【鑑定その4 乳アーマーみたいな何か 後編】

「あ、わかった!」

 ルブラは謎の二つ折りの道具の使い方がわかったらしい。

「ちょっと台所借りるね」

「えっ……い、今はちょっと」

「なに? また洗ってないお皿ためてるの?」

「うっ」


「こりゃひどい」

 ルブラは台所を見て言った。

 いちおう、うちの工房にも台所がある。いちおうと書いたのは、ほとんど使える状態ではないからだ。わたしは異世界鑑定士としての仕事に集中するあまり、家事のたぐいはサボりがちだ。

 とくに洗い物はめんどくさいので、ためまくっていた。その時も、洗い場にはありとあらゆる食器が山積みになっているありさまだった。わたしは使える食器があるうちは洗い物をサボり続けるくせがある。

 ルブラはその様子を見てしばらく絶句していた。


「まあいいや、あとで洗ってあげるから」

 ルブラはそういうと、机においてあったパンとチーズを切り始めた。

 わたしは家事が面倒になるとパンとチーズをかじってだいたいの食事を済ます。だからそれらは常備していた。とはいえ乾いてガビガビになっていて、そう美味しいものではないはずだが……。

 さらにルブラは台所にあった卵を見つけ、それらを謎の器具にはさむように入れた。


「これはね、こういうものだよ」

 そういってルブラはかまどの火をおこし、その調理器具をひっくり返しながら焼いた。

 そのまましばらく待つ。

 なんということだろう。わたしがふだんかじっているパンとチーズが、暖かくて美味しい料理になったではないか。

 ルブラはついでに皿も洗って、きれいな皿にそれを乗せて出してくれた。

「う……うまい」


「異世界にもカタリアちゃんみたいなズボラな人がいるんだろうねえ。たぶん」

 と、ルブラは洗い物をしながら言う。

 わたしは何も言い返せないまま、この【異世界の二つ折り式調理器具】のレポートを書いていた。今回は完全にわたしの負けだ。どう考えても、これは胸アーマーではない。

「ねえルブラ、この道具の使い方、わたしが見つけたことにしていい?」

「いーよ別に」


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