第2話 彼女はナージャ
明らかに私を見ている。
「えっ、と」
と声に出して驚いた。
今までの夢で私は、舞台の観客みたいに『いない存在』だったから。
その象徴みたいに、
「よかった! 生存者がいたんだね!?」
少女は私の手を取る。
「え、えーと、それは、その」
「違うの?」
「違うっていうか、なんていうか。いや、違うのは違うんだけど」
「まさか魔族!?」
「うわぁ! 待って待って待って!」
「へぇ、あなたは夢で来ているの」
説明すると、夢じゃまず聞かない返事をされた。
「じゃあ私は夢の中の存在ってこと? 信じられないなぁ」
私たちは近くの河原で焚き火をしている。
あのまま村にいる気にはなれなかった。
「私だって、自分の夢の中に詳細な世界があるなんて思わない、です」
「ま、『夢渡り』とか。なんかあるんだろうねぇ」
彼女は淡々と焚き火に木の枝を投げ込む。
魔王軍がいて本人も炎を撒き散らす世界。
あり得る範疇なんだろう。
彼女はにっこり笑って片付けてしまうと、
「私はナージャ。あなたは?」
ズイッと顔を近付ける。
「私は、怜奈」
「レイナ! じゃあレイナ。この分だと明日も会える」
「たぶん」
「だからお互い自分の世界で、少しずつ手掛かりを探、そ──
焚き火でオレンジに染まる顔が急にボヤける。
同時に目覚ましが鳴った。
6限目の、その日のレッスンの終わりがけ。
「はーい、全員集合ー」
先生が私たちを呼び集める。
隣には脚本コースの
「今から学年末公演の脚本を配ります。オーディションは来週の金曜日! 各自しっかり読み込んで、やりたい役を練ってくるように」
同時に楢崎さんが一歩前へ出る。
「ごめんなさい。今配った脚本、最後まではできていません。でもオーディションに必要な部分は書いてあります。残りもなるべく早く仕上げるので、よろしくお願いします」
「ということで、これは楢崎さんが書いたオリジナルの本だから。ネットにあらすじとかないから、サボらず真面目に読み込むように!」
みんながワイワイ楢崎さんを讃えたりしているなか、先に脚本を開くと
「えっ!?」
「どうしたの?」
旭ちゃんがこっちへ振り返る。
「いや、なんでもないよ」
適当に取り繕うけど、瞳孔が開いてたんじゃないかな。
だって、
『ナージャ:主人公。17歳女性。魔王を討伐するために派遣された、炎の勇者』
この文字列が、視界の中央で揺れるから。
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