第11話 私はドラゴンになりたい②
ドラゴンというものに興味を持ち出してから知ったのだが、私の住むマンションの近くに竜を祀っている神社があった。
時々神主さんっぽい老人が境内を掃除していた。
よく調べると霧之岐という名の竜の女神がまつられているようだ。
神社の名前は霧之宮神社といった。
昔、このあたりを酷い干ばつが襲った。
干ばつによる被害があまりにもひどく、多くの人が餓死したという。
そのとき、霧姫をなのる娘が村を訪れた。彼女は自分を竜の娘だとなのった。
その霧姫が三日三晩にわたり、天に祈ると恵の雨がふったという。
その雨により、村は救われた。
雨を降らせた霧姫はそのあと姿を消したという。
村人は感謝の意をこめて、神社をたてた。霧姫を霧之岐という名の神としてまつったという。
私はその伝説が書かれた立て看板を読みながら、こんな小さな神社のも物語があるのだと素直に関心した。
私はその神社に毎日お参りをするようにした。
もちろん、私の願いはドラゴンにしてくださいというものおだった。
自宅と職場の往復、に加えて神社へのお参りが私の生活に組み込まれた。
そして自宅で画集を眺めてすごすというのが一日のルーティンとなった。
そんな生活をひと月ほどすごしたある日のこと、私は夢を見た。
それは文字通り夢にまで見たドラゴンになるというものであった。
夢の話で夢にまで見たとはおかしな表現だ。
私は赤い鱗をもつドラゴンになり、大空を飛んでいた。
眼下の街は小さく、ビルの光はビー玉のようにキラキラと輝いている。
私は思う存分飛ぶとある森に着地し、そこで飛行につかれた体を休めるのだ。
夢の中で眠るという不思議な体験をした。
目を覚まして頬を撫でると、飛行により感じた夜風の冷たさが皮膚にまだ残っていた。
職場に出勤した私はうわの空であった。
適当に仕事をしていると上司がぐちぐちと何かを言ってきた。
そのときの私はすでに上司の言葉を言語として認識できなくなっていた。ただの雑音に聞こえる。道路工事の騒音となんら変わらない。
よく動く口だと、私はぼんやりと上司の顔を見ていた。
ドラゴンになれば、こんな騒音に悩まなくていいのに。
そう思ったら、体が勝手に動いていた。
ドラゴになって空を飛びたい。
頭の中はその思いだけでいっぱいであった。
私は窓際にかけていく。
勢いよく窓を開ける。
外の空気はあの時の夢で感じたように冷たく、心地よい。
私は窓をあけ、へりに足をかける。
周囲が騒がしいが、すべてを無視した。
私はドラゴンになるのだ。
人間なんかにかまっていられない。
地上十階のビルの窓から思い切って飛び降りた。
私は風を感じながら、高速で落下する。
落ちながら、私は体が変化するのを感じた。風邪をひいたときのように体が熱い。
着ていたビジネススーツが避け、指からナイフのような爪が生える。背中から皮の翼が生える。全身が赤い鱗におおわれた。
私は念願のドラゴンになったのだ。
きっとあの神社の女神さまが願いを聞き届けてくれたのだ。
背中の翼を一度大きく羽ばたかせる。
あっというまに私は空高く舞う。
一度の羽ばたきで、勤務していた会社が入るビルの屋上よりも高く飛んだ。
三度ほど羽ばたくと空よりも高く飛ぶことができた。
雲を真下に見ながら、私は空を飛ぶ。
西のほうに生い茂った森を見つけたので、そこに向かて私は飛んだ。
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