36話 漫画に出てくる生徒会長みたいな先輩と再会
「お兄ちゃん。外に行列はできないって……」
「うん。イベント用の部屋Aだけじゃなく、お客様が待機する用に部屋Bも借りたし……。なんで外にあふれてるんだ? 行列整理もしていないなんて……。まさか……」
もともと六〇人の座席ありイベントだったけど、急遽チケットの追加販売で一〇〇人の立ち見イベントになった。そのことを、会場に伝えていなくて、イベントルームAに椅子があって使えない。だから今、必死に椅子をイベントルームBに移動させている?
それか、少しでも経費を減らすために、イベントルームBをキャンセルした?
いや、しかし、いくらなんでも、そんなことして行列整理を放棄する?
お客さんだけでなく周囲の人にも迷惑がかかることが、想像できないの?
あ。
客の中に見覚えのある人がいて、目があった。
あ、いや、見覚えのある人か?
僕よりは背が低いけど平均的な女性よりも背が高く、目つきが鋭い。
ここまでは僕の記憶に合致する人がいる。
ただ、記憶にあるその人は髪が背中の半ばまであったけど、見覚えのあるような女性の髪は短いボブカットで、前髪の左右に赤と緑のメッシュを入れている。知らない人だ。
「や。誠一郎」
あ、やっぱ知ってる人だ。
「吉川先輩。お久しぶりです。髪型が変わっていて分かりませんでした」
「おいおい。お姉ちゃんだろ」
彼女、
先輩が卒業してからは、月に数回オンラインゲームを遊ぶくらいで、リアルで会うのは初だ。
就職したって聞いていたけど、大学の軽音楽部でロックしてそうな見た目に変わってる。
「配信部のイベントに来てくれたんですか?」
「そ。後輩がリアイベ開くって聞いたら、来るしかないでしょ。でも、開場が遅れるなんて、誠一郎にしては段取り悪いね。行列整理どうなってんの?」
「えっと……」
くいくいと、妹が袖を引っ張ってきた。
「ねえ、この人が、漫画に出てくる生徒会長みたいな行動力の、とんでもない先輩?」
「本人の前で言うな。聞こえてるだろ。あ。お姉ちゃん。こいつ、リア
「初めまして。お兄ちゃんの彼女の玖瑠美です」
「どうも初めまして。誠一郎の先輩の吉川亜寿沙です。……ねえ、誠一郎はこの小っちゃ可愛い彼女にお兄ちゃん呼びさせてるの?」
「いえ、マジで血の繋がったリアル妹です。それで、えっと……」
「お兄ちゃんは配信部、クビになったんです」
「え? 部活ってクビになるもんなの?」
「それが、つい先日、部室に行ったら川下先輩に『お前はクビだ』って言われて、ファンタジー漫画みたいなことになりました」
「事情は知らんけど、誠一郎がいなくてもまわるほど有能な人材が一年に入ったの?」
「あー。それは……」
ちらっと図書館周辺を見ると、リアイベのお客様が、一般客の邪魔になっているように見える。これは良くない……。
「お姉ちゃん、久しぶりだけどすみません。玖瑠美も悪い。ちょっと待ってて」
僕はペコッと頭を下げて、その場を後にした。
そして図書館の入り口正面から左側にある、裏手駐車場に繋がる細い通路に向かう。
僕はもう配信部とは無関係だけど、イベントの準備はしてきたから、それなりに思い入れはある。だから、この惨状は放っておけない。
「虹ヶ丘第三高校配信部レインボーハイスクールのリアルイベントにお越しのみなさま! 開場が遅れまして誠に申し訳ありません! これより行列整理をさせて頂きます。ご協力お願いいたします!」
僕は全力で声を張り、頭の上で手を振る。
「チケットの整理番号、一番から二〇番の方、チケットを手にした状態で、こちらにお越しください! 二一番から四〇番の方! すぐにご案内しますので、チケットを用意して、お待ちください!」
同じような文言を繰り返し頭上で腕を振っていると、若い女性がワラワラと集まってきた。
男性Vのイベントだから客層は女性が中心だ。ちょっと緊張する。
あっ……!
しまった。僕が先頭の目印になったままだと、チケットを確認しづらい……。
と思っていると――。
「ん。私も手伝うよ」
「先輩! ありがとうございます!」
「もろちん、私も!」
「外でもろちん言うな、言うたやろ」
吉川先輩と玖瑠美がやってきた。
玖瑠美が痛バッグを頭上に掲げた。これはいい目印になるぞ。
先輩が列の最後尾に向かってくれた。
これで僕は、先頭と最後尾以外を自由に動ける。
「一番の方、二番の方、三番の方」
番号を一つ一つ口にし、手で立ち位置を示して、お客様を誘導していく。
そうしていると、次第に二〇番以降の人達が、なんとなく自分の立ち位置を予測してくれたらしく、誘導しやすいところに移動しだした。
僕達は一般利用者の邪魔にならないように、行列を駐車場内の通路に誘導していく。以前、図書館の職員さんに相談したところ「車で来る人は少ないから、駐車場内の通路に誘導してほしい」と言われているため、そうしている。これで一般利用者への迷惑は最小限になっているはず。
なんとか行列はできた。あとは、歯抜けになっている人の誘導だ。
離れた位置でチケットらしき物を手にしてチラチラと行列を眺めている人がいたら声をかけて番号を確認して、行列に組みこむ。
助かった……。お客様が協力的で助かった……。
コンビニ限定ギャンダムプラモデルの発売前夜に集まる人に帰ってもらうのより、遥かに楽だった……。アレは客同士が争う地獄だったなあ。
僕が悲しき過去に浸っていると、行列が進み始めた。どうやら開場したらしい。
部員に遭遇するのは嫌だから、僕はこのまま隠れ潜もう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます