第8話「サラ」
「つまり、話をまとめると、お二人はお付き合いされてるんですか?」
「いえ、特にそういうワケでは」
「ええっ!?」
「アリオン様は努力家なんです。将来は闇祓いになるため、学生の内は特定の誰かとそういう間柄になるのは控えていらっしゃいます」
「で、でも! キスはしたんですよね!?」
「しました。けれど、アリオン様は私以外の方とも頻繁にキスされていますから」
「!?」
衝撃の発言に、記憶喪失少女は驚愕した。
「え!? ちょ、ちょっと待ってください! あ、あれ? これってじゃあ、〝二人は幸せなキスをしてハッピーエンド〟ってお話じゃなかったんですか!?」
というか、ティアーナが女の子でもイける両性愛者だというのはいったん呑み込んでおくにしても。
ティアーナにキスしたアリオンも、この流れでは同性愛者という理解で少女は話を聞いていた。
無論、異性愛者である少女には少しばかり難しい愛の世界。
とはいえ、同じ人間として、そこにはたしかに美しい愛情があったに違いないと。
思わず涙ぐんで、心から良かったですねと感動しかけていたのに。
「他の人ともキスしてるって何ですか!? しかも頻繁!?」
大声をあげる少女に、ナースさんはきょとんとする。
「急にどうされましたか?」
「いやいや! おかしいですよね、その反応!」
「アリオン様は、特別な才能を持っているんです。天からの贈り物で、どんな呪いも解けてしまえる奇跡みたいなチカラを」
「……え、え?」
「しかも、名前は『白馬の王子の加護』って云うそうですよ? つまり、アリオン様の唇は人助けのために使われています」
「……えーーっと、要するに」
アリオンがキスすると、呪いが解ける。
呪いを解くために、アリオンはたくさんキスする。
キスして問題を解決できるトラブルが、エルダースではしょっちゅう起こる。
だからいろんな人とキスしてばっかり?
「何なんですかそれぇ! 納得してるんですか!?」
「だって、アリオン様カッコいいから……」
「メスの顔ッ! ダ、ダメですよ! 好きな人が他の人とキスするのを我慢して見てるなんて!」
「──でも、アリオン様は純粋に、人助けのためにやっているんですよ?」
「……っ!」
「私のように自暴自棄になって、本当に魔物になってしまうかもしれない人がいたら──いえ、たとえ本物の魔物が相手だったとしても、アリオン様は黙っていられる方ではありません。どんなモノであれ、あの人は必ず救いの手を差し伸べずにはいられない」
何故なら、誰かを助けるコトが最大の幸福に直結する。
そんな馬鹿みたいな人間性を、本気で獲得している稀有な人間だから。
「アリオン様の人生は、きっと多くを救うものになります。それなのに、私個人のワガママでアリオン様の道を邪魔する? いけません」
「だ、だけど……それでアリオンさんが色んな人に好かれるようになっちゃって、いつか誰か、別の人に本気になっちゃったら……どうするんですか?」
「ふふふふふふふふふ」
少女が当然の懸念を口にすると、ナースさんは微笑ましいものでも見るような目で「何も分かっていませんね」と答えた。
表情と声音の割に、言葉はだいぶ強めだった。
「な、何も分かってない……?」
「ええ。だって、アリオン様はそんな方じゃありません。アリオン様は誰かを悲しませるようなコトは絶対にしません。万が一そんな可能性があれば、アリオン様は必ず私たちが笑顔になれる道を探します。探して、努力して、頑張って、救ってくださるんです」
それがアリオンだ。
それがアリオン・アズフィールドだ。
この世の闇を祓うべく、この世の曇りを晴らすべく、日々命を燃やしている少年だ。
ティアーナが恋した想い人だ。
右の手を頬に当て、看護師は熱のこもった声で体をくねらせる。
「──だから、貴方もきっとそのうちに分かります」
少女はなんだか圧倒されて、言葉も出ない。
大人の女性がこんなにも明け透けに恋情を吐露する姿。
記憶を失い、自分というものが分からない少女でも、そこには普通とは違う感覚を得た。
──なんというか、重くない?
