第12話 私はドラゴンになりたい③
僕はある駅ビルに入っている書店でアルバイトをいてい。
そこではとある人物に恋をした。
小柄で紺色のスーツをよく似合う、眼鏡をかけた若い女性であった。年齢は二十代前半であろうか。眼鏡の奥の瞳は理知的であった。それに左目の下にあるほくろが魅セクシーで印象的であった。胸が大きいのも僕のタイプであり、魅力的であった。
どうやらその彼女はどこかの企業で働いているようだ。
会計をするとき、財布の隙間か名刺が見えた。
彼女の名前は
五月のある日、その竜崎翼さんは小柄な体にわりに大きな胸に一冊の本をかかえてレジに並んだ。
その画集のことは僕も知っている。
イギリスのイラストレーターでゲームなんかのキャラクターデザインもしていて、世界的にも人気で有名であった。
画集の値段は一万円ちかくしたが、けっこう売れている。この書店でもり竜崎さんが持っているのが最後の一冊のはずだ。
竜崎さんは大事そうにその画集をレジにさしだした。
僕は画集のバーコードに機械をあてる。
「この画集とても人気なんですよね。他店でも売り切れ続出らしいですよ」
すこしでも竜崎さんに近づきたい僕は勇気をだして話しかけた。
竜崎さんはどこか上の空のようだった。
きっと僕と会話をすることができて、彼女もうれしかったのだろう。その大きな瞳がうるんでいる。恥ずかしみそうな顔で画集の表紙を見つめている。
竜崎さんは顔を赤くして、店を出て行った。
僕の前だからって恥ずかしがらなくていいのに。
僕は竜崎さのよく揺れるポニーテールを見送った。
僕は財布の隙間から見えた企業のマークから竜崎さんがどこで働いているかをつきとめた。その会社は僕のアルバイト先の書店の近くのオフィスビルに入っていた。
僕は運命を感じた。
だってそうだろう。
働いている場所がこんなに近いだなって僕と竜崎さには運命の赤い糸が結ばれているのだ。
僕は専門学校の帰りにそのオフィスビルの出口付近で竜崎さんが出てくるのを待つ。
小柄な竜崎さんは急ぎ足で最寄り駅に向かう。
僕は後を追い、電車に乗り込む。
数駅ほどゆられ、竜崎さんは電車を降りた。
僕も続いて電車を降りる。
駅近くのコンビニで竜崎さんは夕ご飯に食べるのであろうお弁当を購入した。
言ってくれたら、僕が料理を作ってあげるのに。
何をかくそう僕は料理の専門学校に通っているのだ。
さらに後を追うと竜崎さんは小さな神社に立ち寄る。
霧之宮のいう名の神社であった。
どうやら竜の女神が祀られているようだ。縁結びの神様でもあるようだ。
そこで参拝した竜崎さんはそのあと、近くのマンションに入っていった。
それからひと月ほど僕は竜崎さんと行動を共にした。一緒に帰ったり、同じコンビニやスーパーマーケットに行ったりもしたりした。
彼女とはしゃべらなかったが、僕たちの間には言葉など不要であった。
僕たちは相思相愛に違いないのだから。
僕はいつものように竜崎さんが仕事を終えて、ビルから出てくるのを近くのカフェで待つ。
竜崎さんとの将来を考えるだけで時間はあっという間に過ぎた。
僕は画像フォルダにたまった何百枚にもなる画像を眺めていると、女性の悲鳴が聞こえた、
気になった僕はカフェを出た。
人ごみをかきわけ、僕は悲鳴が響く中心に向かう。
そこには手足をぐちゃぐちゃに曲げて、頭や背中から血を流している竜崎さんが寝転がっていた。あっというまに血だまりができて、僕のスニーカーを濡らした。
僕が悪いんだ。
僕がちゃんと告白して竜崎さんと正式に交際しないから、悲観した彼女は飛び降り自殺をしたのだ。
僕は深い罪悪感に押しつぶされそうになった。
その時、一人の女性が竜崎さんがかけていた眼鏡を拾った。
その血にぬれた眼鏡を僕に手渡す。
目の細いその女はどこへともなく立ち去った。
そのひび割れて、血に汚れた丸眼鏡をパーカーのポケットに突っ込み、僕もその場を去った。遠くのほうでパトカーと救急車のサイレンの音が聞こえた。
ごめんよ。
僕がちゃんとしていれば君は死ななかったのに。
せめてもの罪滅ぼしに僕は竜崎さんがよく行っていた霧之宮神社にお参りをした。
竜崎さんの冥福を祈る。
天国で一緒になろうと僕は誓った。
お参りをすませた僕は血の付いた丸眼鏡をかけてみる。
僕がもつ恋人の唯一のかたみだ。
空に浮かぶ巨大な物体が見えた。
それは赤い鱗を持つドラゴンであった。
あの画集に載っていそうな美しいドラゴンであった。
そうか、竜崎さんはドラゴンに転生したのだ。
僕はレッドドラゴンに大きく手を振る。
レッドドラゴンはそれに答えるように何度かはばたき、西のほうに飛んで行った。
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