第6話 偶然は必然

※白鷺月子視点


 私はノートパソコンを閉じる。

 キッチンに行き、ポットに水道水を入れてお湯を沸かす。インスタントのコーヒーをいれ、リビングに戻る。

 コーヒーの香りをかぎながら、私は考える。

 四つの物語をカクヨムに投稿した。

 どれもそう長くはない、短い話だ。

 料理上手な妻の話、松林で出会った自殺寸前の男の話、自分の店が気になって死後もあらわれた町中華の店長、鏡の中に消えた女性の物語。

 どれも私好みの不思議な物語だ。


 この一見するとバラバラな物語に私はとある共通点を見つけた。

 私はその共通点が合っているかをもう一度確認する。

 やはりこの四つの物語にはある共通点がある。


 それはどの物語にも細い目をした黒髪の女性が登場するのだ。

 たぶんだけどそれはただの偶然だろう。

 しかし、四つも続けは必然も言えなくもない。


 私はスマートフォンを手に取り、友人の戸沢とざわ麻実まみにラインのメッセージを送る。


 次の休日ひま?

 私はラインのメッセージとかわいい女の子が首をかしげているアニメスタンプを送る。

 ほどなくして返信がある。


 昼間ならあいているよ。

 オッケーマークを指で作っているイケメンのアニメスタンプがメッセージと共に返信される。


 次の休日、私は数少ない友人の戸沢麻実とランチを共にする約束をした。


 休日になり、私はサイゼリアにいた。

 二人掛けのテーブルのソファーに座り、私は友人をまつ。

 ほどなくして戸沢麻美があらわれた。私の向かいにすわる。

 私はチーズハンバーグステーキとライス、麻美はミートパスタとシーザーサラダを注文した。

 私たちは食事をとりながら、近況報告をする。麻美の職業はイラストレーターであり、漫画家であった。どうやら連載がきまったようで私は麻美にワインをおごってあげた。

 だらだらと話をし、私は考えていたことをきりだす。

 それはカクヨムに投稿した話の共通点についてだ。


「それ、ただの偶然じゃない」

 麻美は赤ワインを飲み、若干頬を赤くしている。

 彼女がビールも飲みたいというのでそれもおごってあげる。

 まあ、これは先行投資のようなものだ。


「私もそう思うけど、ただの偶然としてかたずけたくないんだ」

 私は麻美の二重の瞳をみる。

「ふふっ面白いじゃないの」

 どうやら麻美は私の妄想につきあってくれるようだ。

 高校生のとき、よくこうしてつまらない妄想話に花をさかせたものだ。

 それは社会人となった今もかわらない。

 私はwebに妄想を垂れ流しにし、絵心のある麻美はそれを職業にした。


「それでその細い目の女の名前は何にする?」

 麻美はトートバックからノートとシャープペンシルをとりだす。


「そうね、彼女名は細井瞳ほそいひとみっていうのはどうかしら」

 私は麻美にそう答える。

 細目の女だから細井瞳だ。われながら安直なネーミングだが、覚えやすいとも思う。わかりやすいのが何よりだ。


「なにそれ、そのままじゃない」

 麻美はくすくすと笑う。

 そのあと私は麻美に細井瞳の設定をかたる。

 細井瞳はいわゆるストーリーテラーのような存在だ。

 アウターゾーンのミザリィ、世にも奇妙な物語のタモリのような存在だ。ヒッチコック劇場のヒッチコックでもいいだろう。

 あらゆる物語世界に存在することができ、干渉することができる。

 細井瞳の年齢は二十代後半で身長は百六十センチメートル、スタイルは細身でスーツ姿でいることが多い。髪型は黒髪を首の後ろできつく結んでいる。貝殻の髪留めを愛用している。

 麻美はそれらをメモし、簡単なラフ画を見せてくれた。

 さすがはプロの漫画家だ。

 私の想像通りの細井瞳がそこにいた。

「ちゃんときれいに描いて、今度送るね」

 麻美はそういい、ミートドリアをオーダーした。

 私はデザートにプリンを頼む。

 そのあとも二時間ほど麻美と創作談義に花をさかせ、彼女とわかれた。


 数日後、麻美から細井瞳のイラストが送られてきた。

 細井瞳は糸目ながら、どことなく色気のある姿であった。

 忘れていた。

 麻美はエロ漫画家であった。

 服をきているが細井瞳には妖しい色気がある。

 私はすっかりそのイラストが気にいってしまった。

 麻美にこのイラストをXのアイコンにしていいかラインで尋ねてみた。

 すぐにオッケーのスタンプが送られてきた。

 麻美のXにはすでに細井瞳のイラストが掲載されていた。

 さすがはプロ漫画家の麻美のポストだ。一万ちかいいいねがつき、同数のリポストがなされていた。


 妖怪の条件は二人以上の人間がその存在を認識することである。

 私は細井瞳のイラストを見ながら、その言葉を思い出した。

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