アリオン・アズフィールドという女の子に対し、こうも信頼が重いなんて。
〈
けれど、こんな話を聞いてしまうと、さらにすごい人間な気がして本当に同じ人間なのか疑問になる。
──というか、私ってこれから、そんな子と一緒にしばらく暮らすの?
──え、刺されたりしない?
少女は莫大な不安を得た。
思考が内側を向いて、体は「なんかすごい」という思いで硬直。
ナースさんがウキウキと巻き尺を体に巻きつけてきても、抵抗できない。
「ふふふ。では、身体検査を続けますね」
そんなタイミングだった。
「失礼、ティアーナ・ファタモルガーナ看護師はいらっしゃいますか?」
「!!」
衝立の奥から、ナースさんに声がかかった。
スチャッ! と。
ナースさんは巻き尺を落として、凄まじい勢いでヘルムを被る。
──あ、本当に顔隠すんだ……
少女がビックリするのも束の間、ナースさんは「ウッウン!」と咳払いして喉の調子を整え、
「アリオン様ですか? 私ならここに」
「良かった。レディ・アイゼン、中に入っても大丈夫でしょうか?」
「お待ちください。それより──いつからそこにいらっしゃいましたか?」
「? つい今し方ですが」
「ふぅ──」
回答に、ナースさんは胸を撫で下ろして安堵のため息を吐く。
あれだけ大胆な発言を繰り返していたのに、どうやら意図しないところで当人に気持ちを聞かれると、恥ずかしいと思う乙女心らしい。
いや、よくよく思えばヘルムを被って顔を隠さないと話もできない様子だから、クールビューティーに見えてかなりの恥ずかしがり屋なのだろう。
ギャップがすごいなぁ……と少女はぼんやり思った。
「そうですか。であれば、問題ありません」
「? では、失礼します」
「あ」
ナースさんの言葉を、アリオンは入室に問題がないと捉えてしまったようだ。
一方で、ナースさんは話を聞かれていないと分かって、その事実に問題なしと答えた。
すれ違いはすぐに一方にとって瞭然となり、だからこその「あ」
「────」
「────」
目と目がぶつかる。
蒼玉の瞳が、ばきり、と氷の割れたみたいに固まる。
少女はまだ半裸だった。
青色の下着姿を、バッチシ確認される。
(あ、でも、女の子同士だから問題は……)
目の前の見目麗しき女性たちは、同性でもイケてしまう。
となると? この状況は? つまり?
「──キっ」
「申し訳ありません。出直します」
「キャァァァァァァァァァァァ──ッ!!??」
少女は急いでベッドのシーツを体に巻き付けるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
なんだかものすごく警戒されている。
看護室を後にし、少女とふたり病棟を出た後での実感であった。
アリオンは少女から、あからさまに距離を取られている。
レンガ道を歩いて、とりあえず寮への案内を始めてから、少女とアリオンの距離は常に1メートル以上の物理的な空間を挟んでいた。
無理もない。
つい先ほど、アリオンはまたしても少女の裸体を目の当たりにしてしまった。
初対面の時の全裸or裸マントよりマシの、青色のランジェリー姿だったとはいえ、露出が多いことに変わりはない。
むしろ、下着を着用していて大事な部分が覆い隠されていたからこそ、アリオンも咄嗟に視線を逸らす判断が遅れてしまった。
本当に申し訳ない。
貴族の生まれとして、責任を取って結婚するのがスジだとも思うが。
しかしアリオンは、現在は一介の学生であり、闇祓いを目指す魔法使い見習い。
すでに白馬の王子の加護を利用し、何人かの女性と唇を重ねた経験がある。
内の数人は、光栄にもアリオンに好意を抱いてくれて、そんな彼女たちとは約束をしていた。
すなわち、アリオンが闇祓いになるまで、彼女たちの気持ちが微塵も変わりないのであれば。
その時は必ず、アリオンも答えを出すという約束だ。
(もっとも、僕はこんなだから、彼女たちがいつまでも慕ってくれる可能性は少ないだろうけど……)
闇祓いになれば危険な仕事も多くなる。
いつ命を落とすか分からない人間に愛を誓うより、別の誰かと結ばれた方が幸せではないか?
