第6話 とあるファンクラブの議事録

 第88回 愛しの先生親衛隊ファンクラブ会員番号一桁シングルナンバー 放課後定例会合議事録


 書記係 No.9


 作成日 4月8日


 開始時刻 20時16分


 天候 愛しの先生の笑顔のように快晴


 発言者の会員番号ナンバーを記入し、発言内容を記録


 尚、紙による記録の他、録音機による音声議事録も同時並行で作成中


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


No.0 ──。

『まずは報告から始めましょう。何か、報告事項がある方は?』


No.5 ──。

『アタシから一つ。会員番号198が先生の盗撮をしてやがったから、反省文500枚の刑に処した』


No.3 ──。

『ま、また盗撮ですか……今月でもう七件目ですね』


No.4 ──。

『ま、撮りたくなる気持ちはわかるけどね。私も許されるなら、先生の写真を沢山撮りたいし……実際にやるのは駄目だけど』


No.7 ──。

『あ、それはボクも共感できる。特に今日の授業中に大きなくしゃみをして恥ずかしがっていた先生は、写真に収めたかったなー。可愛かった』


No.2 ──。

『羞恥する先生……夜空を彩る満天の星々にも勝る美しさだね』


No.6 ──。

『いいなぁ。ユルンも可愛い先生見たかったー』


No.8 ──。

『そんな先生を見たなんて……ずるいわね。あ、想像しただけで子宮が準備を整え始めたわ」


No.4 ──。

『とにかく、盗撮対策は必須ってわけね。少し前には新入生も入ってきたし、対策は徹底しないと』


No.5 ──。

『そうだな。どうせ近い内に大半の新入生が先生にお熱になるんだし……はぁ、本当に罪な人だぜ」


No.2 ──。

『だが、罪なことも彼の魅力なのだよ。禁断の果実は古来より、人を惹きつけるものなのだからね。見給え。我らが長、一国の王女ですらこれだけご執心だ』


No.0 ──。

『身分は関係ありません。彼の胤を賜り、命の宿る卵を身に宿したいと思うのは、生物として当たり前の本能なのですから。できることなら、使用済みのスプーンやティーカップも欲しいです』


No.8 ──。

『それはちょっとキッショいわね』


No.7 ──。

『もしかしてNo.0が一番危ない生徒な説ある?』


No.4 ──。

『説っていうか、事実じゃないの』


No.6 ──。

『アハハ! 天空王国の王様はNo.0にどんな教育したんだろーね!』


 全員がNo.0の発言にドン引き。

 

No.0 ──。

『好きなように言ってください。これも全て、先生への愛が大きい故』


No.5 ──。

『開き直りやがった』


No.4 ──。

『今日の定例会合はNo.0を鬼詰めする会にしない? 多分これ、突けばボロ出るよ』


No.7 ──。

『ちなみに直近の産卵の御供は?』


No.0 ──。

『二人きりの研究室で先生に『頑張って』と応援されながら、彼の腕に抱かれて悶えながら無精卵を産卵する妄想です。勿論、終わった後は『頑張ったね』と頭を撫でてもらうシチュエーションも添えて』


