【鑑定その4 乳アーマーみたいな何か 前編】
「だからあ、こんな鎧があるわけないでしょ」
ルブラが言う。
彼女の手には、四角いフライパンをふたつつなぎ合わせたような金属製品がある。この間工房にもちこまれてきたものだ。
二つの小さな四角いフライパンは、蝶番のような部分でつながっていて、それで折りたたむことができるようになっている。
その金属には不思議な表面加工が施されている。さらさらした手触りのその不思議な物質は、なんと、ほとんど物体がくっつかないのである。熱にも酸にも強い。ほとんどの金属を腐食させるアシッドスライムの体液ですら、乗せても変化がないほどだ。
ダンジョンでよく見つかる異界のフライパンにはよくその加工が施されている。しかし、今回問題になっているこれがフライパンだとは思えない。フライパンにしては小さいし、ふたつつなげる意味が分からない。
わたしはこれを見たとき「あ、胸アーマーだ」と思ったので、これを「異世界の胸アーマーの部品」として報告書を書こうとしていた。しかしルブラに見せたところ、これは胸アーマーではないという。
ちなみにここでいう胸アーマーとは、女性戦士が乳の部分をおおう鎧のことだ。乳の部分だけ保護してもあんまり鎧としては意味がない気がするが、乳と腰回りだけ鎧を身につけた女性戦士の絵は異世界の本で見たことがある。だから存在するのだろう。そう思ったのだ。
「いや。これが鎧なんて変でしょ。ほら」
ルブラはその金属製品を胸にあてがって見せる。
「やだ……似合う」
わたしはわざとらしく手を口元へ持っていく。
「もー」
ルブラはふくれっつらでこちらを睨む。もう二段階ぐらい怒るとガチ怒りモードになりそうなのでこのへんでやめておく。しかし、ルブラがここまで言うからには本当に違うのかもしれない。自信がなくなってきた。
「だいたい、これが胸アーマーだとしたら、なんで四角いわけ?」
「異世界の種族は乳が四角いのかもしれない」
自信がなくなりつつも、わたしはそう反論する。
いちおう、根拠はなくもない。前述の通り、これには錬金術的な加工がほどこされていて、酸などに耐性がある。そういう加工をほどこすからには、なにか身を守るような用途があったと考えるべきではないだろうか?
たとえば、酸や毒液を飛ばしてくる相手から身を守るなどだ。
「乳だけ守ってどうすんのさ」
ルブラは言う。
「異世界の種族は乳が急所なのかもしれない」
「んなめちゃくちゃな……」
ルブラはあきれた顔をする。これ以上意地を張ると、わたしの信用がなくなりそうなので、わたしは黙ることにした。
「っていうかこれ、フライパンだよどう見ても」
ルブラは問題の物体を閉じたり開いたりしながら言う。
「フライパンをふたつつないでなにするの」
「うーん」
ルブラも首をかしげる。
今回の鑑定品メモ:
【胸アーマー?】
わたしはこれを胸アーマーだと思う。乳が四角い種族がいないという確証はない。たぶんそうだと思う。そうなんじゃないかな。……自信がなくなってきた。もしかして強酸性のスライムを閉じ込めて焼く道具なのだろうか?
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