第9話「魔導書作家」



 翌日。

 朝になると、サラは両目にクマを作っていた。


「うぅ……」

「昨夜は眠れなかったんですね」

「……はい」


 ローテンションな返事は心なし恨めしげだ。

 やはり初日は、緊張してしまってなかなか寝付けなかったのだろう。

 もしかすると、まったく寝れなかった可能性もある。


 アリオンもその気持ちは分かった。


 サラのようにクマこそ作ってはいないが、アリオンも昨夜はかなり眠りが浅かったのだ。

 日頃、女性に対して紳士たれ、貴公子たれと振る舞うアリオンではあるが、年頃の少年らしく異性への興味はそれなりにある。


 表には出さないものの、一つ屋根の下で美少女と夜を明かすのは、なかなかに緊張した。


 もちろん、すぐに邪念を断つべく舌を噛んだが。


 致命傷に至りかねない痛みは、頭のなかをスッと冷静にさせる。

 おかげで、アリオンは今日も平静を保ち少女と接することができた。


「初めのうちは緊張しますよね。夜はハーブティーでも淹れましょうか。きっとリラックスできますよ」

「……なんか、慣れてません?」


 気を遣って提案したら、恨めしげな眼差しが何故か余計に強まった。

 学院の校舎に向かうレンガ道。

 すぐ横から、ジトっとした視線がアリオンを突き刺す。


「ハーブティーは嗜好品なので、僕もそんなに慣れてはいませんよ?」

「いや、そういう意味じゃなくてチョイスがですね……」

「チョイス?」

「っ、なんでもありません! 別に無理して気を遣っていただかなくて大丈夫ですから!」


 ぷい! と顔が逸らされる。

 よく分からないが、サラは少し怒っているようだ。

 新品の女子制服に袖を通し、今日のサラは昨日の質素な装いとは違う。

 美形の多いエルフたちすら、通り過ぎざまにサラに振り返る。

 怒っていてはもったいない。


「──レディ。女性への気遣いがだなんてことはありません」

「貧乏なんですよね? 無駄遣いはよくないと思います」


 にべもなかった。

 だが、女性に懐事情を気遣われて引き下がっていては、男の沽券にかかわる。

 これは社交界で学んだ逢引術なのだが、


(女性と関係性を深めるには、まずコストを払ってでも特別な体験を共有していき、〝二人の想い出〟を作っていく必要がある)


 そうすると、最初の内は特別な関係性。

 けれど時間が経って想い出が増えていけば、相手の女性にとって自分との時間は徐々に日常に変化していく。

 なので初期コストは仕方がない。

 アリオンはサラに微笑みかけた。


「昨夜は僕も緊張したんです。だから今夜は、是非ハーブティーを試させてくれませんか?」

「え、アリオンさんも?」


 サラは目を丸くして、意外そうに振り向いた。

 プラチナの髪がサラリと舞う。

 アリオンは目を奪われながらも、「当然ですよ」と頷いた。


「……へ、へぇ〜? だったら、私はべつに構いませんけど」

「良かった。じゃあ放課後は、一緒にハーブを選びに行きましょう。ちょうど、行ってみたいお店があったんです」

「あ、それが昨日の商店街に?」

「ええ。案内も兼ねて、デートですね」

「ブフッ!」


 サラが咽せた。

 表情がコロコロ変わって、アリオンは少し愉快な気持ちになる。


「冗談ですよ?」

「で、ですよね!? も、もうっ! びっくりさせないでください!」

「そんなに驚く冗談でしたか……?」

「アリオンさんが言うと、特に……!」

「え!」


 サラの狼狽え様に、アリオンの方が逆に驚く気持ちになった。


(……まあ、たしかに)


