【鑑定その3 ポポーポポポポと鳴る神像 前編】
「カタリアちゃん。これは値打ちもんかもしれないよ!」
ルブラが戦利品袋を引きずりながら入ってきた。
彼女は袋の中から妙な白い箱状の物体を取り出す。
その白い樹脂状の物質でできた箱みたいなものは、前には小さな穴がたくさん開いていた。経験上、音の出る部分はこうなっていることが多い。それだけなら珍しくないのだが。それには二本の手……というか手にしか見えない絵の描かれた板が生えていた。
「なんだろうね? これ」
ルブラは目を輝かせてそれをさし出す。
「な、何なんだ……これは」
「ゴブリンたちが拝んでた」
「はあ?」
ルブラいわく、その奇妙な物体は、迷宮に巣くうゴブリンの群れによって大事に保管、というより崇拝されていたらしい。祭壇のように組まれた石の上に安置され、ゴブリンのシャーマンが両手を振り、祈っているのかなんなのかよくわからない動作をしていたそうだ。
わたしはそれを受けとり、ひと通り外観を確かめる。
すぐにそれが「電池」で動くものだとわたしは見抜いた。
異界のアイテムの中には「電池」で動くものがある。わたしはこの「電池」の正しい使い方を発見したことで異世界鑑定界に激震を走らせ、比類のない異世界鑑定士として名をはせたのだ。
電池はダンジョンの奥にもよく落ちている。今回もルブラの戦利品のなかにあった。わたしはさっそく電池をセットし、その奇妙な異界の遺物を起動した。
すると……。
ぽぽーぽぽぽぽ ぽぽーぽぽぽぽ
ぽぽぽぽぽーぽ ぽーぽぽー
ぽぽぽぽぽー ぽぽぽぽぽー
ぽぽぽぽぽーぽ ぽーぽーぽーぽー
ぽぽーぽぽぽぽ ぽぽーぽぽぽぽ ぽー
得体の知れない音楽がそれから鳴り響きはじめた。そして音楽に合わせてそれは両手をぶんぶんとスイングさせるのだった。
音楽はしばらくすると繰り返す。
ぽぽーぽぽぽぽ ぽぽーぽぽぽぽ
ぽぽぽぽぽーぽ ぽーぽぽー
ぽぽぽぽぽー ぽぽぽぽぽー
ルブラは爆笑しはじめた。ツボに入ったらしい。
「はははははは! なにこれ! ははははははは!」
ルブラはもう転げ回らんばかりに笑いまくっている。
どうやら音楽は何度も繰り返すらしい。わたしは王都の正調な楽隊の音楽に親しんでいるのだ。これは耳に合わない。このような音楽は王都のコンサートホールではなくざわついた市場が似合っている。
「ははははははは!」
ぽぽぽぽぽーぽ ぽーぽーぽーぽー
「あはっ、ははははははは!」
ぽぽーぽぽぽぽ ぽぽーぽぽぽぽ ぽー
「なにこれ! はははははは! ははははは!」
ぱちん。
わたしは神像の動作を止めた。
「ちょっとなんで止めるのさあ」
「ルブラが笑い死にしそうだったから」
今回の鑑定品メモ:
【神像ポポーポポポポ】
ポポーポポポポ、ポポーポポポポ、とけたたましい音を鳴らす。経験上、ルブラが「値打ちがあるかも」と言うアイテムはあまり値打ちがないことが多い気がする。でも彼女は大爆笑していたし、彼女にとっては値千金かもしれない。
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