第17話 ある日スライムを拾った⑤

 僕はスーラを連れて、図書館にでかえた。

 スーラを拾って五日目になる。

 相変わらず、僕はニートだ。

 図書館では僕はスーラが好むクラシックのCDを借りようと思う。

 お金のない僕にとって図書館は本当にありがたい施設だ。


 スーラは二リットルのペットボトルにいっぱいのサイズになっている。そのペッドボトルをリュックにいれる。肩に食い込むほどの重さだ。

 僕はこの生物かどうかさえよくわからない物体に愛着のようなものをもつようになっていた。


 図書館で何冊か本を読んで時間をつぶした。

 本を読んでいる間だけは、この世の嫌なことすべてをさすれることができるからいい。将来への不安なんかを一時ではあるが、わすれることができる。まあ、だからといって現実の問題は何一つ解決しないのだけどね。

 部屋に帰ったら、スーラに本をよみきかせてあげよう。

 僕はスーラのために絵本を何冊か借りた。

 絵本とスーラのため、リュックはさらに重さを増す。

 でもスーラが僕の読み聞かせを聞いて、うれしそうに揺れるすがたを想像するとその重みも苦にはならない。


 僕は市営バスに乗り、自宅に帰る。

 バスによられて二十分ほどで、最寄りのバス停に到着する。

 僕は交通系のカードをタッチして、バスを降りる。

 僕の後ろで杖をついたおばあさんが現金で運賃を支払っていた。

 じゃらじゃらと小銭が流れる音がする。

 そしてよっくりとした足取りでおばあさんがバスの階段を降りる。


「何もたもたしているんだ!!」

 耳ざわりな怒声がきこえる。

 スーツをきた中年男性がおばあさんの後ろから、割り込んで降りてきた。

 その勢いでおばさんが道に転ぶ。


「大丈夫せすか」

 僕は振り返り、おばあさんのもとに駆け寄る。

 おばあさんは痛そうに顔wゆがめている。


「ちょっとひどいんじゃないの」

 もう一人、目の細い女性がおばあさんに駆け寄り、抱き起こそうと手を差し伸べていた。


 この身勝手な男に僕は腹をたてた。

 人をおしのけて、けがをさせておいて、奴はこの場をたちいさろうとしていた。


 そのとき、背中のリュックが激しく動いた。

 ごそごそと左右に揺れる。

 ペッドボトルがリュックから飛び出る。キャップが自動的にはずれ、中身があふれだす。

 ペッドボトルの中で眠っていたスーラが極細の紐となって、サラリーマン風の男に襲いかかる。

 次の瞬間、その男は地面に倒れこんだ。聞くにたえない悲鳴をあげている。

 よく見るとスーラがその男の耳をきりおとしていた。耳があった部分から鮮血がもれている。

 さらにスーラは地面にころがる耳を吸収した。

 あっというまに耳は吸収され、あとかたもなく消えてしまった。


「スーラ行くよ」

 このままこの場所にいたら、僕は警察につかまるかもしれない。

 スーラを取り上げられるのはごめんこうむりたい。

 地面におちるペッドボトルを拾うとスーラはすぐに中に戻る。

 僕はペッドボトルをリュックにいれ、その場を立ち去る。

 背中のリュックサックの中のスーラをまるで熱湯のように熱くなっていた。

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