 多少軽薄な物言いではあったかもしれない。

 サラはこの手の冗談が好みではないのだろう。

 心のメモ帳に反省と書き殴っておく。


 そうこうしていると、校舎に辿り着いた。


 サラを先導するかたちで、アリオンは書庫棟の方に進む。

 と言っても、書庫棟自体に用があるワケじゃない。

 書庫棟内に隣接している教員用の研究室に用があるのだった。

 屋内に入ると、本の匂いがドッと全身を包み込む。


「うわ、すごい書気っ」

「書気? なかなか良い表現をしますね」

「ここはどういう場所なんですか?」

「見ての通り、図書館ですよ。ただ、ここにある本はすべて魔導書です」


 別名、魔導書棟。

 古今東西の魔導書を集めて、その成り立ちや構成、作者論などを研究している魔法使いの巣窟。

 ここでは、魔導書学を専門にしているため魔力を持たない人間が訪れない。

 エルダースで最も魔法使い人口が高まる場所と云える。


「レディ・ヴィルヘルミナは指導士チューターとしても働いていますが、本職は魔導書学専門の研究者で、でもあるんです」

「へぇ〜、そうなんですね」

「ええ。普段はもっぱらご自身の研究室で過ごされているので、個別指導の日はこちらから彼女のもとに赴く決まりで」


 廊下を歩いて階段を上がり、重厚な樫の木扉の部屋の前で止まる。

 アリオンはそのまま、扉をギィ、と押し開けて──


「え、ノックしないんですか?」

「もう時間なので。先生からも毎度毎度煩わしいから、勝手に開けていいと言わ」

「チュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーマッ!」

「……ふぁ?」


 扉を開けた瞬間、半ば襲うように長めのキスをされて言葉を遮られた。

 サラが目を点にし、呆けたように硬直する。

 その間に、部屋の主はようやくアリオンの唇を解放し、エロティックにしなだれかかった。


「もう! やっと来た。遅すぎるわよ……?」

「──先生。時間はピッタリのはずですが」

「そうだけど、もっと早く来てちょうだい? 私、寂しくて死んじゃうかと思ったんだから……」


 赤髪の爆美女が、アリオンに絡みついて甘い声を発している。

 サラの目線で、これは体温の上昇に値した。

 神聖な学び舎で、美少女と美女が突然ピンク色なムードを作り出したからだ。

 メガネをかけたオープンバストコルセットの女性は、アリオンの胸元に指を這わせて、鎖骨のあたりを中指でぐるぐる触っている。


「なななななななな! 何してるんですかぁ!?」

「……あら、誰この子?」

「レディ・サラ。肉の扉で先日、僕が救助した方です」

「ああ、記憶喪失の。保護観察官と保護観察対象。良かったわね、意味記憶は失くしてなくて」

「意味記憶?」

「言葉や知識、一般的な社会常識なんかに関する記憶のコト」

「おお。そういえばたしかに」


 冷静な会話が続けられるが、サラは誤魔化されなかった。


「ちょっと! いつまでやってるんですか!? ていうか、さっきのはいったいなに!?」

「すみません、レディ。そういえば、言うのを忘れていました」


 アリオンはヴィルヘルミナを押し離し、口紅でべったりと赤くなった唇をハンカチで拭う。


「せっかくの印だったのに」

「先生。レディ・サラとは初対面なんですから、そろそろ真面目に」

「分かったわ」

「レディ・サラ。こちらは僕の指導士チューターで、ヴィルヘルミナ・ヴェルミオン先生です」

「はじめまして、正体不明ちゃん。サラっていうのはアリオンくんが?」

「そ、そうですけど……」

「いいわね。私もアリオンくんに名付けてほしいわ。看護師の彼女は渾名があるのよねぇ」