No.2 ──。

『ほぉ……悪くない』


No.5 ──。

『中々良いシチュエーションと認めざるを得ないな』


No.8 ──。

『胎に卵を宿す種族の乙女が一度は憧れる……素晴らしいわ。No.0。悔しいけど、貴女を認めてあげる』


No.3 ──。

『……い、いいですね』


 全員が頷いた。

 憧れのシチュエーションだ。


No.0 ──。

『私のことはこれくらいでいいでしょう。それよりも……No.1。先ほどから沈黙していますが、どうしたのですか?』


No.1 ──。

『……一つ、聞きたい。No.0は本当に、先生と調べものをしていただけ?』


No.0 ──。

『どういうことですか?』


No.1 ──。

『恍けても無駄……No.0。先ほどから、貴女の翼の動きが、今朝よりも軽やかになっている。何かあったとしか思えない』


No.0 ──。

『……中々に鋭い』


No.1 ──。

『答えて。返答次第では……明日の朝、貴女を起こしてあげない』


No.5 ──。

『それだけかよ』


 全員の視線がNo.0に集中。

 10秒後。

 No.0が懐から写真を取り出し、机上を滑らせ、全員に配った。


No.1 ──。

『これは?』


No.0 ──。

『ご覧ください』


 No.0に促され、全員が写真を手に取る。

 写っていたのは、服に沁み込んだ水を絞るために腹部を露わにしているゼファル先生。

 不意打ちでお宝写真を目の当たりにした結果、No.2、No.4、No.6、No.7、No.8の五名が幸せそうな顔をして失神。


No.0 ──。

『生き残ったのは……四人ですか。既に虫の息とはいえ、よく耐えましたね』


No.1 ──。

『これは、あまりにも……エッチすぎる』


No.3 ──。

『せ、先生のお腹……へへへ』


No.5 ──。

『い、いきなり何を……こんなエチエチレベル5の写真を渡して、何のつもりだ、No.0ッ!』


No.0 ──。

『黙秘の対価です』


No.1 ──。

『! ……答える気はない、と?』


No.0 ──。

『正確には答えられないのです。あの研究室で何があったのか。それを口外しないと、先生と約束をしているので』


No.5 ──。

『チッ! 先生との約束か……愛しの先生親衛隊ファンクラブの規律に反する淫らな行為はしていないんだろうな?』


No.0 ──。

『はい。それはお約束いたします』


No.5 ──。

『ならいい。黙秘を許そう』


No.1 ──。

『同じく』


No.3 ──。

『い、異議なし』


 No.9も異論はなし。

 全員が渡された写真を懐に仕舞った。


No.5 ──。

『しかし、どうする。まだ会合は始まったばかりなのに、半分気絶しちまったぞ』


No.0 ──。

『構いません。議事録も作っていますし、今日は私の報告を終えたら解散にしますから』


No.1 ──。

『じゃあ、どうぞ』


No.0 ──。

『……先生の研究室に何者かが卵を置いていきました』


No.3 ──。

『え!』


No.1 ──。

『不届き者』


No.5 ──。

『徹底的に調べ上げて、締め上げないといけないな』


No.0 ──。

『皆さん、落ち着いてください。既に先生が調査自ら調査を進めていますし、私も微力ながら協力していますので、ご安心を。……苦戦はしていますが』


No.3 ──。

『わ、私たちにできることは、ないのですか?』


No.0 ──。

『勿論あります。私はこの場で貴女たちに……より一層の、先生の守護をお願いしたい』


No.5 ──。

『先生に妙なちょっかいを出す奴らが出ないよう、これまで以上に目を光らせろってことか』


No.1 ──。

『それなら、頼まれるまでもないこと』


No.0 ──。

『ありがとうございます。研究室に卵を産み落とした者に関しては、引き続きこちらで調査を進めます。そして、このことはくれぐれも内密に』


No.1 ──。

『了解』


No.5 ──。

『先生を守護まもるのはアタシたちの役目だからな』


No.3 ──。

『あ、あの~』


No.0 ──。

『ん? どうかしましたか、No.3』


No.3 ──。

『す、すごく野暮なことを聞いてしまうかもしれないんですけど……さっきの写真って、盗撮じゃないんでしょうか?』


No.0 ──。

『……鋭すぎる勘は身を滅ぼすことになりますよ』


No.5 ──。

『脅迫するなよ。盗撮って認めたようなものじゃねぇか』


No.1 ──。

『……とりあえず、反省文100枚』


No.0 ──。

『なッ……あ、貴女たちは先ほどの先生の写真を回収したではありませんか!』


No.5 ──。

『あ、アタシたちは悪事の証拠を押収しただけだ。問題なんてない』


No.1 ──。

『丁度盗撮対策の議題も出た。貴女を見逃したら、他の会員たちに示しがつかない』


No.3 ──。

『あ、えっと……頑張ってください』


No.0 ──。

『くっ……裏切者たちめッ!』


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 閉会時刻 21時23分


 決定事項 盗撮対策の徹底

      先生の一層の守護

      No.0に反省文100枚(後日提出済み)


 尚、この会合、議事録の存在は、決してゼファル先生に知られてはならない

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