第9話

ようやく桟敷席にたどり着き、指定場所に座って彼女に声を掛けた。


『ここまで大変だったね』


『ほんと、人混みが凄かった〜』

花火が始まる前から人の多さに滅入った様だ。


『帰りも大変そう』


『もう帰りの心配かい?』


『だって〜。来る時お尻触られた』


『え、俺では無い、と思う…』


『と思う…、ってどういう事?自信無いの?』


『手を繋いで、抱き寄せてここまで来たけど、自信は…無い!』


『も〜っ。』



開始時間を待ちながら、途中で買った食べ物を広げていた時、突然雷鳴が鳴り轟いた。


ここは雷の通り道でもある為、夕立に見舞われる可能性が高い場所。


『夕立が来なければいいな〜』

少し心配顔の彼女。


『激しく降り出したらこの下に避難出来るけど、少しでも降り出したら帰ろうか?』


『そうだね〜、仕方ないけど…』



花火が始まり、特等席である桟敷席はやはり見やすい。

彼女も非常に感動して楽しんでいる。


『花火の音が凄いね』

彼女の様子を見ながら、聞こえる様に顔を近づけて話す。


『本当、こんな近くで見た事無いから迫力有るね。』

彼女は花火の光と音に圧倒されている。


ただ、もう少しで前半戦のクライマックスが来ると言う時に、雷の音が激しく鳴り始め、大分近づいてきていることを感じた。

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