37話 僕達は元バイト先のコンビニ前に来た

 玖瑠美に電話をかけ、駐車場にいることを伝えた。


 すぐに玖瑠美がやってきた。何故か吉川先輩もいる。


「お姉ちゃん。イベントは?」


「んー。YaaTubeで見てるから動画のクオリティは知っているし、今日見たかったのはリアイベの運営能力。でも、見たかったものは見れたというか、見たいものは見れそうにないというか。ま、久しぶりに誠一郎と話したいしね。玖瑠美ちゃんもOKしてくれたし」


「うん。私もお姉ちゃんと遊ぶ」


「誠一郎は素直に『お、お姉ちゃんが、あいつらじゃなくて僕を選んでくれた。う、嬉しいブヒ』って喜びなー」


「お、お姉ちゃんが僕と一緒に来てくれるなんて、うっ、嬉しい。そ、それじゃあ、あっ、ぼっ、ぼぼ、僕の部屋に行こうね? ね?」


「きっしょ……」


「妹よ。兄をきっしょというあいつに、怒ってくれ!」


「妹を頼るの、だっさ……」


「……。先輩、同行は構いませんけど、僕達ノープランで歩いてますからね?」


「ノーブラで?!」


「妹はともかく、僕がブラしてたらアウトでしょ……。こら、玖瑠美。恥ずかしそうに胸を隠すな」


「えー。えへへ……。ねえ、お兄ちゃん、玖瑠美のブラしてて胸、苦しくない?」


「とんでもない締め付けで胸がつぶれそうだ」


「ごめんね……。玖瑠美が巨乳だったらお兄ちゃんを苦しませなかったのに……」


「仲良し兄妹の間に入って散歩。いいね。楽しそう」


「そんなのが楽しいなんて、卒業後の先輩はどれだけ退屈な人生を送ってるんですか」


「いや、楽しいし充実しているんだけど忙しくてさー。午後もちょっと仕事関係……。最近お日様浴びてないし、適当にぶらつきたい」


「やっぱ、就職してたんですね」


「どういう意味さ?」


「あ、いえ」


 さっき正面から見たとき、先輩の髪に赤と緑のメッシュが見えた。それで、少しの間いっしょにいて分かったんだけど、後ろに近い側面に青と黄のメッシュも入っている。

 そういうところが社会人っぽく見えない……。


 僕は地図を見るためスマホを取りだした。すると。


「目的地なくぶらつこ」


「別にいいですけど……。いや、別にいいですけど」


「なぜ二回も言った」


 ということで、僕達は適当にぶらつくことにした。


 女子二名が先行し、僕は後方ストーカーポジションにつく。


 何もない住宅地ではなく栄えている辺りを進むため、どうしても駅周辺になる。


「部活のときのお兄ちゃんの恥ずかしいエピソードを教えてください」


「玖瑠美、余計なことを聞くな」


「誠一郎はすっごい優秀な後輩だったよ。教えたことはすぐに覚えるし、自分でも勉強してくるし。一つ教えると次の日に、その応用を質問してくる。それに答えられるよう、こっちもいっぱい勉強した。本当に優秀な後輩だったよ。今すぐ私の仕事を手伝わせたい」


「えーえへへ。褒めすぎじゃないですか。あ。お荷物お持ちします。気が利かなくてすみません」


「そして、褒めるとこうやってキモい顔するところが、恥ずかしいところ」


「ほんとだ。お兄ちゃんキモい……」


「えへっ、えへへ……。ひでえ……」


 どうやら吉川先輩にまんまと一杯食わされたようだ。


 なお、先輩だけでなく妹まで鞄を俺に渡してきた。


 こうして他愛のない雑談をしながら歩いていると、僕がアルバイトしていたコンビニの前に辿りついた。


 さすがに突っ込んだ軽トラは撤去されたようだけど、入り口にはブルーシートが張られている。


 当然、先輩はコンビニに意識を奪われて見つめる。


「何これ。私、つい先日来たばっかりなんだけど、ここ」


「ここ、お兄ちゃんがアルバイトしてて、目の前で突っこんだんですよ」


「え? ここでバイトしてるの?」


 振り返った先輩は、驚いて目を大きくしている。くっそ、その表情、僕が引き出したかった……!


「妹よ。兄のトークデッキから、とっておきの一枚を奪うんじゃない」


「ほら。写真~」


 玖瑠美は僕が先日共有した画像を、吉川先輩に見せる。


「ねえ、それ、僕の雑談デッキにある最強カードなんだから、使わないでよ」


「別にいいでしょ。亜寿沙お姉ちゃんと初対面の私の方がデッキ貧弱なんだよ?」


「初対面でそんな親しげな呼び方ができるやつに、カードは要らないだろ……」


 僕は妹に呆れた後、先輩に画像の説明をする。


「昨日、僕がバイトしようとして事務所に入ったら、店長にクビだって言われて」


「こいつっ、ツッコミたくなることばかり言いやがって……!」


「帰ろうとして、ちょうどこの辺りに来たところで、向こうから軽トラックが突っこんできて」


 ここから僕は、まあ相手にも冗談だと通じるだろうから、イキり散らかす。


「僕はひき殺されそうになった。運転手の歪んだ表情を見て悟った。こいつは、先日、女性に絡んでいたところを僕に邪魔された奴等だって。復讐に来たんだ!」


「マ? 誠一郎が女性を助けたの?! そんなことある?」


「私は嘘だと思います。多分、道を聞かれたとか、そういうのを大げさに言ってますよ」


 目をまん丸にして驚いてくれる先輩と、呆れてじと目になる妹の反応が面白いから、僕は気分良く、大げさな身振り手振りを交えて続ける。


「迫るトラック! 前髪を掠める鉄のボディ! 命の危機に瀕した僕は極限の集中力を発揮し、ギリギリで飛び退き、事なきを得た……。めでたしめでたし」


「めでたくはないだろうに……。怪我はしてない?」


「はい。トラックが掠めたっていうのは盛っただけですし、突入時、けっこう離れた位置にいたので」


 先輩はスマホを取りだしてコンビニの写真を撮り始めた。


「ほら。あっち立って。記念撮影」


「分かりました」


 僕は駐車場に入り、コンビニが背景になるようにし、玖瑠美を呼び寄せて肩に手を回す。


「イエーイ! 彼氏君、見てる~?」


「脳破壊を試みるな。というか、即興で照れ顔になって合わせてくる玖瑠美ちゃん、凄いな。さすが兄妹」


「お兄ちゃんから、将来配信者になった時のために常日頃から敏感になれって言われているので……。敏感に……なっちゃいました……」


「お姉ちゃんの教えを大事に受け継いだ僕が色々と教えたら、こんな妹になっちゃいました。責任とってください……」


「お、おう。すまねえ……」


 先輩もコンビニを背景にして写真を撮り、撮影会は終了。


 僕達は再び歩きだす。




◆ あとがき

冬休みの間は、2~3回更新する予定ですのです、よろしくお願いします。

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