第1話 危機一髪
「有り金全部出せよ、わけえの」
今、肩幅が異様にでかいモヒカン頭の盗賊の親分みたいな男とその取り巻きの3人の計4人に囲まれている。
あの後、金貨5枚が金貨602枚になり有り金が日本円にして602万円になったので心配になった俺は商業ギルドの個人金庫に預けようとしたのだが……競馬場で目をつけられていたのか。
キングスエッジの治安ははっきり言って悪い……はずだったのだがこの世界はギャンブルが正義だ。だから暴力事件はほぼない。治安はめちゃくちゃいいのだ。ちなみに競馬場にも貸金庫はあるのだが、手数料が金貨2枚だし、従業員がチップと称してピンハネを堂々としてくる。
そのため、評判が悪く、月に銀貨5枚、日本円にして5000円取られるが個人金庫を貸してくれる商業ギルドが一番預けるにはいいのだ。それを一か月の異世界生活で知っていた俺は大金を鞄に突っ込んできたのだが後をつけられていたようだ。
「おうおう、兄ちゃん、聞こえねえか、もう一度だけ言う。有り金全部よこせ。もちろんギャンブルでなあ」
「いやだって言ったら? バルゴ」
名前は鑑定スキルで確認したものだ。
「ああ? てめえなんで俺の名前を知ってやがんだ!!」
俺はにやりと笑う。条件は揃った。神様とやらからもらった「ギャンブラー」というスキル。その発動条件は相手の名前を呼び、その相手が返事をしたら成立する。
「乗ったぜ! ギャンブルだ、バルゴ」
勝は鞄から金貨数枚を取り出し、指の間で弄びながら続ける。 「俺とお前で賭けをしようぜ。勝負に勝った方が相手の全財産をもらう。逃げるなら今のうちだぞ?」
バルゴは一瞬戸惑ったが、周りの取り巻きたちがクスクスと笑い出した。
「おいおい、兄ちゃん、自分からそんな条件出していいのか? まあギャンブルが全てだから仕方ねえよなあ」
俺はにやりと笑い返す。 「まあ、ギャンブルが大好きだからな。それに…俺が勝つ確率は高いんだよ。」
「その勝負ちょっと待つのじゃ!」
「だれだ! 俺たちの勝負に文句あんのか!」
白銀色の狼耳の少女が家の屋根から降り立つ。Dカップはあろうかという豊満な胸が目立つ、銀髪がきれいな身長は155センチくらいの少女だ。
「まあそうカリカリするな。妾は見届け人じゃ」
「なるほどなあ、俺の子分じゃ見届け人にはならねえか」
「そうじゃ、そちらの味方をするかもしれんしのう」
バルゴは眉をひそめて勝を睨みつける。
「面白え。見届け人も来たことだしやろうじゃねえか!」
その瞬間、俺のスキル「ギャンブラー」が発動した。空中に淡い光を放つコインが現れる。それは俺の手に吸い込まれるように落ち、手のひらで輝きを放った。
「さあ、これはただのコインじゃない。これは『ギャンブラーのコイン』」
勝はコインをバルゴに見せる。そのコインは金と銀が混じり合った不思議な色をしていた。
「これから、このコインを投げる。表か裏、好きな方を選べ。勝てば俺の金を全部やる。だが負けたら…お前の所持金を全部いただくぜ。」
バルゴはしばらく睨んでいたが、ついに笑みを浮かべた。 「いいだろう。俺は…表だ!」
俺は静かに頷くと、コインを高く放り上げた。空中でコインがくるくると回り、その軌跡は月の光に照らされて輝いていた。
コインが空中にある間、俺はバルゴの目をじっと見つめた。
「どうした、ビビってるのか? 今さら後悔しても遅いぞ。」
バルゴは唾を飲み込みながら答えた。
「俺がビビるわけねえだろ!」
コインが地面に落ちる寸前、俺はそれをキャッチし、手のひらを開いた。
「結果は…」
コインの面は「裏」だった。
「…俺の勝ちだな。」
バルゴの顔が一瞬で蒼白になった。周りの取り巻きたちも驚きの表情を浮かべていた。
「ば、バカな…そんなはずは…」
俺は冷たく笑った。 「さあ、約束だ。お前の全財産をいただこうか。」
バルゴは強制的に、腰のポーチから金貨が5枚入った袋を取り出し、渡してきた。
「これで終わりだと思うなよ…」 バルゴは悔しそうに呟きながら、仲間と共に立ち去ろうとしたが、一瞬立ち止まり、怒りの表情で俺を睨みつけた。
「どうした? ギャンブルが正義だろ? それに負けたお前はただの負け犬だぞ」
「おい、お主言いすぎじゃ。だが妾が見届け人になっているから勝負の結果は明らかじゃ」
「ちっ!! 覚えてろよ!!」
バルゴとその取り巻きはずかずかと足音を立てながら去って行った。
「フェンリルか?」
「そうじゃ、妾の主人は少々ポンコツなようじゃの……」
「主人?」
「それについては後で説明するのじゃ」
幻獣は腕っぷしが強いので、もし暴力に訴えられても止めてくれるだろうし、見届け人として正解だった。まあギャンブルが全ての世界ではそれも起きないのだが。
ちなみに幻獣ギャンブルには4つのレースがメインである。もちろんほかにも特殊なレースがあるのだが。
短距離レース:スピードが重視される。幻獣の「加速系スキル」や「瞬間移動系スキル」がカギとなる。全長10キロ程度。
中距離レース:スピードとスタミナのバランスが問われる。レース中の「回復スキル」や「持久力強化スキル」が重宝される。全長20キロ程度。
障害物競走:コースに様々な障害物(高さのある柵、泥のエリア、魔法障壁など)が設置されている。幻獣の「飛行能力」や「障害物突破スキル」などが活かされる。
長距離レース:持久力と耐久力が求められる。幻獣の「持久力」や「疲労回復能力」が重要。30キロ以上の距離で競う。
そして「幻獣」たちには固有のスキルのほかにサブスキルも存在するらしい。
「それにしても最初から見ておったが、お主不可思議な術を使うの」
「いや見てたんなら助けろよ!!」
「妾のマスターが従うにふさわしいか見定めていたのじゃ」
「へーへーそいつはご苦労なこった。それでどうなんだ?」
「それよりもお主勝つ気満々じゃったが、コインの裏表だと5割しか勝てないではないのか?」
俺は金と銀が混じり合った不思議な色の「ギャンブラーコイン」を取り出す。
「こいつはな、お互いの所持金に差があればあるだけ所持金が高いほうの宣言した方を出してくれるんだぜ」
「な⁉ お主イカサマしておったのか?」
「このコインについて聞かなかったあの男が悪い」
フェンリルは赤い顔をしてプルプルとし始めた。怒っているのかとちょっと不安になる勝だったが……
「クックック、あーはっはっはっは!! お主は面白いのう!! 妾はフェンリルのフェンじゃ!! これからフェンと呼べ!!」
「おう、フェン。それと俺の名前は勝だ。主人じゃねえ」
「いやじゃ、主人」
「なんでだよ!!」
二人はギャーギャーと騒ぎながら、路地裏を抜けて商業ギルドに歩き始めた。
新月がさんさんと輝き、キングスエッジの王都をさんさんと照らしていた。
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