35話 仲良し兄妹だし、一緒に出かけるか!
僕は玖瑠美の通学リュックに着けられているポコラの縫いぐるみを外す。
そして人形の手で玖瑠美の肩をつつく。
「玖瑠美ちゃん。泣くのはダメポコ。元気だすポコよ」
「ううっ……。ポコラはそんなこと言わない……」
「言うだろ! お悩み相談メッセージ読みで、視聴者の悩みにちゃんと答えてくれるだろ。お前の中でポコラはどうなってんだ」
「うぐっ……ひぐっ……」
「ほら。ポコラだったらなんて言うんだ?」
「ふぐぅ……。っ……」
玖瑠美の嗚咽が落ちついてきたから、僕はもう一回、ポコラの真似をする。
「はいはい次のメッセージポコ~。『お兄ちゃんが部活とアルバイトから追放されて可哀相です。ポコラちゃん励ましてあげてください』」
玖瑠美は鼻をすすりながら僕の手からポコラ人形を取り、左右に揺らす。
「はあ? お前の兄ちゃんなんて知らねえよ! それよりもポコラが作った朝食、早く食べろや! ポコちゃんの手料理やぞ!」
「リスナーには言わんやろ! それは同期とオフコラボしているとき限定だ!」
「だって。お兄ちゃんは毎日、玖瑠美と仲良しのオフコラボだもん……」
「その発想はなかった……。ありがとうな。食べるよ」
「うん」
僕達は朝食を取った。
玖瑠美は早起きして、ネットで調べたレシピでホットサンドを作ってくれていたようだ。
無言だったが、不思議と心地よい時間だった。
「僕は行けないけど、玖瑠美は行ってきていいよ」
「……行かない。お兄ちゃんを退部にした人達のイベントなんて見たくない」
「でも、チケット買ったし……」
「行かない」
「いい服を着たでしょ」
「うん。だから出掛ける。でも、イベントには行かない」
「そっか。分かった」
玖瑠美が出掛けている間、僕はゲーム世界にでも行くか。
「じゃ、ちょっと寝るよ。なんか寝たりないし」
「え? なんで? お兄ちゃんも出掛けるんだよ」
「え?」
「私みたいな可愛い子がおしゃれしてるんだもん。絶対にナンパされるでしょ。お兄ちゃんが一緒にいてくれないと困る」
「……まあ、確かに。じゃあ、行くか」
普段、スーパーに買い物に行っているから、一緒に出掛けることにはなんの抵抗もない。
僕は妹チョイスによる白パーカーと黒パンツで、なんとなくペアルックっぽい格好に着替えた。
しかも、靴までそっくりなんだよなあ。以前「なんで女子が男子と似たスニーカーを履くんだ」と指摘したら「お兄。女子の足下を見てみ」と言われたことがある。そして、女子ってけっこうゴツい靴を履いている子が多いという学びを得た。
まあ、兄妹で服と靴がおそろいだけど、ポコラの缶バッジでデコッた玖瑠美のバッグのインパクトが強いから、ペアルック感はそんなに出ないだろう。
い、妹とペアルック~とからかってきそうな友人は、土曜の午前中から外出なんてせずに家に籠もっているだろうし、見られる心配もない。
家を出た僕達は、とりあえず最寄り駅の方に向かって歩いた。
「どこ行こっか」
「んー。こっち」
「電車には乗らん感じ?」
「うん。一応、お兄ちゃんプロデュースのイベントに行列ができてるか見て、ひよこしてこよ」
「ひやかしな」
僕達は駅を通り過ぎて、一つ先の区画へ向かう。
「多分だけど、行列はできないと思うよ。図書館の周りにリスナーが集まって通行人の邪魔にならないように対策はしてあるから」
「そうなの?」
「うん。図書館にはイベントホールがあって、今回はイベントルームAをレンタルしたんだけど、Bも朝の一コマだけ借りていて、お客様はそこに待機してもらうことになってる」
「そうなんだ。ねえ、機材ってどうしたの?」
「普通に図書館で借りたよ」
「借りれるの?」
「うん。ほら、図書館ってDVDとかCDもレンタルできるでしょ。もともと視聴覚室もあるし、プロジェクターとか機材はあるんだよ。さすがに、大手企業がイベントで使うような凄いやつはないけど、学生がイベントで使う分にはなんの問題もないし」
「そうなんだ。あれ?」
「ん?」
図書館の前に人だかりがある。
配信部のリアイベ以外だと『折り紙で動物園を作ろう』というファミリー向けイベントの予定があったけど、そのお客様にしては雰囲気が違う。
若い女性ばかりだ。ちらほらと痛バッグやデコうちわを持っている人や、コスプレっぽいゴスロリみたいな人なんかもいる。
え?
まさかこれ、配信部のリアイベのお客さん?
なんで待機室に入れずに、外で行列崩壊してるの?
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