「幻獣ギャンブル ~愛獣と紡ぐ絆の勝利~」

マロン64

プロローグ

 「いけーフェンリル!! お前が勝たないと俺の今日の宿代がないんだ!!」

 4本足の幻獣たちが全長10キロのレースのスタートラインから走り始めた。種類は様々でペガサスやユニコーン、バイコーン、ケンタウロスなど様々だ。


 実況者が熱を帯びた声で伝える。

 「さあ、一斉にスタートしました! 第1コーナーに差し掛かるのは、一番人気のペガサス、続いてユニコーン! おっと、白銀色の毛をなびかせているのは飛び入り参加のルーキー、フェンリルです!」

 

 その中で俺が一番押している「幻獣」が白銀色の毛皮をなびかせ、12頭の中でペースをうまくつかみながら先頭集団の3番手についていた。


 「よしコーナーを回ったな! お前の体力が一番残ってるぞ! 差せ差せ!」


 「おおっと、ここでフェンリルが先頭集団に飛び出した! ユニコーンを外から交わして、今2番手につけています!」


 おれの「幻獣」が一番手のユニコーンを外に膨らんで交わしぐんぐんと伸びる。

 だが内からペガサスも伸びてきて、フェンリルとペガサスの一騎打ちだ!! 

 ペガサスはさらに加速し、フェンリルを追い抜くとスキルを使う!


 ユニコーンの体が金色色に輝き、スキル「神馬進軍」を使い、なんとフェンリルの前に12頭の分身を出すではないか! 


 実況がますます興奮した声で叫ぶ。

  「さあ、ペガサスが加速する! フェンリルを追い抜く勢いだ! ここでスキル『神馬進軍』を発動! 12体の分身が出現した! フェンリルにとってはまさに難関だ!」


 「がーーーー!! いつもの出た!! フェンリル!! 何とか躱せ!!」

 

 隣の金持ちっぽい商人風のおっさんはこれは勝ちましたな、とペガサスに賭けていたのかホクホク顔だ。


 「フェンリル!! お前もスキル使え!!」


 その時走りながら、フェンリルは俺の目を一瞬だが見た。だがその瞳はどうしようかとか迷っている目だった。


 俺は賭田 勝という名前で一か月前に異世界ジャックオッズに転移させられた。パチスロで負けて、あぶく酒を飲んで二日酔いで川にげーげーと吐いていたら、バランスを失って川に流され、そのままおぼれてお陀仏だ。


 その後は異世界の神様にお前にぴったりの世界に送ってやろうといわれ、キングスエッジという国の王都の近くの森に飛ばされ、獣や魔物に襲われる前に這う這うの体で逃げて王都に入った。


 この異世界の面白いところはギャンブルに勝つ奴が正義という価値観であることだ。もちろん名前の通り、ギャンブルは大好きだ。パチンコやスロットも好きだが、一番好きなのは競馬だった。


 この異世界では「馬」の代わりに「幻獣」が走る「幻獣ギャンブル」という全長10キロという現実世界の馬では走り切れない距離を100メートル走なら1秒で走り切るバカみたいなスペックの「幻獣」が走る。


 そして種族ごとにスキルがあり、俺は神様に転生ボーナスで「鑑定」スキルをもらっているのでそれを利用してその「幻獣」の良しあしを想像し、勝ってきた。

 いつもだったら今暑い勝負を繰り広げているフェンリルではなくスキルを使ったペガサスに賭けていたのだが……


 今日は「幻獣ギャンブル」に飛び入り参加のルーキーがいると仲良くなった隣の商人のおっさんに教えてもらった。


 この世界の「幻獣ギャンブル」にも「幻獣」の良しあしを見極めるパドックの時間がある。だがこの世界ではスキルが判断基準とされており、飛び入り参加のルーキーは時々現れるのだが、どんなスキルを持っているかわからないため、敬遠されがちだ。そのためパドックの時間も軽視されており熱心に見るのは俺くらいだった。


 オッズもペガサスが1.5倍に対し、フェンリルは120.4倍で人気は断トツドベだった。なぜか異世界ジャックオッズではフェンリルはただの狼だとされていた。飛び入りのルーキーはスキル自体持っている可能性が低いのだ。だが俺の鑑定スキルはごまかせない。


 フェンリルのスキルは「神速」だった。「神」という名前がついているスキルは強い、俺の一か月の「幻獣ギャンブル」の経験則からわかることだ。


 だが気がかりなのは「神速」スキルに回数制限があったことだ。残り回数は一回でもしかしたらフェンリルは回数制限があることを知っていて温存しているのではないか、そんな節がある。


 目の前の「神馬進軍」を使ったペガサスは回数制限がない。なぜ回数制限がある「幻獣」とない「幻獣」がいるのかはわからなかったがいまはそんなことはどうでもよかった。


 「だーーーー!! フェンリル、スキルを使え!! 後は俺が適当にどうにかしてやる!」

 その言葉を叫んだ瞬間、フェンリルの瞳から迷いが消えた。白銀色の毛皮がさらに輝き、純白の狼と化した。


 実況は興奮を抑えきれない!

「おーーっと、飛び入りのルーキーが『スキル』を発動だと⁉ その姿はただの狼とは思えない‼ さあペガサスの「神馬進軍」をどうやって躱すのか?」


 スキル「神速」を使ったのだ!! だが「幻獣ギャンブル」では走っている間、2メートル空中に居たら失格というルールがある。さらにゴールの瞬間は地に足をつけていなければならない。俺は固唾をのんでどうなるかを見守った。


 ペガサスが一位を守りながら分身に進路妨害をさせ、フェンリルに飛び越えさせまいとする。だがフェイントを右往左往に入れるフェンリルがペガサスの分身が一瞬だが隊列を乱して飛べなくなったのを見逃さず、「神速」で純白の軌跡を描いて1メートルで飛び越える! そのまま残り5メートルを突き進む!  


 実況が叫ぶ!!

 「なんと一番人気のペガサスを人気最下位のフェンリルがフェイントを入れてかわしたああああ!! この狼は何者なんだ⁉ ゴールまで突き進む!!」


 ペガサスも負けじと加速するが「神速」スキルを使ったフェンリルの敵ではなかった。ゴールまで残り3メートルの時点で並び、一瞬で追い越した!!


 そしてゴールを駆け抜けた瞬間、観客の少しばかりの熱狂とどよめきと嘘だろ……という声が聞こえる。飛び入り参加のルーキーでただの狼と侮っていたフェンリルが一番人気のペガサスを差し切り一着を取ったのだ。俺はなぜか誇らしい気持ちでいっぱいだった。


 実況が吠える!!

 「一着は人気最下位のフェンリルだあああ!! キングスエッジがどよめいている!!」


 「なんとかしてやると言ったからには何とかしてもらおうかの」


 ゴールしたフェンリルのつぶやきは観客席の先頭にいる俺には届かなかった。しかしこちらを見やりながら何かを言っているのが見えたとき、心臓の高鳴りを感じた。これが後に「愛獣」となるフェンリルのフェンと出会いだった。


 ちなみに隣の金持ちっぽい商人風のおっさんは肩を落として、ペガちゃんとつぶやいていた。

















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