 嫉妬の感情が、ドロドロと舌の上で転がっているようだった。

 サラは怯み、思わずアリオンの背中に隠れかける。

 しかし、アリオンは敢えてスルーしているのか、それとも慣れているからなのか。

 特には触れず、紹介を続けた。


「先生とは定期的に、唇を重ねる間柄でして」

「────なんて?」

「私たち愛人なの」

「違います。僕の唇については、レディもご存知ですよね?」

「……呪いを解く体質?」

「そうです。先生は少し特別な事情を抱えていらっしゃるので、時々ああしてキスで問題を解決して差し上げています」


 サラは「どんな問題ですか!」とツッコミを入れかけた。

 だが、ティアーナが語っていたように、アリオンに『白馬の王子の加護』があるのはたしかなのだろう。

 記憶喪失なサラでも、先ほどヴィルヘルミナが言っていたように失っているのは非意味記憶だけで、世界に神秘的な事物があるのは覚えている。

 とりあえず、嘘ではないと判断して深呼吸した。

 アリオンもそんなサラを見て、落ち着きを取り戻したようだと頷く。

 ヴィルヘルミナは「フフっ」と妖しく笑い、


「驚かせてしまって、ごめんなさいね? いつもだとアリオンくんだけだから、つい人目を忘れていたわ」

「先生。ドアの前で待っていたということは、またかなり危ない状況でしたね?」

「ごめんなさい。まぁ、そこも含めて軽く自己紹介をしましょうか」


 部屋への入室を促され、アリオンとサラは大量の書物が壁に収められた空間に踏み入る。

 そこには、研究室というより談話室といった様子の実に居心地良さげな書斎があった。

 サラは目をパチクリさせて、部屋の中を見回す。

 女教師は書斎のデスクに腰掛けるように寄りかかり、「そこのソファに座って」と指示した。


「まぁ話の流れだから言うけど、私もアリオンくんと同じで、天からギフトを授かったクチなのよね。『言霊紡ぎの祝福』って云うんだけど」

「文化系の神様から授かるとされている神々の息吹ゴッドブレスです」

「そ。これがまぁ作家にとってはとっても厄介なもので、作品を作り続けていると、いつかは廃人になりかけちゃう代物でね?」

「は、廃人!?」


 予想もしていなかった深刻なワードに、サラは顔を青ざめさせた。


「だ、大丈夫なんですか!?」

「……あら、心配してくれるの? 良い子なのね。安心して? 見ての通りピンピンしてるから」


 ヴィルヘルミナは眉尻を下げ、少しだけ罪悪感に駆られた苦笑でデスクに置いてあったティーカップを取る。

 薫る煙。

 途端、お茶の香りが室内に温かさを広げた。

 アリオンが自分の分とサラの分を淹れ始める。


「私が魔導書作家だっていうのは、もう聞いたかしら?」

「あ、はい。来る途中でちょっとだけ……」

「言霊紡ぎの祝福っていうのは説明が結構難しいんだけど、まずは言霊って聞いたコトある?」


 言葉には霊的な力が宿っていて、口にした言葉は現実に起こりやすいといった信仰を持たれている概念。


「魔法使いには割と馴染みのある考え方で、呪文がまさにコレなのよね。でね? 言霊コトダマってコトバのタマシイ、あるいはタマシイのコトバから来てるじゃない?」


 つまり、言葉に宿る霊力とは魂であり。

 言葉が魂であるのならば、それを収めた書物は霊堂である。

 霊堂は神殿であり御廟であり、すべての作家・詩人は神官であり祭司。


「物書きにとって、本は文字通り魂の切り分けなの。だから、私たちは作品を手がける際に、己が魂を生贄に捧げているにも等しいわ」

「あくまで観念的な話の上では」

「でも、言霊紡ぎの祝福は


 結果、何が起こるか?


