第3話

二人で歩きながら話していた時には、友達や同級生と話している様な感覚だったが、カウンターに座って落ち着いてからは、相手を意識し始めて、気持ちを探ったり試したりする時の様な言葉や仕草が混ざってきた事に気付いた。



『今、彼はいるの?』


『いないんです。あなたは?』


『俺もいないよ。』

先ずは、確認トーク。


幾つかお互いの事を話した後、こんな事を聞いてみた。

『自分はSだと思う?それともM?』


『う〜ん、Sじゃ無いからMなのかなぁ〜』


『じゃあ、テストします。』


『なになに〜』


『先ず、両手の親指と人差し指の間をカウンターの角に当てて、親指をテーブルの上に1〜2cm離して並べて下さい。長さが微妙に違います。』

彼女は素直にカウンターの上に親指を並べて聞いてきた。


『どっちが長いのがMなの?』


『はい、答えは…』

と言いながら、グラスを両指の上に置いた。


『えっ!』


『指の長さは?』


『指の長さは関係無いよ。指を並べる様に仕向けただけだから。』


『意地悪〜、グラスをどかして〜。』


『さあ、今の気持ちを教えて下さい。』


彼女に顔を近づけて、耳元で囁く。

『あまり動くとグラスが落ちるよ』


『いや〜、動けな〜い。』


『このまま帰っちゃっても良いし、イタズラしちゃっても良いし、どうしようかなぁ』

彼女の髪を軽く、そしてユックリ撫でてみる。


『いや〜、グラスをどかして〜』

動揺している彼女の姿が可愛く見えた。


『今の状況、嬉しいですか?』


『う〜、…嬉しいです』


『ハイ、喜びを感じてしまいましたね。M確定です』

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