第15話 ある日スライムを拾った③

 この日、午前中はとある食品加工会社の面接にでかけた。

 スライムは留守番をしている。

 もう何十件も面接をうけて、そのすべてにおいて落ちている僕は半ば自暴自棄になっていた。

 志望動機をきかれたので生きるためですと素直に答えた。

 もう良いように自分をみせかけるのはやめた。

 そんなことをしても人並みの生活なんて送れないのだから。

 なんとなくだけど面接官はあきれていたような気がする。まあ、どうせこの会社も僕を雇う気がないのだろう。労働は国民の義務だっていうけど仕事につけなければその義務をはたせない。そうか、僕は人間以下なのか。


 帰りにコンビニで発泡酒とおつまみ、それと唐揚げ弁当を購入した。

 レジの女性店員は小柄でかわいらしい感じの人だった。眼鏡の奥のうるんだ瞳が印象的だ。それに特筆すべきはその大きな胸だ。コンビニの制服の上からでもその大きさがうかがいしれる。

 こんな女性が彼女だったらきっと生きる希望が見いだせたに違いない。

 そんなくだらない妄想をしながら帰路についた。


 自宅に戻り、テレビをボンヤリと見る。

 二時間ドラマのサスペンスが再放送されていた。

 僕はそのドラマをぼんやりとながめながら、お酒を飲んだ。

 おつまみにかったスルメをあのスライムにあげてみる。

 スルメは透明な粘液にすいこまれて、跡形もなくきえてしまった。

 そのあとぷるぷるとスライムはふるえる。もう見慣れた光景だ。


 そうだこの透明な粘液に名前をつけよう。

 すでにスライムに愛着をもっていた僕はその思いに至った。

 僕の思い込みこみかもしれないが、このスライムからは意思のようなものを感じる。

「そうだ。おまえはスライムだからスーラだ。よろしくなスーラ」

 僕はその透明な粘液であるスライムをスーラと名付けた。

 我ながら単純でひねりのないネーミングだと思う。

 まあ、シンプルなほうが覚えやすくていいだろう。


 スーラは嬉しそうにテーブルの上でふるえた。まったくもってスーラはかわいいやつだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る