それでも覚悟の上でアリオンを好いてくれるなら、アリオンも全力で応える所存だった。
幸い、闇祓いには特定の国の法や制度に縛られない特権がある。
アズレア公国では一夫多妻制が基本だったが、貴族は貴族と結婚するのが常識だった。
闇祓いになれば、その縛りも無視して行動できる。
自分を捨てた国のしがらみなんて、いつまでもこだわる必要はまったく無いが、アリオンは真面目なので理由が無いと何かモヤっとしてしまってダメだった。
それはさておき。
「レディ。そろそろ貴方の仮名を決めておきたいのですが、もう少し近くに来れますか?」
「ガルルルルルルッ」
「犬ですか貴方は」
思わずツッコミを入れつつ、後ろを振り返る。
少女は警戒心に満ちた顔で、ビクッと止まった。
唸り声はあくまで鳴き真似の域を出ないが、迂闊に手を伸ばせば本当に噛みつかれるかもしれない。
恐らく、アリオンの本当の性別をすでに知っているからだった。
保護観察という名目上、二人はこれから同じ寮(アリオンの部屋)で生活する。
であれば、学院側から事前に最低限の説明はされているはずで。
保護観察官となるアリオンについても、少女はある程度の情報を与えられているに違いない。
先ほどの看護室での反応も、だからこその悲鳴だったと考えられる。
とはいえ、すでに終わってしまった手続きを再びやり直すのは時間がかかる。
ここはグッド・コミュニケーションで円滑な共同生活を実現するためにも、名前を呼び合う関係性が望ましい。
普通に不便極まるし。
アリオンはさっさと仮名を決めて、一緒にお昼を食べに行きたかった。
「とりあえず、何かお好みの呼ばれ方はありますか? 無いようでしたら、一応、何個か候補を挙げさせていただきますが」
「……候補?」
「はい。サラ、クリスタ、グレイス、シルヴィ、ワイス、ジェニー、ココ──」
「ちょちょちょ! ちょっと待ってください! いきなりそんな、なんです?」
「貴方に似合いそうな名前を、考えて来ました」
「……はい? いや、嘘ですよね? そんなカタログを広げるみたいに並べて!」
「嘘じゃありません」
訝しげな顔になった少女に、アリオンは「たとえば」と説明を開始する。
「貴方の髪はサラサラで、まるで上等な絹糸のようだ。だからサラという名前を思い浮かべました」
「!?」
「クリスタ、グレイス、シルヴィの三つは、貴方の瞳がとても印象的な玻璃色だったので、透明感のある綺麗な音の響きを選んだつもりです」
「なっ!」
「ワイス、ジェニー、ココなどは、貴方の肌があまりに穢れのない無垢を思わせたので、白を意味する名前を──」
「っ、もういいです! やめてください!」
ストップをかけられ、アリオンは口を噤んだ。
少女は真っ赤になってアリオンを睨んでいた。
「よく、そんなふうに恥ずかしいセリフが飛び出てきますね!」
「女性を褒める際には、ストレートに物を言えというのが母と妹の教えでしたので」
「そうですかありがとうございますこのつみつくり!」
ぜぇ、はぁ。
少女は大きな胸をドキドキ弾ませ「うぅ〜……!」と唸った。
美少女にしては、ずいぶん褒め言葉に不慣れなようだ。
今のは社交界では、いっそ陳腐とすら呼ばれてしまう定型的な美辞麗句のひとつなのだが。
(ひょっとすると、記憶の喪失が新鮮な感覚を与えているのかも)
アリオンはグッ、と下唇を噛んだ。
「レディ。何でも頼ってください。僕が必ず貴方の支えになります」
「──は!?」
「それで、何か気に入る名前はありましたか? 僕としては、やはりサラがおすすめなんですが……」
「じゃあサラでいいですむしろサラでお願いします!」
少女は噛み付くように仮名を受け入れてくれた。
照れ屋さんのようだ。
アリオンは頷く。
「では──レディ・サラ」
「っ〜〜! なんです!?」
「改めて、僕はアリオン・アズフィールド。これからしばらく、よろしくお願いいたします」
