【鑑定その2 旋回する護符 前編】

「何の……ためのものなんだ。これは」

 わたしの手の上で、その金属物体はずっと回転し続けている。

「いかん……本当に目的が分からん」

 それはただ、しゅるしゅるという音をたてて回転するだけ。

「どう見ても……ただ回ってるだけとしか思えん……」

 その金属物体は【何かの紋章か護符】のように見える。三方向に突き出した対照的な突起部には文様が彫り込まれている。そして中央にはリング状の部分があり、そこを持って指ではじくと、外側の紋章部分がくるくる回転する。


 すごいのは、それがくるくるくるくるとえんえん回転し続けることだ。どういう仕組みになっているか分からないが、とにかく摩擦を最小限にする技術が使われているようだ。

「おもちゃじゃないの」

 ルブラは言う。

 彼女はその【紋章のような物体】を手に取り、指ではじいて回す。

「ほら、くるくる回転させて遊ぶんだよ」

「いや、その理屈はおかしい」

 わたしは反論する。

 こんな高度な技術を使うからには何か実用品に違いない。

 それにこの物体には「錆びない鉄」が使われている。これも精霊銀と並んでとても貴重なものだ。オモチャに使うとは思えない。


「これ、どこで見つけたの?」

「ダンジョンに落ちてた」

 ルブラは飽きたらしく、わたしにその【回転する謎の物体】を投げてよこす。

「正確に言えば、かぴかぴになった冒険者の手の中にあったんだけど」

 ルブラの言うことを翻訳すると、ようするにミイラ化した冒険者が持っていたものらしい。


 彼女に言わせれば、わけのわからないものがダンジョンに落ちていることは日常茶飯事で大したことではないとのこと。しかしわたしの方はそれが何であるか鑑定し、報告しなければならないのだ。

 と、その時にひらめいた。これも前回の【魔人殺しの菓子】と同じで、モンスターを倒すための道具かもしれない。と。


「そうだ! これはドラゴン退治の紋章かもしれない」

 わたしは言った。

「え?」

 ぽかんとしているルブラにわたしは解説する。

「ドラゴンとかリザードマンとか、そういう爬虫類種族は動体視力なんだよ。動いているものしか見えないの。だから、これを回転させて、他のものが動かなければそっちに気を取られるんだよ。その隙をついて攻撃するんだ」


「そうかなあ」

 ルブラは半信半疑だ。

「まあカタリアがそう言うなら、ちょっと試してみようかな。ちょうど、今からちょっとドラゴンのいる階層に用事があって、行こっかなって思ってたし」

 そう言ってルブラはその【竜殺の紋章】を持って研究所を出て行った。ドラゴンのいる階層というのはちょっと用事があって行こっかなってなるものなのだろうか。




今回の鑑定品メモ:


【竜殺の紋章?】

 回転をつけるとシュルシュルと回り続ける。手のひらサイズの謎の紋章。こんな高度な技術を使うからにはよっぽどの理由があったに違いない。少なくとも遊びのために作るとは思えない。ちょっと楽しいが……。

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