第12話

彼女と顔を見合わせた。


『結局ずぶ濡れだね』


『ホント〜、折角の勝負服が台無し〜』


『あのまま桟敷席にいたら、皆んなパニックで暫く帰れなかったと思うよ』


『そんなの最悪〜』


彼女の白いワンピースが若干透けて見え、雨で肌に張り付き気持ち悪そうだった。



載せていたタオルを渡し、彼女と話をしながらも、この後どうしょうか悩んでいた。


『さっきはありがと。優しいんだね』


『え、何が?』


『だって、雨の中、ドアを開けて先に乗せてくれたから…』


『この車、チョット変わっていて、知らない人はドアの開け方に悩むんだよね。って言うより”紳士”ですからって言うべきかな』


『乗るのが私より遅いから凄い濡れちゃって…』

彼女は拭いていたタオルで、顔を拭いてくれた。


彼女の爽やかなコロンの香りがタオルに移っていて、理性を刺激してくる。


『ありがとう』

不意を突かれた彼女の優しさに戸惑いながら、やっとの思いで言葉を返した。


『これじゃ風邪ひいちゃうね。』

彼女は平静を装っているが、寒さを感じて声が震え、鳥肌が立っている。


『寒いかい?』

拭いてくれている彼女の手を取り両手で暖めた。


『随分冷えちゃったね。』

彼女の手を暖めながら眼を見つめた。


急に無言になる彼女。


冷たくなった肩にも手を置き暖めた。


『暖かい…』

彼女が呟き、眼を閉じて肩に置いた手に頬を寄せてきた。


彼女の飾らないその仕草が、俺の中のDNAに刻まれた何かを呼び覚ました。

そして、理性をあっという間に抑え込み俺の身体を乗っ取った。

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