「はい! 言っておきますけど、私は男の人が好きですからね!?」
「?」
突然の男好き発言。
記憶を喪失していても、そういう価値観は残るものなのか。
アリオンは「そうなんですね」と返しつつ、
「僕は女性が好きです」
「!」
自己紹介の一環かな? くらいに思ってレンガ道を再び歩き出す。
後ろから着いて来るサラが、「や、やっぱりそうなんだ……!」と何やら震えているのを不思議に思いながら。
◇◆◇◆◇◆◇
エルダースの敷地内には、ところどころで露店が開かれている。
広大な学校領には学生街や教員街といった独特な街並みもあるし、人が多く暮らしているのだから必要なインフラは各種整備もされる。
あの後、アリオンはサラとふたりで
厚めの紙袋で包装されていて、まだホカホカと温かい。
天気が良いため、空いているベンチなどに座って外で食事を済ませるコトも考えた。
しかし、アリオンが住んでいる学生寮までは意外と時間がかかるため、行儀は悪いが食べ歩きでテクテク進んでいた。
「このあたりから学生街で、東通りに進むと商店街が広がっています。安めの雑貨や日用品類を揃えるのに重宝する場所です」
「もぐもぐ、もぐもぐ。へぇ、そうなんですね」
「はい。今日は用が無いので案内は後日にします。反対側の西通りに進むと、こっち側にあるのは学生寮だけです」
「ふーん。意外と普通の集合住宅地なんですね」
「まあ、この辺は持ち家を持たない学生の住居区画ですから」
「自分のお家を持ってる学生もいるんですか?」
「どこかの国の王族や、エルダースに古くからある学閥貴族の方々はそうらしいです」
「あれ? でもアリオンさんはたしか、貴族の生まれだって言ってなかったでしたっけ?」
「ハハハ。まぁそこは、貴族もピンキリですから」
「アリオンさん……」
哀れみの視線がアリオンに突き刺さる。
揚げパンを頬張り、油で濡らした艶やかな唇を閉じ、サラは申し訳なさそうにした。
貧乏貴族。なのに奢らせてしまった。
少女の心の動きは手に取るようにアリオンに伝わった。
が、そこは問題ない。
「安心してください。貴方を保護すると決まって、学院からは援助金をもらっています」
「あ、そうなんですか?」
「ええ。それほど多い額ではありませんが、揚げパン代くらいはどうってことない額です」
言うと、サラはホッとした顔で「よかった」と呟いた。
アリオンも少しだけ安心する。
露店で買える軽食代くらい、女性にはいつだって奢れる男でありたいものの。
実のところアリオンは、今回の援助金にかなり助けられていた。
苦学生なのは嘘ではない。
サラの世話をするのは、結果的にアリオンをも助ける〝人助け〟なのである。
そんなこんなで、寮に到着した。
玄関を開けて、ガチャリと部屋に入る。
「……少し狭い?」
「正直さは美徳ですね、レディ」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
「いえ、構いませんよ。狭いのは事実です。もともと一人暮らし用で借りている部屋ですし、二人で住むには手狭なのは当然です。ですが、一応客室くらいはあるので、レディはそちらを使っていただければ」
アリオンは手振りで客室を示し、サラに小包を渡す。
「これは?」
「お金です。いろいろと入り用になると思いますので、レディ個人で使える額があった方が良いでしょう」
「! ありがとうございます!」
下着や肌着、女性特有の生活用品。
〝もどき〟であるアリオンと違って、サラにはきちんとした消耗品が必要になるはずだった。
一緒に暮らすとはいえ、プライバシーの遵守は大切である。
アリオンはそれから、トイレや浴室の案内などを済ませて、台所から水をグラスに注いだ。
窓から差し込む明かりは、橙色に変化しつつある。
完全な夕方を迎える前に、アリオンはサラと話をしておかなければならなかった。
「レディ」
「は、はい!」
サラは緊張していた。
