第4話 馬鹿なのか

怪我けがしてるわ」

 少し離れた場所に水溜まりがあったので、ミコは持ってきた荷物の中から手拭いを取り出して水に浸し、男の顔と手足を拭き始めた。


「んっ!」

 男が目を覚まし、ミコを見て驚き後ずさった。

「誰だ!」


「あたしはミコ。親切に拭いてあげてんのに、その言い草はないんじゃない?」

「拭いて‥‥確かに。済まない‥‥‥つっ!」


「あ、ごめん、痛かった?」

「ああ、痛いが、‥‥‥大丈夫だ」


「ねぇ、あたしは名乗ったわ。あんたは?」

「ああ、僕はルイス」

(“僕”ね、どっかのお坊ちゃん? )


「ここで何してんの?」

「‥‥‥追われているんだ」

「誰に?」

「‥‥‥敵だ」

(馬鹿なのか、こいつは)


「そりゃ、敵でしょうよ。何よ、それ。ま、いいわよ、詳しい事は訊かないであげるわ」


「君は? 君こそ、こんなところで何しているんだ? まだ子どもだろう。一人かい?」


「もう十六よ。訳あって、家から逃げ出したのよ」


「そうか、だけど、これからどうするんだ?ここに住むのか?」


「うーん、とりあえず、友達がいるから、当分の間はここにいるわ」


「友達?」

「そうよ、友達。ほら、入り口のところに沢山いたでしょ、コウモリ」

「‥‥‥」

(何だ、この女は。頭おかしいのか?余り関わらない方がいいな)


 ルイスはいぶかしげな目でミコをじっと見つめた。イケメンに見つめられて、ミコは頬が赤らむのを感じ、話を変えた。


「何よ。ほら、他に怪我してるとこ、ない?」


「いや、大丈夫だ。ありがとう」

 そう言ってルイスはまた目を閉じた。


 だが、彼はとても辛そうだった。


 気にしながらも、ミコもだんだん眠気が降りてきて、そのままそこで眠ってしまった。


 朝、目が覚めたら、ルイスはいなかった。

 ミコは慌てて起き上がって彼を探した。

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