41話 深夜のテンションでバニーガールと楽しくトークした

 ピポンッ♪



 A.「それよりも君の瞳に乾杯したいな」


 B.「どれくらいぷりっぷりか、確かめてみたいな」


 C.「残念。パンツを見たかったな」



 こんなときに出た!


 相変わらず、どれもこれもクソな選択肢!


 Aは論外!

 Bも論外!

 Cも論外!


 くっそ。選べる選択肢がない!


 ん?

 ユウがニヤニヤしながら、Bを指さしている。


 こいつ……見えてるのか……!


 ……。

 ……つい、異能力系バトル漫画っぽい台詞を心の中で言ってしまったぜぇ……。


 ん?

 よく見るとユウはニヤニヤしているけど、頬が微かに赤い。絨毯が赤色で照明が薄暗いから、そう見えるだけ?


 ……照れているのか?


 僕をからかうためにセンシティブラインに接近しているだけで、実際は、普通の女の子なみの羞恥心を持っているのか?


 だったら、ここは敢えて攻めて、ユウを照れさせる?


 B.「どれくらいぷりっぷりか、確かめてみたいな」か?


 だけど『じゃあ実際に触って、私のお尻のぷりぷりっぷりを確かめて』とか言われたらこっちの負けだ。あ、いや、ユウも負けかもしれないが……。


 Aしかないのか!


 くっ。僕は消去法で仕方なくAを選んだ。


「それよりも君の瞳に乾杯したいな。ほら。君の綺麗な瞳を、もっと近くで見せてくれないか?」


「うわー。歯のめくれるような台詞。似合わないのじゃ~」


 ユウがずいっと顔を近づけてきた。


 瞳に映る僕の顔がはっきり認識できる距離だ。僕の体は、まだゲームの影響にあるのか、まったく動かない。


「世界のだれよりも美しいよ。ユウ。君の瞳を独占できるなんて、僕はなんて幸せ者なんだ」


 ポポポポポンッ!


 ユウの周囲にピンク色の小さなハートが飛んだ。


 なんで、ダメージ受けてんだよ!


 そんなに僕の台詞はキモいのか?!


 ユウの頭の上を凝視すると、ピンク色のハートが四つ浮かびあがる。


 ユウの最大HPがいくつかは分からないけど、僕が六個だから、まあ、神様とはいえ女の子だから四個もあれば十分か。


 ユウが顔を離して、ようやく僕の身体に自由が戻ってきた。


「ねえ、現実世界でもこんな選択肢が出てきたんだけど、もしかして、このゲーム世界の仕様が僕に適用されてない?」


「たぶんそう。部分的にそう」


「あー……。やっぱそうか」


「人が死ぬようなゲームじゃないから安心するのじゃ」


「それはまあそうなんだけど。選択肢がどれも選びづらい……」


「そこがゲームの楽しみどころなのじゃ!」


「あっ。そういことか。たしかに、変な選択肢が出て、配信者が慌てふためく方が配信は面白くなる。……そうか。そうだよ。今のは照れちゃ駄目だ。『やっぱパンツっしょ! こんな可愛い子がどんなパンツを穿いているのか見たいな! うひょー! エチチコンロ点火、エッチッチのチ!』とか『ぷりっぷりのお尻、おじちゃんに見せてごらん。うひひ』と気持ち悪いことを言って、ふざける場面だった! プロはそうしてる!」


「それは美少女VTuberだから『おじ』のギャップが出せるだけで、セーイチロウがやっていたら、どんびきなのじゃー」


「確かにクリームコロッケ」


「フードのオーダー入りまーす。かにクリームコロッケひとつ~」


「あ……」


 減るのはゲーム内通貨だから構わないんだけど、勝手にフードを注文されてしまった。この商売上手め。


 ユウはしゃがみ、カウンターの陰で何かゴソゴソし、かにクリームコロッケを取りだした。


 まあ、ゲームだし調理はしなくてもいきなり完成品が出てくるのだろう。


「かにクリームコロッケゲームをするのじゃ?」


「何それ?」


「ポッキィーゲームってあるじゃろ? 細いお菓子を両端から食べていって、照れて口を離した方が負けというやつ」


「うん。……え? あれをかにクリームコロッケでやるの?!」


「理解が早くて助かるのじゃ!」


「無理でしょ。一口か二口で唇が当たるからゲームにならないし、仮に当たってもデロッてするだけで、照れる要素がないでしょ」


「口の周りをクリームだらけにして『んっ……。いっぱい出たね……』って」


「はい、センシティブー! アウトー!」


「え? なんで? なんでクリームがセンシティブなの?」


 センシティブを分かっていて分からないフリをするの、真剣ゼミででやったところだ! じゃなくて昼間のカフェでやったところだ!


「ゲームやるなら、例えば、かにクリームコロッケを複数用意して、どれかにワサビを入れるとかだけど……。あ、でも、そんなハズレを引くまでいくつも食べれるものじゃないし……。食べ物でゲームするのは、また別の機会にしよ。ハンバーガーチェーンを経営するとか、たこ焼きを焼きまくるとか、そういうゲームがあるし、そっちの世界で」


「分かったのじゃがポテト。じゃがポテト入りまーす!」


「勝手に注文しないで!」


「お主だけフードありで、ワシはないの酷いのじゃ!」


「確かにクリ――。あ、うん。分かった。じゃあ、じゃがポテト頼むよ」


「じゃがポテトツナマヨ、入りまーす!」


「『頼むよ』を『ツナマヨ』にするのは無理くない?!」


「ぬふふ。チョロいのじゃ」


 というわけで僕達はドリンクを飲みながら、フードを食べた。

 じゃがポテトツナマヨは普通に美味しかった。作るの簡単そうだし、いつか真似しようと思えるレベル。


 その後は、ファンタジー世界をどうするか話しあった。


 奇をてらうのはあとにして、先ずは手堅く『マインクラフォト』に近づける方針にした。それっぽい感じになってから、オリジナル要素を追加していく感じだ。


 しばらくしたら飲み物の追加を促された。


 眠くてぼーっとしているから、これがラストということで、バニーウーロン茶という一万円もするオリジナルドリンクをオーダーしてしまった。


 ユウがドリンクを取るために振り返ったとき、お尻、見ちゃった。

 寝落ち寸前の深夜テンションだから許しほしい。


 ……本人の自己申告どおり、ぷりっぷりだった。


「バニーウーロン茶はいりまーす! セーイチロウのいいところ、見てみたい! セーイ、セセイッ! セーイ、セセイッ! 一気! 一気!」


「うぇっへーい!」


 深夜でおかしくなってる僕はユウのノリにつきあって、ウーロン茶を半分くらい一気に飲んだ。


「私も飲みまーす!」


「ユウのいいところ、見てみたい! ゆーううっ、ゆーううっ! って、言いづらッ!」


「そういうときは『ユウちゃんユウちゃんッ! 可愛いよ、ユウちゃん!』って言えばいいのじゃ」


「ユウちゃんユウちゃんッ! かわ……言いづらッ!」


「あひゃひゃひゃひゃっ!」


「うひひひひひひひひっ! ユウの笑い方、キモッ!」


「セーイチロウの方こそ、キモッ!」


「うひひっひっ……。ひい……。ふう……。そろそろ寝るから帰るよ。頭が死んでる……」


「えー。セーイチロウとお喋りしたりないよお。アフターする?」


「しないって。寝るって言ったでしょ……。ふあ……。じゃあ、また明日……」


「うむ。股の下なのじゃー」


 僕は退店し、アパートに戻った意識はそのまま寝落ちした。

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