42話 日曜日をまったりと過ごす。……僕の知らぬところで事件が起きているとも知らずに

 日曜日。僕は普段と変わらず家で転がって動画サイトを見て過ごし、夕方になると半額惣菜を狙って妹と一緒に近所のスーパーに出掛けた。


 そして夜、事件は起きた。


 いや、水面下で既に事件は起きていた……。


 夕食を終えて、スマホを手にゴロゴロしていたら、VTuber関連の記事を見かけた。


 配信部に関する記事がいくつか増えていたようだけど、それほど大きな炎上ではない。学生の配信活動だから、そもそも注目度は低い。


 ただ、リアルイベントで際どい失態を犯した上に、公式発表よりも先に中の人が事務所への所属を公表してしまったから、火に油を注ぎたい人の歓心を買ったようだ。


 しかし、やはり、大した炎上ではなかった。


 数百万人のチャンネル登録者がいる人気配信者と異なり、配信部のぱじめちゃんのファンは数千人だ。炎上しても世間的には「誰それ?」だ。


 僕にとってはもう他人事だし、あまり気にならない。


 しかし、気づかないうちに僕は火まみれになっていた。


 お風呂から出た僕は布団に入って横向きになり、消灯前のスマホダラダラタイム。隣で妹も同じようにしてる。


 先週までリアイベの準備が忙しくて、艦長の配信をいくつか見れていなかったため、それらを追いかけている最中だ。


 ようやく、昨日のお昼配信アーカイブまで追いついた。


 ゲストに「脳筋と思った? 実は科学者でIQ高め。黒鉄くろがねノシロで~す。配信はいし~んゴーッ!」という挨拶でおなじみのノシロちゃんと「太陽めらめら! SUNSUN、こんさん~」でおなじみの太陽クレアちゃんが来ている。


 僕がコンビニで外国人に絡まれた日から艦長がちょっと凹んでいたから、同期の二人が急遽オフコラボを開いて励ましに来てくれたのだ。同期の絆、熱すぎる……!


 なお、妹の最推しであるポコラも同期だけど、来ていない。塩対応なわけではなく、スケジュールが合わなかっただけだろう。


『いやー、最近、枕頭の書が増えちゃってさ~』


『ちっ、ちん……ッ! ちょっと、ノシロちゃん、センシティブは駄目なんよ! 艦長のチャンネルがバンされちゃう!』


『メロンさん、何を勘違いしているんですか? 枕頭の書というのは――』


『そんな可愛い声で、ちんぽとか言わないで! ここは艦長の清楚なチャンネルなんよ!』


『乗組員のみんなは大変だねえ。こんな頭ピンクの艦長で。枕頭の書――』


『ピーッ! ピーッ! ピー入れて! 自分で中にピー入れて!』


『うわ……。メロンさん、その発言の方がよっぽどセンシティブですよ』


『何が? 艦長のどこがセンシティブなの?!』


『えっと、とにかく私が言っている、ちんピーの書というのは枕元に置いておく書物のこと。つまり、愛読書だね』


『そんなッ。ノシッちゃんは、ちんピーだらけの薄いエッ……! な本を枕元に何冊も置いてるの?! そっ、そういうの、ど、どどっ、どこで買うのかな、かな? 経費で落とせるのかなかなっ。ふへへ……』


『メロン。笑い方がキモ過ぎ……』


『たでーまー。あれー。二人ともどうしたのー?』


『クレアちゃん、聞いて。ノシロちゃんがさっきから、ちんぽちんぽ連呼してて酷いのッ!』


『卑猥なこと連呼してんのお前じゃねえか。そんなことより、ほらー。クレアちゃん特製、ドーナツのアレンジレシピー。クリーム追加したのとかプリン挟んだのとかあるよー』


『クレアさん最高です。ドーナツなんて、どこから出てきたんです?』


『ん~。マネちゃんが手土産に持ってきてくれたから、映えるように一手間加えたの~』


『撮ろ撮ろ。配信にあげちゃお。あ。そうだ。マネちゃんと言えば、うちらのイメージカラーのメッシュ入れてたよねー。愛されてるー』


 はあ、てえてえ……。


 僕と玖瑠美がアオンモールのフードコートでお弁当やドーナツを食べている頃、艦長達もドーナツを食べていたんだ。運命を感じるぜ……。


 艦長の可愛いが過ぎてヤバみが半端ないから、もう一回再生するしかないんよ。


 僕が同じシーンを繰り返し再生しようとすると、突如、玖瑠美が大きな声を上げる。


「お兄ちゃん! 大変!」


「んー?」


 なんだろう。ソシャゲのガチャで最高レアでも引いたのかな。


 寒いのに、玖瑠美は自分の布団から這いでてくると、スマホを僕の眼前に突きつけてきた。


 画面が近すぎて見えない。


 玖瑠美が僕の枕元に座りこむから、僕は太ももの上に頭を乗せて膝枕にしてもらった。


「そういうボケしてる場合じゃないから」


 ガッ!


 玖瑠美が脚を開いたから僕の頭は太ももの間に落下した。


 寒いけど、仕方なく上半身を起こして玖瑠美のスマホを見る。


「ん? え?」


 それは、Xitterでバズっている投稿だ。


 ――虹ヶ丘第三高等学校配信部の部費二〇万円を盗んだ上山誠一郎君、リアイベで会場自販機の飲料を買い占めて高額転売する金の亡者っぷりを見せつけるだけでなく、部員の私物を盗んでいた?!


 なんだこれ。いったい何が書いてあるのか理解に苦しむ文字の羅列だ。その文章に添付された動画を再生してみる。


 すぐに分かった。それは、退部を告げられた僕がゴミ箱から私物を回収している時の映像だ。画面下部はモザイク加工されており、どこから物を取りだしているのかは分からなくなっている。


 映像の中の僕はメロン艦長のフィギュアや筆記具を自分の鞄に入れると、カメラを睨み付けた。


 テロップに出ているように、部員の私物を盗んでいるところを見つかって逆ギレしているように見えないこともない。


「お兄ちゃん、何これ」


「僕の私物がゴミ箱に捨てられてたから、拾っただけだよ」


「うん。お兄ちゃんが人の物を盗るとか疑ってない。なんで、こんな動画があるの? なんでお兄ちゃんが部費を盗んだとか、ジュースの転売したとか書かれてるの?」


「分かんない。分かんないって!」


 混乱のあまり僕は声を荒らげてしまった。


「ご、ごめん。でも、ほんと、待って」


 僕は玖瑠美の様子を気にしている余裕はなかった。自分のスマホで、自分について調べる。


 そして、自分の本名が晒された最初の投稿を見つけた。


 ――ぱじめちゃんがリアイベでソングステージに所属するって発表していたけど、オフィシャル情報? ソングステージに問い合わせた方がいい?


 ――――台本担当の上山誠一郎が台本に書いたから、ぱじめちゃんは台本どおりに喋っただけ。ソングステージには問い合わせない方がいいですよ


 それは、Xitterで、あるユーザーのつぶやきに対する返信だ。


「なんだこれ……」


 アカウント作成日時が本日二月一七日(日曜日)の新規ユーザーが、事実無根のことを書き込んでいる。


 さらにその新規ユーザーは今日だけで数十件ほど呟いているが、そのすべてが配信部の失態はすべて上山誠一郎に責任があると指摘する内容だ。

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