第11話
桟敷席のお客さんが何組か帰り始めた。雨はまだ降っていない。
『大丈夫?、もう帰る?』
彼女の顔を覗いた。
『花火はまだ見たいけど、雷は怖いし…』
『帰りながらでも見れるから、降り始める前に帰ろ』
『う〜ん…』
名残惜しそうな彼女だったが、雨が降り始めてからでは群衆がパニックになって怪我をされても困るし、何とか説得した。
桟敷席から降りて通路に出たが、桟敷席のお客さんが何組か帰ったとしても、混み具合は来る時とあまり変わらなかった。
来る時と同じ様に、彼女を抱き寄せながら人混みを掻き分ける。
来る時と違うのは、花火が断続的に打ち上がっているので、皆花火に見入って上を向いているので、声を掛けながらでないと前に進めない。
彼女も、花火を見るどころではない様子だ。
ようやく、人混みが疎らになり始めたところで雨が降り始めてきた。
まだ、近くに駆け込み出来そうな雨宿り場所が目線に幾つか入っている。
しかし、会場の目の前にある駅構内は、夕立が来ると皆んな駆け込んで来て、”満員電車のミストサウナ”になる事を知っている。
『このまま駐車場まで行っちゃおうか』
『うん』
彼女の手を引き、先を急いだ。
駐車場まであと5分位の所で雨脚が強まってきた。
周りの人達は、皆、足早に雨宿り先を探している。
50m先に車が見えた瞬間、土砂降りの雨が降り始めてきた。
車に駆け寄り、彼女を助手席に乗せた後、運転席に滑り込んだ。
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