り、俺にお前どうにかしろという視線が突き刺さる。さすがにまずいと思ったため、殺気に震えながらも耳元で固まっている姉ちゃんを引きはがして、ポンポンと背中を叩きながら耳元でささやく。


 「せっかくの誘いだが連れが怒ってるからな。ごめんな、美人の姉ちゃん」

 そう呟くと美人で巨乳の姉ちゃんは頬を赤く染めてふらふらと歩きながら給仕に向かった。

 「むう、女好きで女たらしとはあいつにそっくりじゃ。アル、いや主人選びを間違ったかのう……」

 フェンの憂鬱そうに何かを思い出してる顔は、ちょっとだけ憂いを帯びていていいなと思ってしまった。


 小声で何事かをつぶやくフェンになんだ? というと何でもないのじゃ! と切れ気味で返された。その様子を見て、やっと静まり返った酒場にも喧騒が返ってきた。


 「ったく、悪かったよ。俺は欲望に忠実な男なんだ」

 「フンッ、主人が女子ばかり見てるから悪いのじゃ!」

 「わかった、わかった。そう怒んなよ」


 フェンはぷりぷり怒っていたが頼んだものが届くとう旨そうにオーク肉にかぶりつく。尖った犬歯でパンと肉にかぶりつく様子は小気味良いものだった。


 「なんじゃ、この肉とパンは妾のものじゃ、やらんぞ」

 「なんでもねえ、てかサラダも食え!!」

 「いやじゃ、野菜は嫌いじゃ」


 ごくごくと温いエールを飲み干してフェンは言う。目がトローンとしていてどこか尖った雰囲気を出しているフェンだが、今は酔っていることが分かった。


 勝は酒は強い方だったのでエールをどんどんと飲んでいく。そのペースに負けじとフェンが張り合っているうちにすっかり出来上がっている。


「まだまだ……飲める……のじゃ……」

「いやいやお前、もう飲めねえよ。おーい姉ちゃん勘定を!」

「……主人は……酔っておらんではないか……」

「俺はもう10杯は飲んでるぞ」

「もっと飲め!!」


 これだから酔っ払いは、と思いながらフェンの分までお金を出す。がさつだが女への気遣いはできるって日本にいたときは評判だったんだ。


 先ほどの姉ちゃんに流し目を送られながら酒場で勘定を済ませ、外の風に当たりながら宿屋に行くものの、フェンのことを放っておくわけにもいかない。

 仕方なく宿屋でもう一人分一人部屋が空いていたのでその部屋を取る。


 さっさと酔っぱらいを寝かして、先ほどの姉ちゃんと熱い夜でも過ごそうかと思ったがなぜかフェンのことも気になり、とりあえず部屋に寝かしておくことにした。


 フェンを部屋のベッドに寝かせようとするもグイっとベッドに腕を引かれてそのまま添い寝状態になってしまった。

 抵抗しようとするも力強く抱かれているので逃げられない。


「主人まで妾のことを捨てるのか……昔の主人のように……嫌じゃ嫌じゃ、もう一人は嫌じゃ……」

「フェン?」


 だがその言葉から返事は返ってくることはなかった。俺はフェンの腕に抱かれながらその言葉の意味をじっと考えていた。


「こいつは捨てられたのか……前の主人に……」

 俺はもう抵抗はせずにフェンのことを考えていた。銀髪で狼耳の少女はどのような過去を経て幻獣ギャンブルに身を投じるようになったのか。


「寝顔は意外とかわいいじゃねえか」

 銀髪を撫でていると身をよじり、手を捕まえて甘えたしぐさを見せる。

「アルス……」


 アルスとはどんな主人だったのか。それを考えながら俺はそっとそのまま髪を撫でていたが、そのうちに寝てしまったようだ。



「起きろ! 起きろ! 妾のベッドで何をしておる!」

「うーん、もう5分だけ……」

「阿呆が!! 主人起きろ!!」


 パッチーンと頭を叩かれ、目覚める。目を開けるとベッドから起き上がった般若がいた。

「もう! 主人とは認めたが、体まで許した覚えはないぞ!」

「お前なあ!! フェンが離してくれなかったんだぞ!」

「な⁉ 主人、そんなことはない、いやあわわ……」


 酒に酔った後の記憶は残るタイプだったらしい。顔を赤くして後ろを向く。

「昨日の……」

「なんだ?」

「昨日妾は何か言っておったか? 恥ずかしいことを……」


 俺は少し考えてから、何も言ってなかったぞ、という。真っ赤なウソだったが女の秘密はあまり聞くものではないと経験上知っていたからだ。


 フェンはそうか、と言ってちょっと考えるそぶりを見せたが何も言わなかった。





























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