「言霊紡ぎの祝福を授かった人間が、何かしら言葉をまとめた作品を作り上げた時、その作品は作家の魂の〝わけみ〟──〝分霊〟になってしまうのよね」


 魂の切り分け。


「で、これを魔導書作家に当て嵌めると、さらに厄介な話になって……魔導書の説明は要る?」

「お願いします」

「魔導書は一般的に『呪文辞典』として認識されているモノよ。けど、魔法の特性はさすがに知ってるわよね?」


 〝魔法は呪文の詠唱者の意図した通りの事物を創造する〟


「だから、たとえば“トニトゥルス”の呪文なら、〝強烈な光〟や〝心肺の停止〟、〝肌が爛れるほどの火傷〟、後は落雷で木が真っ二つに裂けるイメージとかで、〝割断〟なんて現象を創造しやすいでしょうけど」


 この通り、呪文ひとつで成し得る超常現象は多岐に渡る。

 魔導書とはそんな呪文ひとつひとつに対し、この呪文はこういった用例がありますとまとめた書物だ。

 オーソドックスな魔導書は辞典の形式で執筆されている。


 けれど──


「けれど、魔法の素晴らしいところって、個人の解釈次第ではどんな奇跡も起こせる点でしょう?」


 特別な体験。

 その人間がその人間の人生で見聞きした、オンリーワンの出来事。

 常人とは異なる死生観や価値観を抱くに至ったのならば、同じ呪文を唱える人間が二人いても、一方は常識を逸脱した現象を創り出せる。


「戦争を知っている人間と戦争を知らない人間では、死の重みが違うように。火災を知っている人間と火災を知らない人間では、炎の熱さが違うように」


 他者とは違う呪文の使い方。

 それを本にし、誰かに読ませ、同じ超常現象をそっくり発動可能に出来れば──

 誰かひとりの強い魔法を、大勢に複製して最強の軍隊を作るコトが出来るはず。

 人よりも強い人ならざるモノたちに、人間兵器の大量生産を以って対抗を可能にする。


「私の魔導書学の専攻テーマは、だから。私は従来の辞典形式ではなく、小説や自伝形式で魔導書を執筆し、読んだ者に心からの感動をもたらす。そういうアプローチの仕方で夢を叶えようとしたわ」

 

 だがそれは、言霊紡ぎの祝福によって狂気の魔導書を完成させてしまった。


「私が書いた魔導書は私の分霊。つまり私自身。読んだ誰かは追体験じゃなくて、私に取り憑かれて私の複製が生まれた」


 不気味でしょ? とヴィルヘルミナは笑う。


「なまじ作品の質が高かったコトも原因のひとつだったわ。私は自分が祝福保持者ブレスホルダーだなんて、事件が起こるまではまったく知らなかった」


 だが祝福とはそういうモノ。

 呼び方が違うだけで、本質的には呪いと変わらない。

 天上の高次存在から、手前勝手に授けられる予期せぬプレゼントだ。


 ヴィルヘルミナ・ヴェルミオンの魔導書は、すぐに焚書指定となった。


 切り分けられた魂を燃やされた女は、以来、一日の四分の一を睡眠時間とは別に意識不明で過ごしている。


「祝福と呪文、相性のいい二つの組み合わせで余計に魂が持っていかれちゃったワケ」

「そんな……」

「でも安心して? 燃やされて灰になって、今じゃ塵も残っているか分からない分霊だけど、ここに白馬の王子様がいるでしょう?」


 アリオンの唇は、ヴィルヘルミナの切り分けられた魂を呼び戻す能力を持っていた。

 祝福も呪いも紙一重。

 白馬に乗った王子様は、救いを求める姫を必ず見捨てない。

 魂が万全なら、意識不明には陥らない。


「そんなワケで、さっきはそろそろ時間的にぶっ倒れるかなー? って思って焦ってたから、いきなりキスさせてもらったのよね」

「残念ながら、天上の方々の息吹を吹き飛ばしていられるのは、限られた時間だけのようですが」

「仕方がないわよ。祝福は体質と同じようなものだし、アリオンくんだって自分の呪いはどうにもできないでしょう?」

「まあ」


 魔剣の呪いは、魔剣を手放さない限り永続的だ。

 祝福もそれと同じで、一度与えられたらきっと死ぬまで与えられ続けるのだろう。

 ヴィルヘルミナは「さってっ!」とデスクからお尻を離し、サラの顔を見た。


「自己紹介はこんなところで良いかしらね? 何か質問はある? 私的な質問なら三つまでオーケーよ? ひとつ、恋人はいません。ふたつ、既婚歴はなし。みっつ、好きなタイプは年下で白馬の王子様なアリオンくん。教師と生徒の禁断の関係ってアリ寄りのアリよね?」