見ず知らずの人間と同じ屋根の下で暮らす。
緊張しない方がどうかしているし、誰だってこういう反応になるのは仕方がない。
リビングの椅子に座り、テーブルを挟んで向き合うと、アリオンも改めて誰かと一緒に暮らす実感が湧き上がってくる。
(クレアは基本的に、無機物だしスヤスヤだしね……)
起きている時間の方が珍しい。
そのため、アリオンも少しだけドキドキしている自分を自覚しつつあった。
が、浮ついている場合じゃない。
「レディ。貴方の身元は、残念ですが当分のあいだ分かりそうにありません」
「あ、はい。私ってたぶん、友だちがいなかったんですね……」
「それは分かりませんが」
学院から学生へ、掲示板によって情報提供を求める周知が行われても、協力を名乗り出る学生はひとりも現れない。
まだ三日だから、そこまで悲観的になる必要は無いかもしれないが。
指導士や教員側からも何も情報が出てこないのが、地味に気がかりだった。
「そこで、貴方の記憶を取り戻すためにも、明日からは僕と一緒に色んな授業に出てみませんか?」
「授業に?」
「学生として何か記憶の呼び水になる刺激があるかもしれませんし、まずは魔法使いか魔術師かの違いを確認するだけでも、調査の方向性が決まります」
「あ、でも、昨日までの検査で魔導書検査は受けましたよ?」
魔力が無い人間には、魔法の呪文が読めない。
呪文が書かれている魔導書を開いても、文字がバラバラに踊っていて意味を成さない文字列が現れる。
けれど、魔力を持つ人間が魔導書を開けば、文字は整列を開始して綺麗な文意を教えてくれる。
だがそれは、魔力を持つ人間にだけ見える変化で、非魔力持ちには変わらずぐちゃぐちゃな紙面のままらしい。
「私は魔力持ちみたいです」
「なるほど」
ためしにクレアの柄を軽く握ってみると、たしかにサラには魔力があるようだった。
(……そういえば、三日前にも視えてはいたっけ)
あの時は魔力の有無なんかを気にするより、救助や保護を優先していたので忘れていた。
サラの魔力は珍しい色彩で、虹色に光る硝子のようだ。
(……? 前より増えてる?)
アリオンは目を瞬かせた。
気のせいか、三日前よりもサラの魔力が多いように見えたからだ。
しかし、魔力は減ることはあっても増えることは無い。
恐らくただの気のせいだろう。
「たしかに、そうみたいですね」
「?」
「では、魔法使い向けの授業を試しに受けてみましょう。もしかしたら、何かを思い出せるかもしれない」
「あー、だけど、アリオンさんにもカリキュラムがあるんじゃないですか?」
「幸いなコトに、僕は一年生なので学ぶことがたくさんあります。僕と同じカリキュラムに参加してもらえれば、自ずと色んな授業を受けられますよ」
「……分かりました。なら、ご迷惑でないなら、お願いします」
ぺこり。
下げられる頭は深かった。
アリオンは嬉しくなる。
自分が助けた誰かが、助けるに値する人だったと知れた喜びは大きい。
(あっ、でも、明日は個別指導の日だ)
丸一日使って、赤髪の
けれどまぁ、事情が事情だし構わないか。
「レディ。ともあれ、あまり気を張らず楽に過ごしてください。体験授業のような気分でいたほうが、ふとした拍子で、記憶もよみがえり安いかもしれませんし」
「うーん。そうですかね……?」
「明日は僕が、この学院で一番に尊敬している女性の授業を受けられます。先生に聞けば、何か助けになるヒントを教えてもらえるかもです」
「魔法使いの先生かぁ。やっぱり三角の帽子を被ってたりするんですか?」
「? いえ」
ヴィルヘルミナ・ヴェルミオン。
彼女がよく身につけているのは、メリハリのある体を克明に際立たせるオープンバストコルセットとタイトスカートと、外套のような白衣。
彼女はメガネをかけ、常に
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