バニーガールの園

40話 バニーガールとお酒を呑むゲーム世界?

 アオンモールから帰ってくると、夕食を終えた僕は部屋で転がってスマホでSNSをチェックした。


「うわぁ……」


 VTuber関連のまとめサイトを見ていたら、そこに、こんな記事が。


 ――高校生Vの箱レインボーハイスクールのリアイベがクソ過ぎて炎上


「大手事務所の話題ならともかく、高校の配信部がまとめサイトに載ることなんてあるんだ。初めて見たぞ……」


 僕は記事を読んでみた。


 うわぁ……。ひでぇ……。


「うわぁ……。ひでぇ……」


 ――開場直前まで列整理をせずに、近隣施設に迷惑をかけていた。


 これは正直、すまんかった……。退部したとはいえ会場を選んだのは僕だし、列が路上にはみ出る可能性も把握していた……。先輩達にもっと強く言うべきだった。


 ――座席つきイベントのはずが立ち見だった。


――会場内で立ち位置が誘導されなかったから、チケット番号関係なく好きな位置に移動できた。そのせいで、チケット番号が小さくても後方や端に追いやられた人がいる。


 川下先輩達はチケットを追加販売したのに告知しなかったのか……。


――イベント会場となった図書館の自動販売機はすべて売り切れになっていて、イベント会場で飲料が三〇〇円で販売されていた。


 ――飲料はすべてぬるかった。


 ――販売されていた飲料は、ラインナップを見る限り、図書館の自動販売機から買い占められたものと思われる。図書館の一般利用客が自動販売機を利用できなかったのでは? 転売と何が違う?


 ――イベント終了後に関係者と思われる人物が、売れ残ったと思われる飲料を図書館のトイレの洗面台で流しており、詰まらせていた。缶しるこやゼリー飲料などの固形物が詰まったと思われる。


 えええ……。飲料の販売なんてしたのか。


 買い占めて値段をつり上げるって最低すぎる……。


 ――ゲストとして現れたのが同じ高校の生徒らしき素人で、トークがつまらなく会場が冷え切った。


 ゲストって誰だよ。部員の誰か?


 ――よかったことといえば、ぱじめちゃんのソングステージ所属が発表されたことくらい。


 ぱじめちゃんは川下先輩のキャラクター名で、ソングステージは先輩が所属契約を結んだVTuber事務所だ。


 あれ? こういうのって、事務所よりも先に発表していいの?


 中の人の前世がデビュー前から判明しているのまずくない?


 記事を見る限り、イベントは大失敗だ。


 ざまぁ、って感じなんだけど、すっきりしないな。僕も準備は手伝っていたし……。


 なんかモヤモヤする。


 妹が寝た後、僕はYaaTubeのユウのチャンネルにアクセスした。


「あれ? なんだこれ」


 最新の動画サムネイルが、いつものファンタジー異世界『ワールドクラフト』じゃない。


 バニーガールの格好をしたユウが、黄色い液体の入ったグラスを持って微笑んでいる。


 ……なんか怪しいけど、タップしてみた。


 次の瞬間、僕は見知らぬオシャレなお店の中に立っていた。


 目の前にカウンター席があり、その向こうに、バニーガール衣装に身を包んだユウがいる。


 これはまさか、少し前に配信界隈で流行した、バニーガールと一緒にお酒を呑んで会話するゲームか。


「バニーガールの園へようこそなのじゃ~。ほれほれ。座るのじゃ」


 僕は言われたとおり、カウンター席に座る。


「……異世界を一〇〇分の一スケールにする作業が、終わらなかったの?」


「察し良すぎるのじゃ! なんで一瞬でその答えに到達したの?!」


「いや、だって、異世界で再会する流れだったのに、それが別のところに来たんだから、何かあったんだろうし……。前回も土ブロックに埋められて僕が移動できないようになっていたし、何か見られたり知られたりしたくないことがあるのかなって。そうなると、他に理由も思いつかないし、作業が終わっていないのかなって……。それで、別ゲーで気分転換でもしたいのかなと推測した感じ」


「ヒューマンをゲストにして、そのうち推理ゲーの実況ゲーでもやろうかしらなのじゃ」


「ここも、たくさんあるという配信世界の一つ?」


「そうなのじゃ。『バニーガールの園』なのじゃ。ほれ。何か飲むのじゃ?」


「僕は未成年だからお酒は無理で……」


「ゲームだから大丈夫なのじゃ。それにオレンジジュースがあるのじゃ」


「あ。じゃあ、オレンジジュースで」


「ワシも何か飲みたいのじゃ」


「飲めば?」


「そこはゲームシステム的に、ヒューマンがお金を払って買ってくれないと飲めないのじゃ」


「そのお金って、どこから出るお金? ゲーム内だけのお金だよね?」


「もろちん、ゲーム内通貨じゃから安心するのじゃ。最初は一〇万円あるから豪遊していいよ!」


「……じゃあ、ユウもオレンジジュースで」


「分かったのじゃ」


 ユウが振り返り背後の棚へ手を伸ばす。


 まずい!


 あのゲームならお酒をとるときに女の子が腰を曲げてスカートがめくれて下着が……。


 僕は視線を高くして、ユウを見ないようにした。ユウが完全なバニースーツなのかスカートなのか分からない以上、見ないにこしたことはない。


 あ、いや、スカートじゃなくてバニースーツだったとしてもお尻を見るのは気まずい。


 ……でも、ユウは向こうを向いているんだし、少しくらいなら見てもバレな――。


「お待たせなのじゃ」


「あ。ど、どうも」


「天井を見上げてたけど、どうしたのじゃ?」


「あ、いや、飛行機のプロペラというか、オシャレなものが回っているなーって」


「換気のためなのじゃ。ちなみに、ぷりっぷりのお尻だけど、パンツじゃないから安心して見てもいいよ」


 ……ッ!

 お尻を気にしていたことがバレてる?!

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