「一般的な倫理観では、ナシ寄りのナシです」

「だったら早く闇祓いになりなさいよ〜! 先生を早く結婚式場まで連れてって!」

「先生。レディ・サラの前です」


 アリオンの平静ぶりは凄まじかった。

 口の端に少し赤いものが見えた気がしたが、恐らく口紅の残りがついていたのだろう。

 アリオンは「失礼」と言ってハンカチで口元を拭いて、いつもの爽やか王子様スマイルを浮かべている。

 サラは二人を見ながら、


(この人もアリオンさんが好きなんだ……)


 とドギマギしつつ。

 廃人化の恐怖に光を与えてくれた人なら、性別なんか関係なく好きになっちゃうんだろうな、と理解した。

 しかしそれはそれとして、


「その、いいですか?」

「何かしら?」

「ヴィルヘルミナさんは、自分に言霊紡ぎの祝福があるって分かった後でも、どうしてまだ魔導書作家を続けているんですか?」


 アリオンが現れたから良かったようなものの、普通に考えれば筆は折るのがマトモな判断だ。

 どんな研究もどんな創作も、命には代えられないはず。

 サラは「怖くないんですか?」と真剣に問いかける。

 すると、


「怖いわよ? でもね? 私、創作が好きなの。十年かけて作った一冊が燃やされちゃった後でも、十年も続けてればそれはもう生活なのよね」


 ヴィルヘルミナはカップを傾けて回して、お茶を揺らしながら言った。


「いい文章を思いついてコレだ! って思う気持ちも、陳腐な表現しか思い浮かばなくてダメだ! って悩む気持ちも、自分で考えた物語なのにボロボロ泣いて感動した時の気持ちも、読者の反応を想像して不安になった時の気持ちも」


 ぜんぶぜんぶ、引っ括めて今さら離れ離れになんてなれない。


「私はただそれだけ。要するに馬鹿なの。カッコつけて言えば、たとえ魂を切り分けたとしても変わらなかった自分ってヤツ?」

「先生」

「なに?」

「素敵です」

「……たった二文字で喜ばすんだから」


 ヴィルヘルミナは赤くなってコホンと咳払いした。

 サラもアテられて、にわかに恥ずかしさを覚える。

 けれど、アリオンの言う通り本当に素敵な女性だと思った。


 と同時に、ヴィルヘルミナやティアーナから好意を持たれているアリオン。


 黒髪でボブのイケメン系美少女。


(要注意だ……!)


 サラは警戒した。

 他者を助けるコトが最大の幸福に直結する。

 アリオンの人間性は本当に素晴らしいと思えるものの、その行動をある側面から切り取れば、『キス魔』になる。


 誰かを助けるのに自分の唇が必要なら、躊躇なく唇を重ねてしまうなんて。


(お、女の子なのにふしだらです……!)


 このままでは自分もアリオンの毒牙にかけられてしまうのではないか。

 アリオン・アズフィールドという女の子は、同性愛者の量産機。

 そして、今のメインターゲットはサラ。


「……?」

「っ」


 目と目が合うと、思わず慌ててしまう。


(……〈異界の門扉ダンジョン〉で助けられた時は、たしかにカッコよくて見惚れちゃったけど!)


 サラは異性愛者。

 これは錯覚これは錯覚これは錯覚。


 というか、アリオンが女の子のクセに男の子みたいにカッコいいのがいけない!


 ドキドキしながら、貞操の危機と戦慄を禁じ得ないのだった。



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