48話 生徒会指導室で、配信部顧問代理とお話をする
唐突だけど、Vトークでいけるか?
「話は打って変わって、僕はメロン艦長が最推しなんだけど神谷さんは?」
「私も艦長です」
「そうなんだ。僕はトークが好きなんだけど、神谷さんはどこが好き?」
「私もトークが好きです。でも、全部好きかも」
「FPSとかTPSとか、ゲーム配信とかも見てる? 鉄砲バンバン撃つやつ」
「はい。知らないゲームでも、コラボ相手とお喋りしているのが面白いから見てます。あ。そうだ。先輩。艦長が鉄砲のゲームをしている時によく言う『乗組員のみんな、オラに玉を分けてくれ!』ってどういう意味なんですか? みんな『どうぞ』とか『使ってくれ!』とかコメントしているけど、何か元ネタがあるんですか?」
「あ、うん。少年漫画で、みんなの元気を分けてもらう必殺技があるから、それのこと」
いや、まあ、それも元ネタなんだろうけど、実際は弾丸がなくなったから、男子の股間にぶら下がっている玉を寄越せという下ネタ……。
「土曜日のオフコラボ配信、見た?」
「見ました」
「オフコラボのわちゃわちゃ感が最高だったよね」
「はい」
「僕、外出していたからあとでアーカイブを見たんだけど、艦長達がドーナツを食べてたとき、同じタイミングで僕もドーナツ食べてたよ」
「わ。凄い偶然ですね」
「うん。驚いた。心が通じあっちゃったね。あそこが僕的クライマックスかな」
「私的クライマックスは、ポコラから通話がきて『お前んちの前まで来たけど、中から楽しそうな声がして入りづらいから帰る』のところです」
「あ、そこもいい。『おい、帰んな、捕まえろ!』でみんな出ていって、無音配信になったの、普通に事故だと思う」
「いつ喋り出すか分からないから飛ばすわけにもいかず、ずっと待ってました」
ありがとう、艦長。話題をくれて。
ありがとう、ユウ。トーク力を鍛えてくれて。
二人のおかげで、めちゃくちゃいい感じに女子と会話できてる!
昇降口まで行ったところで、神谷さんと別れた。
やり遂げた。選択肢に介入させずにやり遂げたぞ。
さあ、次は生徒指導室に行って、竹田先生にSNSの炎上について相談しよう。
大丈夫。僕のコミュ力は上がっている。いけるはずだ。
生徒指導室に向かいドアをノックすると、若い女性の声で「どうぞ」と返事がした。
「失礼します」
やけに重いドアを開けて入室すると、僕はテーブルを挟んで竹田先生の前に立つ。
二月なので陽が落ちるのは早く、室内はやや薄暗い。
「どうぞ。座ってください」
「はい」
僕は車輪付きの椅子に座った。ちょっと固い背もたれが、軋んだ音を鳴らす。
「上山君の個人情報がXitterに書きこまれている件は確認しました。その……。Xitterに削除依頼は出しましたけど……。言いにくいのですが、すぐに削除されることはないと思います……」
「あ、はい……。僕もXitterやってるので、晒されたらどうにもならないのは、なんとなく覚悟していて……。ただ、バズっていたつぶやきで、僕が部費を盗んだとか、部員の私物を盗んだとか、それは嘘なので訂正してもらいたくて……」
犯人の部員に……という主語を僕は口にできなかった。間違いなく部員が犯人だけど、教師に告げ口しているような気がしてしまったからだ。
「ええ。先程、念のために部費の銀行口座を確認しましたが、お金が引き落とされているということはありませんでした」
「よかった……」
少なくとも先生は、僕がお金を盗んでいないことを信じてくれている。
僕が部員の私物を盗んだとされる動画についても弁明したいけど、やはり、学校内への持ちこみが禁止されている以上、スマホを出すわけにはいかない。
しかし、生徒指導室にはパソコンがないため、スマホがなければ動画は確認できない。
「あのっ……。動画なんですけど……」
動画を確認するためだから、今からスマホを取りだしても校則違反は見逃してくれませんか……?
って言いたい。でも、言えない。
僕が言うか言わないか葛藤していると、竹田先生が私物らしきスマホを取りだした。
「……生徒のためです。見なかったことにしてください」
「は、はい」
ん?
教師もスマホの持ちこみ禁止なの?
学校行事の際、普通に教師間で連絡を取りあっているのを見かけるから、許可されているんじゃないの?
先生がテーブルにスマホを置いた。画面にはXitterが表示されている。
あ。指でアイコンを隠している。そういうことか。
先生が「見なかったことにしてください」と言ったのは「私のアカウントを特定するな」ってことだ。
分かった。先生のアカウント名やIDが視界に入っても絶対に覚えない。
Xitterには、プチバズっている呟きが表示されている。
テーブルの中央に置かれたスマホを見るために僕は身を乗りだす。椅子が軋んで、悲鳴のような音を小さく鳴らした。
先生が動画を再生し、僕達は無言で動画を視聴する。
「この動画ですが、映っているのは上山君で間違いありませんか?」
「はい。間違いなく僕です。撮影された日も覚えています。先週の木曜日です」
竹田先生が僕を疑っていないのは、優しく話しかけてくれていることからも明らかだ。
けど、僕は、抑えようのない不安や怒りのような物が全身にまとわりついてきて、勝手に声が速くなる。
「ここは部室です。下に映っているのはゴミ箱です。誰かの机やロッカーから物を盗っているわけじゃないです。僕が持ってるのは、学校に持ってくるのは駄目かもしれませんけど、私物のフィギュアです。動画のコンセプトを伝えるために、事前にイメージ映像を撮影することがあるんですけど、その時にVTuber役としてフィギュアを使ってます。なので、部活の道具です。それで、それがゴミ箱に捨てられていて、それを拾っただけです。そうしたら吉野先輩が撮影していて……」
「だとすると、この動画をXitterに投稿したのは、吉野さんかもしれませんね。転載されてしまったものは消せないかもしれないけど……。上山君との話が終わったら配信部に行って、詳しい事情を聞いてみます」
「ありがとうございます。お願いします」
僕は背もたれに体重を預ける。
よかった……。
炎上の初期段階で先生が対応してくれるなら、拡散被害は最小限で済むかもしれない。
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